第2話 みんな一斉にあの夢を見た?
あっ、会議室に戻ってきてる……
さっきの白い空間での事はなんだったんだ?
やっぱり夢か……会議開始早々ガッツリ夢を見るなんて俺もだいぶ極まってきたな……
でも、何か変だ……みんなどこか落ち着きなくソワソワしたり、辺りを確認しているような……
「あれ? 井上マネージャーがいない」
ほんとだ、ついさっきまでいたはずなのに。
品質評価チームの金子のつぶやきで全員、マネージャーがいなくなっていることに気がついたようだ。
トイレにでも行ったか?
でもそれを誰も認識してないってのいうのは変だ、そもそもこの会議自体、マネージャーの話が9割くらい締めている、そんな人がいなくなって誰も気付かない訳がない。
まさか偶然みんな一斉に寝てしまったせいで、マネージャー怒って出て行っちゃったんじゃ……
「突然なんだけどさ、俺、今変な夢みたいなのを見たんだよ」
ざわつく中、品質評価チームのリーダー小島が口を開いた。
この男、いつも出しゃばりな金子に押されて普段はそこまで口数は多くないが、本来物静かな人間ではないと聞いたことがある。
昔はうちの会社の宴会担当的なポジションで全社員が集まる場所での司会や盛り上げ役をやるようなタイプだったらしい、そのせいか普段から軽いジョーク混じりの事を言うが、時代が変わったのかチームとの相性なのか、チームメンバー、特に金子に冷たい目で見られリーダーなのに孤立している。
もしかして、この人も俺と同じあの変な夢を?
全員の視線が一斉に小島に集まった、違和感を感じたのは俺だけじゃなかったんだ……
「もしかしてそれって、扉の?」
竹内が小島に質問すると、ダムが決壊するかのように他の者達も一気に話し出した。
「俺もだ、金色の扉が急に現れてさ」
「金色? 自分は普通の木の扉だったような……」
ザワザワと全員がそれぞれ話をする中、第一チームのリーダー寺田とチームメンバーの副島の話が聞こえた。
そういや俺はやたら派手な扉だったな、人によって扉が違うのか。
それよりも気になるのは扉の後のことだ。
第二チームの沖田が竹内に話しかける。
「扉の後なんですけど、スリルっていったかな、なんか頭の中で変な声が聞こえたんですけど」
「スリルじゃなくてスキルじゃなかったか?」
「あっ、それそれ、それです」
沖田は冗談なのか本気なのかわからないトーンで竹内と話しだした。
「筋力アップってスキルを俺は与えられたらしいです、そのせいかさっきから力が溢れてくるような」
「本当かぁ沖田ちゃん? いつも筋トレしてるせいじゃないの?」
「ニヒヒ、そうなんですけどそれとは違って違和感があるくらい体に力がみなぎってるっていうか、変な感じで……」
「じゃあ今、ここにいるみんなが見たかもしれない変な夢のようなものが現実に影響してるってことなのか」
沖田はいつも軽口で冗談ばかり言っているが、竹内に嘘をつくようなタイプじゃない、ワイルドな顔立ちで口を開けば下ネタを言って茶化してくることもあるけど仕事に関してはかなり真面目だし、こんなところで周りを混乱させることをワザと言うようなことはしないはず。
会議室がさらにざわめきたった。
「俺は氷結スキルだったかな、魔法みたいなことでもできるのかもな」
寺田が自慢気に大きな声で言う。
「へぇすごそう、私は走力スキルだって……足が速くなってもイマイチよねぇ……」
金子は走力スキルらしい、みんなそれぞれ違うスキルを与えられているんだな、筋力、氷結、走力、ってなんとなくどんな能力かイメージできるけど、デバッグルームってなんだ? もしかして一番外れスキルを引いたんじゃ……
「ねえねえ、かなちゃんはなんのスキルだったの?」
金子は続けて、第一チーム唯一の女性、中村さんに声をかけた。
「えっ……私は…………そんな自慢できるようなスキルじゃないです」
「私だって自慢なんてできるようなスキルじゃないから大丈夫だよ」
「すいません、言ったら笑われそうなんで……いいです」
「そう……言いたくないならいいけど……」
そんなに言いたくないスキルってなんだ……? アネゴ肌な金子は口数の少ない中村さんにも割と話しかけていくけどいつ見てもこんな感じで釣れない会話になっている。
チグハグに見えるけど、これで成り立ってる関係なのかな。
「静かにしろ! 会議中だぞ!」
突然馬鹿でかい声が会議室に鳴り響いた。
一瞬で浮ついた部屋が静まる。
若井だ、この人またやっちゃってるよ……
別に悪い人ではないんだけど、融通が効かないって言うか、なんだか変なところで細かかったり神経質なところがあるんだよなぁ。
上にも食ってかかったりするから、周りからは問題児扱いされている困った人だ。
井上マネージャーもいないんだし、変な夢みたいなのも気になるんだからここで締めてもしょうがないと思うんだけどなぁ、特に上の立場って訳でもないんだし変なことしなければいいのに……
若井の一言で一気に険悪な雰囲気だ……
こう言う時の金子はまずい……普段から金子と若井は犬猿の仲なのにこの状況であの発言は最悪だ、見なくても金子が鬼の形相をしているのが分かる……
沈黙が続いた……
金子が食ってかからなかったお陰で、下品な罵り合いにはならずに済んだけど、未だ空気は凍りついている。
本当に井上マネージャーはどこへ行ったんだ?
頼むから早く帰ってきてくれぇ……
まさか……もしかしてだけど、マネージャーもこの変な現象の何かに巻き込まれたんじゃ……
んっ……?
金属音だ。
鉄板のようなものを手から地面に落としているような音が聞こえる。
「えぇぇ! 渡辺さんすごい!」
第二チームの渡辺を見ると、手の平からナイフが浮き上がってきている、手品? この人にそんな特技があるなんて聞いたことないぞ。
「なんでこんなことできるの? もしかしてスキルっていうのを使ってるんですか?」
驚きの声を上げていた同じチームの丹澤が渡辺に話しかける。
「武器錬成スキルっていうものらしいです、試しにやったみたんですが、こんなものが作れてしまうんですね」
渡辺は得意げに次々にナイフや包丁、さらには剣から斧などを手品のように広げた手の中から作り出していった。
「すごいな……こんなことができるなんて、これを現実として受け入れないといけないのか」
隣で見ていた竹内が驚いている。
確かにそうだ、これで半信半疑だったスキルが実際使えることは間違いなさそうだ、俺のデバッグルームってスキル、一体どんな能力なんだ……
「さっそくスキルを使ってる者がいるのか」
聞いたことのない声がした。
えっ、誰だこいつ?
井上マネージャーの席に見知らぬ男が座っている。
俺と同い年くらいか?
その男は俺達の事を一人ずつ確認するように眺めている。
すでに理解できないことが起こりすぎているせいか、こいつの登場にすぐ対応できる人はいなく、みんな見たことのない謎の男に目を丸くしていた。
そんな俺達とは反対に男は不気味なほど落ち着き、こちらに向け話しかけてきた。
「ようこそ、そしておめでとう。 君達はこのゲームに選ばれた光栄な者達だ」
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