第17話 冷たいのがお好き


多摩川の河川敷、ここはサッカーグランドや遊具が置いてあり遊び場や競技などで人が常に使用しているエリアである。


しかしゲーム参加者しかいないこの空間では当然人気がなく川の流れる音が普段では感じられないほどに強く耳に残る。



そんな静かな川を前に寺田は一心不乱にトレーニングをしていた。




氷結スキル。


寺田の手に入れたスキルはイメージした通りに視界に入った空間を凍らせることができるものだった。



「はあぁぁぁぁ!」



力強い掛け声とともに多摩川の河川に向け手をかざすと、瞬く間に寺田中心に川に氷の膜が張り出した。


氷の膜は広がっていき、10メートルは先にある向こう岸まで凍りつかせた。



凍らせた氷上に立ち、寺田は更に力を込める。



初めは地面を一時的に凍らせる程度のことしかできなかった、だがこのスキルを使い続けていくことでどんどんやれることが増えていく。


使うごとに成長していくこのスキルを寺田は楽しんでいた。




できるようになったことはものを凍らせることだけではなかった。




氷上にたったまま両手を広げ力を込め出した。



胸の前に冷気が集まり小さな氷の粒ができてくる。

粒は徐々に大きく、形を形成し始めた。


棒状に長く伸びた氷を両手で掴み構えを取る。

棒の先端には鋭く尖る刃まで作られている。

ナギナタだ、寺田は氷で武器を作る事もできるようになっていた。


剣術を嗜んでいる寺田はナギナタを華麗に振り回す。



氷の上でナギナタの型を行う様はまるでフィギュアスケートのように芸術的ですらあった。



「ふぅ」と満足気に息を吐き、遊具のある近くの広場まで移動する。



そこにはすでに切り刻まれた遊具がいくつもあった。


鉄棒や平均台までもが鋭利な刃物のようなもので切断されている、すべて氷の刃で切り刻まれたものだ。


鉄すら切断する強度、大量に流れる川をも凍らせるスキルの練度。

単純なスキルの熟練度だけなら他の者より頭ひとつは優に抜けているほどスキルを極めていた。


寺田が誰とも組まずに一人で会議室を出て行ったのは自分のスキルをじっくり使いこなせるようになりたいからだった。

リーダーをやってはいるが、寺田は竹内や小島と違い自分でまとめて行こうという意識は低かった、むしろ黙々と自分の世界に入り込み作業をしていたいため、チーム員に仕事を振るくらいなら全部自分でやってしまいたい性格だ。


本心は目立ちたい気持ちがないわけではないが、根が明るい他のリーダー達に比べて根暗な寺田はどうしても目立たないまま過ごすことが多かった。


そんな寺田が手に入れた氷結スキル、凄まじい強さであると本人も自惚れていた。


これなら誰よりも目立つことができる。


小さな野心が芽生えていた。

そして、手に入れたこの力を早く試してみたい……寺田はトレーニングを終えることを決心した。









人間には2種類ある、ひとつは過去を忘れられずに引きずっている者、そしてもうひとつは過去を忘れ前に向け進もうとするもの……



グッモーニン!



昨日は最悪の映像ばかり見てしまい、ブルーだったけど強メンタルの箕輪様はバッチリ夜は寝られましたとさ。


まあ起きてデバッグルームの中にいることがわかった時はここが夢じゃないんだって少しどんよりした気持ちにはなったけど、もう平気だ! どうせこんな環境にいるんだからこんな場所なりに楽しまなきゃ損だ。



まずは飯! 飯を食わなきゃ人間生きていけませんってことで料理でもしようかな。



んーっどうしようかな……

食材はたくさん買ってある、冷蔵庫がないけど大丈夫かな。


スーパーの食材だって陳列はされてるけど、冷房は効いてないからそんなに日持ちはしないはず、ここでの生活思ったより長くはしていられないぞ……



まぁまぁそんな事はさておき朝だし簡単なものでペロッと平らげたいよな。


よし決めた!



フライパンに火をかけて、油を一振り。

熱くなってきたところで、卵をダイレクトにパカッとポトリ!


ジュウウウゥっと白身が濃くなっていく。


くぅぅ、シンプルだけど朝らしくていい匂いだ。



程よく白身が濃くなってきたところで差し水をして即座にフタ!



なかなかの手際だ、玉子料理は単純で簡単だからこそ差がでる。

卵を制するものは料理を制す、TKGだって旨けりゃごちそうだ。



おっと余計なことを考えていると、黄身が硬くなりすぎてしまう、白身は硬く、黄身はトロッとが目玉焼きの鉄則だ!


フタを開けて、出来た目玉焼きをトーストの上にオン!



仕上げに塩胡椒を振って完成だ。



これぞ男の朝ごはん、目玉焼きトースト。

ベーコンやハムと一緒に作れればなお良し。




作る勢いそのままに食べるのが男の手料理、間髪入れずにガブリ!



…………この料理、見た目ほど旨くないんだよな……

そもそもパンの上に目玉焼き乗せただけのものを料理って言えるのか?



はぁ……



まあペロッとは食べたけど、もうしばらくは作る事はないだろう……

無理してでも凝った料理を作ればよかった、こうなったら朝から飲んじゃおうかな……



飲んだ勢いでまた周りが気になって映像を見ちゃったら、また嫌な気分になるかもしれないしなぁ……


あれからまた死んだ人とかいるのかな。




気になる……




でも人が死んでるところとかは見たくない……




あああ、どうしようかなぁ〜




「あれ……何ここ」




ん? どこかから声が聞こえたぞ……

無意識に映像を開いちゃったかな。



「箕輪……さん?」



へっ????



まさか……いや、そんなまさかだよな……


ここは俺だけの居場所だよな……?



今背中の方から声が聞こえてきたような……




!!!!?????



丹澤!


こいつがなんでこの中に?

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