第39話 第二の矢

マネージャーの射程範囲内に入ってしまっている。

いつ高速の攻撃が飛んできてもおかしくない。

最大限まで集中を高めた竹内は呼吸をすることも忘れていた。


「嫌だ、もう見たくない……頼むよ、誰も殺さないでくれ……」


マネージャーは頭を抱え塞ぎ込んでいて何も見ようとせず現実逃避していた。


その姿を見ても竹内の集中が途切れることはなかった。

間違いなく副島に向けて攻撃が来る、そう確信していた。



マネージャーの着ているスーツの肩部分が上から引っ張られるように浮き上がった。



来る!


竹内は副島に向けて走り出す。


副島が竹内が動き出したと認識した瞬間にはもうすでに目の前までたどり着いていた。

マネージャーのスキル『ジ・エンド』とは比べようもないが、普通の身体能力を持つ副島からは竹内が瞬間移動したように見えるほどのスピードだった。


竹内の顔からは大量に汗がしたたり落ちていく。


何故竹内が近寄ってきたのか、竹内のこの異常な汗は何なのか……

何もわからないが、妙な緊張感で聞くこともできずに少しの沈黙が流れた。


竹内が大きく息を吐きだした。


「いやぁ……間一髪だった」


そういうと竹内の顔は一気に緩み、副島のよく知る表情となった。


「今、何が起きているのですか……?」


副島はようやく質問することができた、それに対し竹内は上空を指差す。


「ほら、そこに……」


副島の数メートル上空には巨大な分銅のような物体が浮かんでいた。


「な、なんだこれは!?」


見上げた副島が目を丸くした。


「これがマネージャーのスキル、ジ・エンドって言ってたやつですね」


上田も駆けつけ、宙に浮くジ・エンドを眺める。


「ふざけた名前だ……でもこれさえ無くなればこのくだらないゲームは終われるはず……」


今回の件は竹内がジ・エンドを発現させるために実行したものだった。


超スピードで攻撃にくるジ・エンドだが前回も杉原の時も現れた瞬間は攻撃をしてこなかった、高い威力を持つ素早い攻撃ではあるが発動に時間がかかる。


ジ・エンド本体を炙り出したかった竹内はジ・エンドが発動した瞬間に近付き、浮遊スキルで抵抗不能の浮遊状態にさせる作戦だった。


「うまくいったんですね」


「多分ね……」


副島の言葉に竹内は軽く返事をした。


「結構な冒険でしたよ……浮遊スキルが人に効果があるのは若井さんでわかってましたけど、スキルに効果がなければ副島さん死んでましたよ……」


「えっ……」副島は自分が確証のない賭けに乗せられていたことにようやく気がついた。


「俺ってこういう勘は当たるんだよな、効果あるって思ったんだ」


「まあ、そうですけどね……」


竹内のとっさの提案はなぜか昔からうまくいくことが多かった、根拠など当然ないが上田は妙に納得していた。


それとは裏腹にマネージャーはいまだに塞ぎ込んだまま周りを見ようとしていなかった。

まるで状況は何一つ変わっていないと言っているかのように……



「あとはこの塊を破壊しさえすれば終了だ」


竹内の言葉に上田は黒沢が言っていた元の世界に戻れるのはマネージャーを殺したものだけかもしれないということを思い出した。


「本当に大丈夫でしょうか?」


不安が過ぎっていた、もし竹内ひとりが元の世界に戻った場合、残された自分はどうなるのだろうか。


「多分ね……」


いつもの竹内の提案だ、普段なら上田もなんとなく信じてしまっていたが究極の局面に立ち黒い気持ちが芽生え出していた。


竹内がナイフを取り出した。


「硬いところは切れないかもしれないけど、この紐ならいけるだろ」


マネージャーとジ・エンドの間には紐のようなもので結ばれている、竹内はそれに向けてナイフを振り落とそうとした。


「待って!」


ナイフを振り下ろそうとする竹内の体を上田が静止する。



全くの同時刻、マネージャーの肩がまた上に引っ張られるように持ち上がった。


ーーそれじゃまだダメだーー


聞き取れないほどの小声でマネージャーはボソボソと呟いている。




一瞬の出来事だった……






副島は震えていた。

目の前で起きた惨劇を受け入れ切れずに口を開け立ち竦んでいた。



竹内がいた場所の地面にはそこが見えないほど深く大きな穴があいていた。

第二のジ・エンド、ひとつ目のジ・エンドを破壊しようとした際に発動した防衛用のスキル、竹内はそれに狙われてしまっていた。



「……っ、上田ちゃん、だ、大丈夫……?」


それでも竹内は生きていた。


自分を狙って来た第二のジ・エンドを察知しその場にいた上田を引き離し致命傷を免れる位置まで距離を取った。

とっさであったため、上田の無事までは確認できなかった、そして……


使い続けることでスキルレベルが上がっていた竹内の走力スキルで致命傷こそ受けずにいたが、右半身が削り取られてしまっていた。


右半身の肩から股にかけてを失い、臓器がはみ出し大量に出血をしながらも上田を探すが見つからない。

横たわったまま、首もろくに動かすこともできなくなっていたたがそれでも竹内は上田を守ろうと必死だった。



そんな竹内を見下ろすように死角となる位置で上田は立っていた。


竹内の言葉に返事をせず手にはナイフを握りしめている。


何も言わないまま、手にしたナイフを竹内の心臓に突き刺した。


「どうせ死ぬんだ、俺のスキルになった方がいいだろ……」




その言葉が竹内に聞こえたのかは定かではない、すでに死が目前まで迫っていた竹内が上田にやられたことすら認識できたのかも不明だ、竹内は最後の最後に「ちがう」と言い残し息を引き取った。



死亡者

竹内 浩二

刺殺(上田 耕助)


残り8名

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