第40話 にじみ出る殺意

上田の手にするナイフには生々しく竹内の血が流れている。


考えの違い、そういうには残酷すぎる結末だった。


現状把握を素早く行い、最善の策でこの空間から脱出する。

竹内も上田ともにその点では同意見だった、しかし竹内の本質はあくまで全員生還であったため、自らに危険が迫っていてもマネージャーを含めた全員での復帰を優先した。

その点で上田は竹内と比べ個人主義的な部分が強かったため危険が迫った時、危険をかえりみてまで仲間を優先することができなかった。


「沢山仲間が死んだせいであなたは焦りすぎてしまったんだ……」


冷たくなった竹内に上田は冷酷に投げかける。


「上田さん……なんてことを……」


副島が震える声で問いかける。

上田を警戒し無意識に筋力スキルで筋肉の守りをかためていた。


そんな副島のことに見向きもせず、上田は周囲を見渡した。


「マネージャーがいない、この場は離脱したのか……」


ターゲットである副島は生きている、にもかかわらず姿をくらました、不可解ではあるがこれ以上の詮索はあきらめた。


竹内がいなくなった、最終的に手をくだしてしまったがみすみす死を看取ることと少しでも自分に有利になるように行動すること。 どちらが最終的に有益かなどあえていうまでもないことだ、重要で偉大な人物であったことは間違いないが、いなくなってしまったことをなげいていても戻ってくるものはない。

上田の冷酷な判断は与えられた知能スキルによってのものなのか、本人が隠し持つ残虐性によるものなのかは上田本人にもわからなかった。


共に進んできた仲間に手をかけてしまったことで上田のリミッターは外れてしまった。

なんとしても元の世界に戻ってみせる、そのための犠牲はためらわない。



上田は副島に体を向けた。


突然振り向かれたことで副島はビクッと体を震わせたが、急いで臨戦態勢をとった。


ごく普通のサラリーマンをしている副島がこれまでの人生で誰かに殺されることなど意識したことはない。

その副島でも今の上田に向けられている隠す気のない殺意は十二分に理解できた。


(俺だって死にたくはない!)


迎え撃つ気持ちの整理はついた。



上田は副島にナイフを投げつけた。



想定内の攻撃だった、腕で首と心臓を庇うように身を守ると、ナイフは心臓を守った左腕に刺さる。

軽い出血こそしたものの筋力スキルでついた分厚い筋肉に守られダメージはほとんどない。


この程度の攻撃なのか?

副島は上田の戦闘能力を過大評価していたため、肩透かしを受けたような気分だった。


上田は別のナイフを持ち直しているが、副島に恐れはなかった。


この程度のナイフなら何度投げられてもやられることはない。

スキルの力で勝っているなら怯える必要はないはずだ!


副島は上田に向かっていく。


殺すつもりはない、生きているなら説得することができる。


多少荒くなってでも上田を正気に戻させ、竹内の意思を継ぎみんなで元の世界に戻る。

副島はそう決意していた。


向かってくる副島に対し上田は再度ナイフを投げつけるが、分厚い筋肉に大きな傷がつくことはなかった。


副島は大きくふりかぶり、上田を殴りつけた。



地面を転がりながら上田は吹き飛んでいく。



「く……痛っ……」


そういいながら上田は左腕を抑えながら立ち上がる。


沖田と同じ筋力スキルを持つ副島だが、空手をしていた訳でもなく、スキルもこれまでほとんど使用していなかったため、一撃で殺すほどの威力はだせなかった。


「命まで奪う気はないです、でも骨が折れるくらいは覚悟してもらいます」


副島は上田に詰め寄っていく。


上田は殴られた腕の感触を確認していた。

折れてはいないが痛みで動かない、しばらくは使えないだろう。


片手で服をまさぐっているナイフを探しているが見つからない、もう使い果たしてしまったようだ。


丸腰の状態で、上田は慌ててだした。


「くそっ!」


副島に背を向けて走り出した。


「あっ! 待て!」


逃げた、打つ手がなくなったか?


ここで逃したら何をするかわからない、副島は絶対に逃すつもりはなかった。



筋力のついた副島は足も早くなっていた。


即座に追いつき上田の手を掴む。



「離せ!」


必死の表情で上田は抵抗する。


ここでやめたら上田を説得できない、副島も真剣だった。




(熱い……!?)


必死で抵抗する上田を抑えていると、副島の左脇に違和感を覚えた。


ナイフが刺さっている。

上田はもう一本隠し持っていたようだ。


力が緩んだ隙に上田は副島から離脱した。


「しまった!」


傷自体は全く問題ない、それよりも絶対に上田を逃すわけにはいかない。



離れた上田を捕まえようと上田に迫っていく。




「残念だったな……」



上田の声が聞こえたとき、副島の体は深く沈みだした。



「えっ……穴?」



竹内に向けて放たれたジ・エンドが作った奥の見えない深い穴、副島はそこに落ちていた。



何故自分だけ落ちていくのか? 穴に落ちるなら同じ場所にいる上田も落ちるはずでは……



底に向け落ちながら上を見た副島は唖然とした。



上田が浮いている。

上田ははじめからこうすることが目的だった。




「結構いい演技だったろ?」



見えなくなるほど深く落ちた副島に向け上田はつぶやいた。


「皮肉だよな……浮遊スキルの竹内さんを殺して飛翔スキルを得るなんて」


上田が穴に落ちずにいたのは直前に得た飛翔スキルで浮かび上がっていたためだった。





奥の見えない穴で底に激突した音も聞こえない……

だが上田は新たなスキルを手にし、副島の死を確信した。



「また……攻撃に使えないスキルか、ついてないな……」


上田は『飛翔』に続き『読心術』を手に入れた。



死亡者

副島 政彦

圧殺(上田 耕助)


残り7名

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