第36話 THE END
中村さんのまわりを氷柱が囲む。
動きと視界が封じられた。
寺田は気配を殺し悟られないように構える。
ここで俺が声を出したら標的が俺に移ってしまいそうだ……
こんな状態でも今の中村さんが危ないとは思えない、これまでの流れから中村さんの方が何枚も技量が上だとわかったからなのかな。
氷柱とともに中村さんに向けナギナタを突き刺すが、やはり危なげなくナギナタを弾き返した。
さらにまとわりつく氷柱も切り崩していき、足場はクリアになった。
はじめよりもさらに強くなってきてる気がする。
スキルが馴染んできてるのかもしれない。
寺田は体力の消耗と自分のスキルの通用しない焦りからか脂汗をダラダラと流していた。
「ねえ、いつまで遊んでるの? いい加減にしてよ」
「ぐ……っ」
「アンタほんとに強いの? あんな小娘相手にそんなに汗までかいて」
寺田が黒沢の罵声に言い返せない、相当プライドが傷ついてそうだ……
ナギナタを握り直した、また攻撃を仕掛ける気だ。
「くそぉぉぉぉぉ!」
火の玉を放ちながら寺田自身も突っ込んでくる。
それを前にしても中村さんは落ち着いていた。
まるで申し合わせでもしてるように火の玉を斬り、ナギナタを弾く、まったく無駄のない動作に見惚れてしまいそうになる。
バランスを崩した寺田は中村さんの前で転び膝をついた。
チャンスだ! ここで寺田を倒してしまえれば!
ーーあれ?
中村さんもチャンスだとはわかっているのか剣を振りかざしてはいるけど、そのままの状態でとまどっていた。
「寺田さん……」
中村さんが唇を噛み締めている。
そっか……こんな形になってしまったけど、うちのチームのリーダーだもんな……殺したくなんてないよな、あいつは殺意全開だったけど……
ためらう中村さんを見て寺田は這いつくばって距離を取った。
せっかくのチャンスだったけど、俺だって殺しなんてしたくない、いくら異空間とはいえ当たり前のように殺せるこいつらがおかしいんだ……
寺田は体勢を立て直して構えを取ったがいままでの威勢はなくなっていた。
攻めても崩せないことは多分理解したんだろう、中村さんも攻め気が無いせいで硬直状態となってしまった。
緊張感のある沈黙が続いた。
息ひとつついただけでも刺し殺されそうな空気だ……
「えっ……ウソ……」
空気を変えたのは黒沢のつぶやきだった。
中村さんと寺田の間には何も起きてない、別の何かを黒沢が見つけたみたいだ。
「マネージャー! 来てるよ!」
マネージャーが!?
一気に血の気が引いた、ずっといなかったマネージャーが黒沢の目線に立っていた。
とはいえ様子はおかしい、マネージャー自体はこっちに来たくないように踏みとどまっているのに無理やり引っ張られて近づいてきてるように見える。
「俺から離れろ! 死ぬぞ!」
距離にしてまだ50メートルは離れてるだろうところからマネージャーは叫んだ。
「マネージャーかよ」
「本当だ……」
寺田と中村さんもマネージャーに気付いたようだ。
ここにいるみんなに見られるやいなや、マネージャーは急にスピードを上げて、というよりも吹き飛ばされるように浮き上がり近寄ってきた。
「あぶない!」
即座に危険を察知できたのは中村さんだけだった。
俺の目の前で剣を振ると、ガキンと大きな金属音が響いた。
その直後俺の真横のコンクリートが大きく減り込み砕け散った。
なんだこれ……
目の前に大きなドラム缶くらいはありそうな分銅のような形をした物体がそびえたっていた。 俺はこれに潰されそうになっていたのか……中村さんが守ってくれなかったら即死だった……
この物体が動きだしマネージャーの近くまでいくとフッと見えなくなった。
紐のようなものでマネージャーと繋がっていたような……
今の分銅みたいなやつが嫌がるマネージャーを無理やり引っ張ったり、俺を殺そうとしてたのか?
そんなこと探るよりもだ……あの物体攻撃してくる速度が異常に早かったぞ……
俺にはまったく目で追えない速さだった。
中村さんがまた守ってくれないと次は……
げっ!?
ウソだろ、中村さんの剣が折れてしまっている……
根元からポッキリと折れてもう使えそうにない……
「すいません……今の攻撃で……」
俺を守ってくれたのに中村さんは申し訳なさそうだ。
「いや、ぜんぜ……」
「何やってるのよ! 早くマネージャーを倒しに行って!」
俺が中村さんへのフォローは黒沢の怒号で遮られた。
「そうか、わかった!」
思い出したかのように、慌てて寺田はマネージャーに向かっていく。
「寺田、来るな! お前じゃない!」
マネージャーの声を聞き寺田は立ち止まる、お前じゃない?
「箕輪逃げろ! 『ジ・エンド』に狙われてるのはお前だ!」
俺?
マネージャー、今俺が狙われてるって言ったよな?
確かにさっきの攻撃も俺を狙ってきてた、ここにいる4人の中で俺だけを狙ってきてるのかよ……
マネージャーの体の上にまた大きな物体が浮き上がるように現れた。
ジ・エンドって言ってたよな……?
「ボケッとしてるんじゃない! さっさとこの場からいなくなれ!」
喉が張り裂けるような大声でマネージャーが俺に怒鳴った。
そこから先はスローモーションの様にゆっくりだった。
打ち上げ花火みたいにマネージャーの背中からジ・エンドと呼ばれた物体が上昇して、俺の頭上まで来た後に急降下して向かってきた。
あっ俺死ぬんだ……
疑う余地もないほど圧倒的な死が迫ってきていることに恐怖すらなかった。
こんなことなら中村さんともっと話しとけばよかったなぁ……
目の前がパッと明るくなった……
あれ……痛くない、死ぬってこんなものなのか……
すごい眩しいけど、これって天国なのかな?
何も見えない……
「箕輪さん!」
……ん?
もしかして天使か? ずいぶんゴツい声だな……
「箕輪さん、大丈夫ですか!?」
えっ? あれ……この声聞き覚えがある。
眩しすぎて見えないけど、もしかして……
「河合?」
「そうです! 間一髪ですけど間に合いました!」
間に合った?
えっ……俺、生きてるの?
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