第38話 次の標的

「時間がないからはっきりと言わせて貰う」


竹内が副島を諭すように話しかけている。


マネージャーを見失った公園で副島と合流し竹内は重要な話を打ち明けようとしていた。


「そんなことより、河合さんを見つけないと」


マネージャーがいなくなった直後、追いかけるように河合はいなくなった。

このゲームが始まって以来、ずっと共にいた河合がいなくなったことで副島は過剰に心配をしていた。


河合は副島にスキルを見せていなかった。

正確には副島は信頼し合うためといい、あえてスキルは知らないでおこうと河合に言っていたためもありスキルを披露する機会がなかった。


「河合くんは今、箕輪ちゃんと一緒のはずです……」


上田が聴覚スキルで把握した状況を副島に伝える。

なぜ上田にそれがわかるのか、副島は知る由もなかったがそこは聞こうとはしなかった。


「無事なんですね?」


副島にとって大事なのは河合と一緒にいることではなく、一緒にいた者が目を離した隙に不慮の事故にあっていないかという心配によるものであり、無事であることがわかれば十分だった。


上田は普段から仕事も真面目でリーダー達やマネージャーからの信頼も厚い、その上田が言っているのあれば信用できる。

副島と上田は日常的な接点はさほどない、むしろ副島は自分の世界に入り込んでいることが多いため、日常でも特別誰かと接していることは少ない、そんな副島が信頼をするしないを決めるのは仕事ができる者かできない者かいう部分のみであった。


一緒にいた河合は要領がよく、誰とでもフランクに接することができる者ではあるが、若さもあり仕事にムラがある、副島の信頼する観点としては上田に比べ河合への信頼感は低かった。


「で、いいか副島さん、大事な話があるんだ」


竹内が再度話を切り出すと副島は顔を引きしめ「はい」とうなづいた。


副島の反応を見て、竹内は一呼吸置いてから話を始める。


「マネージャーについてだ、マネージャーはある条件で俺達の仲間を殺し回っている、今俺と上田ちゃんがここにいるのもマネージャーを追ってきたからなんだ」


「えっ、ここにマネージャーが来てたんですか?」


副島はマネージャーがいたことを知らない、その姿を見て竹内は次に狙われる可能性についての確信をさらに高めた。


「マネージャーはおそらく、このゲームに、もっと言うと殺しあいに参加しようとしていない者から順に殺し回っている、残りのチームメイトを考えると今一番狙われる可能性があるのは副島さんだと考えている」


竹内の話を聞き、副島は驚きを隠せなかった。


「でもわかりません、そのマネージャーが私を狙ってきたのにいなくなったんですよね? それはどういう理由だとお考えですか?」


「それは副島さんよりも先に狙うべきターゲットが現れたせいだと思います。 このゲームに一番積極的に参加していないのはおそらく箕輪ちゃんです、ですけど箕輪ちゃんは別空間に逃げるスキルを持っているみたいでそこにいる間は狙われる対象から外れる。 マネージャーは副島さんを狙っているときに偶然外にでた箕輪ちゃんを感知してターゲットを移した、公園からいなくなったのはそのせいだと分析してます」


上田が話に割り込み説明した。

聴覚スキルを使い耳を澄ましマネージャーやあたりの動向を確認していた上田は音の情報だけではあるが、周囲で何が起きているかを大まかに把握できていた。



「そこへ行った河合さんが今無事だということは箕輪さんはまたその別空間に戻ったということですね?」


副島は眼鏡をクイっと指で持ち上げた。


「さすが副島さん、察しがいいな……ということで狙うべきターゲットがいなくなった今やっぱり狙われるのは……」


竹内は人差し指を地面に向け「ここだ」とアピールした。



「話は分かったのですが、私はどうすれば? このまま井上マネージャーが現れたら殺されてしまうということですよね?」


副島は冷静に話を飲みこうとしているが自分に死が迫っていることまでは許容できなかった。


「副島さんにやってもらいたいことっていうのはないんだ、ただ作戦を知っていてもらいたかった……」


「竹内さんを信じていればいいんですよね?」


竹内は思い詰めたような険しい表情になった。


「こんなくだらないゲームでもう仲間が半分くらい死んでしまった……俺は残る全員で必ず生きて帰りたいんだ、だから危険なことはわかっているが協力してほしい……」


唇を噛みしめ、強く握りしめた拳が震えている……竹内の悲痛な想いは副島にも十分伝わっていた。

副島は再び指で眼鏡を持ち上げる。


「全く問題ありません、竹内さんと河合さんのことは初めから信頼していますから」


返事を受けて、竹内は小さく噛み締めるようにうなずいた。



「来ます……」


耳に手を当て、周囲の音を察知していた上田が呟いた。



3人に緊張が走る。


準備も何もない、マネージャーが来た時点で覚悟を決めなければならない。



3人がいる位置から10数メートル離れた上空から高速でマネージャーを降り立った。



「上からかよ……」


派手な登場の仕方に竹内は若干の戸惑いを見せた。

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