第26話 闇夜に紛れ殺意は流れる
時はさかのぼり、ゲーム開始1日目の深夜。
小島と山田を飲み込んだ料亭の炎がようやく鎮火し黒煙が燻り始めたころのことだった。
ゲームをファントムは料亭の火災状況の確認をしていた。
「フフフ……中々思い切ったことをする、初日でここまでのことが起こるなんて楽しめそうだな」
若井の存在はゲームを混乱させていたが、主催しているファントム達にとって積極的に参加しようとする者はむしろ歓迎すべき存在だった。
だからといって若井のような乗り気な者をひいきするようなことはないが、潤滑にゲームを遂行するための要因としてこの火事はファントムにとって喜ぶべきことだった。
「ん……?」
気配……
ファントムは何者かに見られているような気配を感じた。
主催者として存在しているファントムではあるが特別な人間という訳ではなかった。
ゲーム参加者と同じようにスキルを所持している人間だ。
ただ、この空間に元々存在する人物。
所持するスキルの概要、数など不明な点は多い。
このゲーム中でファントムがやるべきことはゲーム開始時の説明と死んだ者の処理だった。
基本的に殺し合いをするとなれば、人は他人との接触を避けようと行動をとる、目立つ場所にいこうとする者など、自然に減るため、ファントムは火事の現場というランドマークにいることで若干の油断をしていた。
(誰かに見つかってしまうのはまずい、俺自身が参加者を殺すことはあってはならない……あたりには誰も見当たらない、誰かが偶然通り過ぎただけかもしれないが、うかつだった、気をつけよう……)
ゲーム参加者に『いなくなったマネージャーを殺すこと』というルールがあるように主催側のファントムにもルールがあった、それが『参加者に見つかってはいけない』ということだった。
ファントムは死んでいる小島と山田の死体の処理を諦め身を隠すことにした。
主催者側もゲーム実施中はゲームエリア内にいることになっていて、デバッグルームなどの特別なスキルを持っていなければ主催といえども参加者となんら変わりなく身を隠しながら行動することになっている。
ただ1つ、主催側としと与えられた特権として住宅街にあるある一軒を特別に待機場所として与えられていた。
この深夜帯、下手に動き回るより、時間をおいてから処理を行う方が見つかるリスクは低いと考えたファントムは待機場所のある武蔵丸子から北西にある、住宅街へ向かっていた。
待機場所が近くなった時、ファントムは最大限に警戒をし周囲を見渡した。
(ここだけば絶対に参加者にバレてはいけない……)
火災現場で感じた気配の正体も掴めていない、得体の知れない不安がファントムにはあった。
カチッと小石の動くような音が聞こえてきた。
(誰だ!? 風の対流で今のような音はしない……やはり誰がいる)
今度はファントムの上空から風のように駆け抜けるような音がした。
「いるな……」
(僕の存在を把握している者がいる……そしてこの場所まで来てしまった。 僕の存在はともかく、待機場所が見つかってしまうことは絶対に許されない)
住宅の屋根を忍者のように素早く飛び越えてファントムの周辺を飛び回る者がいる。
「何が目的だ……」
ファントムの心に苛立ちが出てきていた。
(本来主催側が参加者を殺すことなどあるべきではない……が殺してはいけないなんてルールはない、ゲームを円滑に侵攻するためここはこいつを……)
住宅を飛び回る影がファントムの頭上に差し迫った時、ファントムはスキルを作動させた。
『引力』スキル。
会議室でも使用したファントムをここでも発動させた。
ファントムの頭上の影は進路を急激に変え、ファントムに向かっていった。
「んっ!?」
ファントムは近づいてくる影にとっさに回避した。
かわされた影は地面にあたり、金属音を立て転がった。
影の正体はスーツの上衣に隠された、ナイフだった。
「罠か……はっ!?」
間一髪で回避したつもりになっていたファントムの背中にナイフが刺さっている。
回避したファントムに合わせてナイフをねじ込まれていた。
「ちっ!」
刺さったナイフを抜き取り、地面に投げ捨てた。
刺さった部位は真っ赤に染まっているが、致命傷ではなさそうだ。
「でてこい!」
ファントムは冷静さを失っていた。
再度上空に影が見える。
「また罠なんだろ? 何度も食らうかよ!」
スキルを使って引き寄せればまた危険が伴う、ファントムは上空をじっくりと見極めようと目を凝らした。
「なに!?」
今度は大量のナイフが束になって空から降ってきた。
スキルで引きよせようが関係ない、気付いたときにはすでに回避が手遅れになり、ナイフがファントムに刺さっていった。
ナイフが通過していったファントムは地面に倒れこむ。
「痛いだろ……お前のせいで亡くなった渡辺さんの忘れ形見は」
もうろうとする意識の中、ファントム前に現れたのは竹内だった。
「フロンティア…………もうし……わけ…あ……」
途切れ途切れの言葉を必死に繋ごうとするファントムの脳天に竹内はナイフを突き刺した。
仲間といるときには見せたことのないような冷酷な表情をしている。
「フロンティア? 誰かのこいつらのボスのなか? どうせ聴いたって言わないだろうな……」
竹内はファントムに刺したナイフを抜き取り、散らばったナイフも拾いだした。
その途中で、竹内の体に異変が起こる。
「あぁ、これが殺したときに手に入るスキルってやつか」
『無重力』
こうしてこのスキルを手に入れることになったのだった。
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