第21話 事実は時に人を怒らせる

まずいまずいまずい……丹澤のせいで第2チームにデバッグルームのことがバレてしまった……



スーパーの直で出入口を作れてたから欲しいものが取り放題だったのにこれからはそうはいかなくなったじゃないか。


あ〜腹立つなぁ、思い出すだけで腹わた煮え繰り返りそうだ。



はぁ……なんか気分転換でもしたいけど、やるものもないしなぁ……



暇だし……映像でも見るか、グロいのは勘弁だけど退屈そうなのも嫌だしなぁ。


寺田でも見てみるか、あいつどうせ変なことしてるだろ!





壁に寺田視点の画像が表示された。



あっ、武蔵丸子の駅前だ。

昨日まで河原でジタバタしてたのに、さすがに飽きたんだ。




おいおい、ずいぶんゴキゲンみたいだなスキップしながら歩いてるぞ。

30超えてひとりでスキップは痛すぎるだろ、さすがのキモさだ、我がリーダーよ……


軽快なスキップと共にキョロキョロ見渡している。

何か探してるようにみえるけど……何してんだ?

すげえ不審だぞ……


ちょうど小島のやられた料亭の焼跡を見て、寺田は立ち止まった。


「うわぁぁ酷い……ガチでやってるんだな……」


この料亭であったことを寺田は知らなかったのか、誰がやられたかとかまでは分からないだろうけど、尋常じゃないことがあったことは理解したみたいだ。


「そうか……もう殺し合いが始まってるんだな……」


大丈夫かこいつ……?


なんでこいつちょっと嬉しそうなんだよ……

妙な事考えてないだろうな……



寺田はスキップをやめて、ゆっくりと進みだした。


歩みは変わったけど、やっぱり何かを探してる。



「あっ、寺田さーん!」



誰かが寺田を呼び止めた、女の声だ。



この声を聞き、見るからに嬉しそうに声の方は振り向くと、菅原が立っていた。


「あっ! はぁ……菅原さんか……」



??

がっかりしてる……?


寺田の露骨な態度に菅原は不機嫌そうに言う。


「ちゃっとぉ、何ですかそのリアクション! もっと普通の反応してくださいよぉ」


あくまでイジられたと思ってのジョーク的な返しだ、菅原は気のいい奴だから、本気でムカついてもそこまで表に出さなそうだしな。



「もうみんな殺しあってるの?」


なんの躊躇もなく、真顔で寺田は問いかけた。

こいつサイコパスだわ……よくそんな事普通に聞くことができるな……



ほら、菅原がドン引きしてるよ……



こいつも小島と同じく心無い発言で普段から空気を悪くすることが多い、ただ小島は狙って悪態をついて予想以上に空気が悪くなる空回りタイプだとしたら、寺田は何も感じずに思いのままに言いたい言葉をぶん投げて空気が悪くなってもそれすら理解できてないようなタイプだ。


「わ、若井さんは残念ですけど……他の人は殺し合いなんてしたくないと思ってるはずです」


言葉を選んだような言い方で菅原が返事した。


「あぁやっぱり若井さんがやったんだ……変だったもんな」


「寺田さんも気をつけてください、若井さんいつもと違うんで……」


「俺? 俺は大丈夫、負けないから」


なんか寺田ってズレてるんだよな……

相手の言いたいことが分かってないっていうかさぁ。



「寺田さんはずっとここまでひとりでいたんですか?」


「そうだけど、なんで?」


「あっ、いえ……誰かを探してるみたいだったから逸れちゃったのかなって」


「ん?」


「あっ……あの子のこと探して……いえ、何でもないです」


寺田の表情が変わったことを見て菅原は途中で喋るのをとめた。


「俺が誰を探してるって?」


映像越しに見てる俺からも空気が変わったことがわかるくらい妙な気配になってきた。


「いえ、すいません……なんでもないんです」


「あの子を探してって今言ってたよな? 俺が誰を探してるのか知ってるのか?」


菅原の読心術スキル、不用意に口走ったばかりになんかまずい雰囲気になったな……

寺田もなんで人探しの相手を探られたくらいで目が血走るほど怒ってるんだよ……



「本当にごめんなさい、私読心術スキルを手に入れてて、今寺田さんが考え込んだ時に偶然分かっちゃって……」


菅原が寺田から距離を取ろうとズリズリと後ずさりしている。


「言ってみろよ……俺が誰を探してるかを」


「いやっ!」


迫ってくる寺田を恐れて菅原が逃げ出した。

何をそんなにキレてるのか全然分からない……そんなにバレたくないことなのか?



逃げていたはずの足が止まった。


あっ……菅原の足が氷に覆われて地面に張り付いてる、寺田のスキルか……



「さあ……言えよ、誰を探してるって?」


「ひぃっ!! 怖い……」


「怖い? 相手を言えって聞いてるだけだろ?」


目が本気すぎるんだよ……側から見てる俺ですら怖いわ!


「な……な、中村さんです…………よね?」



えっ……中村さん?

寺田は中村さんを探してたのかよ……好き、だったのか?

もしかして付き合ってるとか……?



寺田の表情がなくなった……



「変なこと言っちゃってすいませんでした……助けてください……」


菅原は必死に寺田に掛けあおうとするが、寺田はまるで反応しない。



黙り込む寺田は氷のナギナタを作り握りしめた。


やめろよ寺田。

何考えてるんだ……


菅原は寺田の持つナギナタを目にして、恐怖で過呼吸に陥っていた。


「誰にも言ってないよな?」


ナギナタを持っていない方の手を菅原の額に当て寺田は質問した。



「はぁ……っ、はぁ……! も、もちろん、、です。 はぁ、今分かった、はぁ……事ですし、誰にも……」


「そうか」


過呼吸の中必死に話す菅原を遮り、寺田は額に当てた手を握りしめた。


その瞬間、大きな氷柱が現れ、菅原はその中で氷漬けにされた。


さらに寺田は氷柱の中の菅原に向けナギナタを突き刺した。


ナギナタは腹を貫通しているが、凍りついた菅原の体は完全に凍りつき血液が全くでていなかった。


寺田……やりやがった……



突然寺田がビクッと体を震わせた。


なんだよこいつ……さっきから怖すぎる……



「なぁーるほどなぁ、殺すとスキルがまた貰えるってことね」


ファントムが言っていたやつか。

今、痙攣したように見えたのはスキルを手にしたってことなのか。


寺田が上機嫌になり、氷漬けになった菅原の顔を覗き込む。


菅原は怯えきった顔のまま凍りつき、恐らくすでに死んでいる……


「余計なこと知らなきゃ良かったのにな!」


よく言えるな……そんなこと……

なんでそんなに簡単に仲間を殺せるんだよ……



死亡者

菅原 繭

刺殺(寺田 朋和)


残り13名

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る