第22話 天ぷらしたらツライ具だった件
「今のところ有力な手掛かりは無しか……」
「まだはじまったばかりですし、箕輪ちゃんの能力みたいに身を隠す方法があるのかもしれないですね」
「そうすると簡単に見つけるのは難しいかぁ」
「井上マネージャーどこにいるんでしょうね……」
第2チームの竹内、沖田、上田、丹澤が拠点としている、蕎麦屋で今後について話していた。
大島が井上に殺されたことなど知る由もない彼らは井上を
見つけるすべすら掴めずにいた。
「おっと! これ結構難しいんだな」
沖田は調理場で天ぷらを作っていた。
普段全然料理をしない沖田だが、家庭用とは違うプロの使う調理器具と食材に遊び心が沸いているようだ。
「ちょっと……エビは皮を剥かないと食べれませんよ!」
「えっ? 揚げてもだめなの?」
多少は料理をできる丹澤が沖田にちゃちゃを入れる。
「知りませんけど、普通は皮は剥くんです!」
「知らないで作ったものの方が、新しい味が産まれて面白いかもな」
竹内は何を食べても大概旨いと言う、味よりも過程を楽しみたいタイプで沖田を調理場に立たせたのも竹内の提案からだった。
「でもここで腹でも壊したら大変ですよ……」
上田は料理を食べることに積極的ではなかった。
「大丈夫だろ揚げ物だし、火さえ通せば食えないものなんてないんだから」
前向きというべきなのだろうか……
食へのこだわりが独特なものが上に立つと下は後悔することになる。
「できた! 天ぷら蕎麦だ!」
沖田人生初の天ぷら蕎麦が出来上がった。
下手なりにふざけてる訳ではなく、一生懸命作ったのだろうが、中々斬新な見栄えだった。
「火が通れば食べれないものはないって言うけどさ……」
「これ食べれるんですよね?」
上田と丹澤は目の前の天ぷら蕎麦と言われた物体を引目に見る、炭の様になった天ぷらと見るからに伸びきった麺に食欲はドン底まで下がっていた。
「料理は見た目じゃなくて味だ! 食ってみよう!」
張り切る竹内に煽られ食事が始まった。
「おっ、意外といける……」
「なんで……これ、食べたことない味なのに嫌いじゃないかも」
「ニヒヒヒ、俺才能あるのかもな」
「な! こういうのって案外うまくいくんだよ」
不思議なもので無茶振りから始まる竹内の提案は最後にはいい形で収まることが多い。
和やかに食事が終わり、今後についての話が始まった。
「丹澤さん、スキルで見つけられたりとかしない?」
「えっどうですかねぇ……一応やってみます」
丹澤は目を閉じ集中しだした。
「これで分かればマネージャー見つけてクリアなのかな」
お気楽な沖田が井上を探している丹澤を見て言った。
「殺せればだけどね」
「あ、そうかマネージャーがいても殺さなきゃいけないのか……無理だよな……」
上田の指摘に沖田は言葉をつぐむ。
「それでも情報は多い方がいい、ここで井上マネージャーの場所が分かることにデメリットはない」
竹内の言葉に上田、沖田は納得して頷いた。
しばらく集中していた丹澤が外側に向け指指した。
「あっち……多摩川方向かな? マネージャーがいるような気がします……」
「おっ! すげぇ、何を感じたんだ!」
沖田がガッツポーズしながら丹澤を讃える。
「あっちか……」
数少ない情報が入ったにもかかわらず竹内は浮かない表情をしている、上田は不思議そうに問いかける。
「どうしたんですか? せっかくの情報なのに」
「いや、なんでもない……ありがとう丹澤さん! 上田ちゃん見に行ってみようか」
竹内は立ち上がり、外に出ようとする。
「待って竹内さん! 俺達は? 待機でいいんですか?」
「ああ、ちょっと見てくるだけだからさ、待っててよ! 何かあったら沖田ちゃんの筋力スキルが一番役に立つでしょ! 丹澤さんと待ってやってよ!」
「えっ……はい、そういうことなら……」
竹内は上田を連れて蕎麦屋の扉を開ける、念のため外の様子を伺い誰もいないことを確認した後に外へ出て、進み始めた。
「どうしたんですか? そんなに浮かない表情で」
丹澤の情報を嬉しくなさそうな竹内に上田は質問を投げかけた。
「丹澤さんの指差した方向は駅だ」
「あっ……」
蕎麦屋のある位置は多摩川と駅の中間地点、指差したのが駅であるのに丹澤が言ったのは多摩川方向、すでに情報があべこべだ。
「丹澤さんのスキルのこと上田ちゃんはどう思う?」
「えっ? 色々なことが感じ取れる能力だと思ってますけど」
「感知力なんて言ってるけど所詮はただの感だよ、それ以上のものではない」
「なるほどですね、でもじゃあなんで外へ?」
「丹澤さんの意見を全否定する訳にもいかないだろ、それに感だって当たることもある、念のため確認はしておこう」
「あ……そういうことですか……」
全員で移動するほどのことでもないと竹内が指示したのはそういうことだったのかと上田は納得した。
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