第19話 恐るべき風見鶏女

やっぱりダメだ、俺には殺すことなんてできない……


丹澤はデバッグルーム内を今も楽しそうにあちこちを見て回っている。

食材くらいしか置いてないから別に困ることはないけど、いい気はしない。


もういい、こうなかったら俺から帰るように促してみるか。


「あの、そろそろ……」


「じゃあ竹内さん達が待ってるから戻ろうかな」


なんて吉報! 自分から言ってくれるなんて、、、その言葉を待ってましたーーー!!

丹澤が来てからのこの時間、生きた心地がしなかったぜ……


さあ帰ってくれ、もう何も言わなくていい、今すぐクルンと出口へ向かって1秒でも早くここから出て行ってくれぇー!



「後でさぁ、竹内さん達ともここに来るね!」


!!!!????


「うぇ……」


は……っ! 余りのショックにえずいてしまった。


バカバカバカ、この女はなんで俺の嫌なことばかり的確に突いてくるんだ……


「大丈夫!? もしかして具合悪いの?」


お前がいるからだよ! なんて言えたらどれだけ楽なんだろうか……


第2チームの奴らなんかにバレたらきっとここは隠れ家とか拠点にされてしまいそうだ、そしたら俺の居場所はなくなる。


チームの中に殺してでもクリアを目指そうとしている奴もいないとは限らないし、竹内達に言われるのだけは絶対に阻止したい。



「丹澤さん!」


俺らしくない、まるで小島のようなバカでかい声で呼び止めた。



「えっ? は、はい!」


いつもとは違う俺の声に丹澤も流石に反応した。



「俺はこんな人殺しのゲームに参加したくないんです、誰かが死ぬのも見たくないし、殺したくもないし死にたくもない……」


丹澤だって人間だ、本音を伝えれば分かってくれるはず、嘘偽りなく今の気持ちを伝えて、分かってもらうしかない!


丹澤はいつもと違う俺の圧に押されているのだろう、ジッと俺の目をみて黙っている。


「第2チームでこのゲームを終わらせるために頑張っているのはなんとなくわかります、けど俺はそれもしたくないんです、この空間で誰にも迷惑をかけずにじっとしていたいんです。

だから、俺がこのスキルで隠れて生活していることを誰にも言わないでいて貰えませんか?」



いつになくマジメに話をしてしまった……俺らしくないな……


やっぱりこんなことを言ってもごちゃごちゃと言ってきそうだ、それでもいい、こうなったら分かってもらえるまで全部誠実に返してやる!


黙って話を聞いていた丹澤はニコッと微笑んだ。


「いいよ、私だって逃げたいもん、気持ちわかるよ。 じゃあここでのことは2人だけの内緒にしておくね!」


あれ……伝わった……


なんか肩透かしだ……


その後の丹澤は本当にあっさりとデバッグルームを出ていった。


大丈夫だよな? 部屋の中に変なもの仕掛けられたりしてないよな?



俺がみていた中で丹澤がこの部屋の何かに触れてるようなところは見ていない、多分何もされてないはず……


最後、妙に物分かりがよかったな……気味が悪いくらいだ。


もしかして丹澤って悪いやつじゃないのか?



やめよう、変な気を起こしても仕方ない。

後はあいつのことを信じるしかない……



念のため丹澤の動きは見ておくか……



丹澤視点の映像を表示させた。


あれ?

映像と一緒にデータが表示されてる。


◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️

名前:丹澤 春香 性別:女

身長:150 体重:50

状態:普通


所持スキル

感知力(レベル5)

◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️



すげぇ……身長と体重がわかっちゃうのか……


スキルはやっぱり感知力だよな、その横のレベルはスキルの強さ的なものか。

あれだけ色々見透かされてまだレベル5……もっと上がったらニュータイプみたいになっちゃうんじゃないか……


最後あいつが何も言わなかったのも俺がどう思ってたかを察しなからなのかもしれないな、危険なスキルだ……




「丹澤さんお帰り、無事でよかった」




あっ、ちょうど竹内達と合流したみたいだ。


あまり見たことのない場所にいるな、見た感じ和食っぽい、いや、蕎麦屋か。

このゲームエリア内にある蕎麦屋を第2チームは拠点に使っているらしい。


竹内達視点の映像にしてもステータスデータは表示されない、デバッグルーム内に入った者だけが見れるようになるのか。


「手ぶらだけど、スーパーはどうしたの?」


上田が尋ねると丹澤は失敗したと言わんばかりに口に手を当てた。



「ごめんなさい、スーパーで偶然箕輪さんに会ったんですけど話し込んでたら買い物のこと忘れちゃいました……」


おいぃぃぃっ! あっさり俺と会ったこと言いやがった。

やっぱりこいつは信用できない奴だった……


ほら見ろ、竹内達が食いついてきた……

「へぇ、箕輪ちゃんひとりだったの?」


「はい、スキルの能力で別の空間に隠れられるみたいなんです、スーパーの男子トイレの手前に豆粒くらいの黒いかたまりがあったんで気になって見てたらそこが広がって別空間の入口になったんです」


スキルの事まで言いやがった……


俺言ったよな!?

言わないでくれって丹澤に言ったはずだよな!!!


「箕輪ちゃん、そんなスキルを持ってるのか」


竹内と上田が考え込み出した。


もうやめてくれ、お願いします丹澤様!

これ以上俺のことを誰にも言わないでくれぇぇぇ!


「その部屋の中の状況は?」


「えぇ〜っと、スーパーの食材ばっかりでしたけど、そこまで整頓はされてなくて男の人の部屋って感じでした」


「そうじゃなくて、何か変わったものと変なところとかは無かった?」


「変なところ……? うーーーん……言うほどの事ではないけど、そういえば部屋の壁に色々ものが置いてあるのに一箇所きれいに何も置かれてないところはあったような……」


「…………。 なるほどね……」






………………



ははは……



HAHAHAHAHAHA!!


この人ぜーんぜん俺との約束守ってくれないジャナイデースカ〜〜!!



お陰で大体のこと言われちゃったですぞーーーーい……




とにかくこの場所から移動するか……


もっとバレにくいところに行かなきゃだよな。



丹澤め……

あいつ絶対に許さん!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る