第28話 奥底に秘める孤独と闇


人がずいぶん減ってしまった……


積極的に参加してる奴らはスキルも増えてかなり強そうだ、まだ1つしかスキルを持ってないようじゃ太刀打ちできないんじゃないか……


映像を表示させた。



この人はあいかわらず1人だ。

スキルもひとつしか持ってないし……

何をするでもなく、色々なところを行き来してるけど特に何かをやる訳でもなさそうだ。


ここまで誰にも襲われたりしなかったのは運が良かったとしか言いようがないだろう……


隠れるなら隠れるでちゃんと身を隠せるような場所に留まってればいいのに……


「何やってるんだよ……」


思わず感情が声に出てしまった……

自分は死なないとでも思ってるのか?


このままじゃ次に殺されるのはこの人なんじゃ……



いるいる場所はデバッグルームの出入口の近くだ、物陰の見えにくいところに入口を作ったから見つからないはず。

もし俺が殺意があるなら簡単に殺せるような状態だぞ……

そんなことも知らずにこの人は……




「あらら、中村さん?」


あっ誰かから声をかけられた……

女の声だ、残ってる女って黒沢しかいないよな……



中村さんが振り向くと案の定だった……

沖田を引き連れた黒沢が前に立っている。



「ずっと1人だったの? か弱い女の子がひとりぼっちじゃ危険じゃない?」


薄っぺらい心配を投げかけながら黒沢は中村さんに近づいて行く。


どうしよう……

俺から見ても絶対に何かの罠だってわかる、やばいよな……


近くにはいるけど、、助けに行くか……?

いやいやいやいや、俺が言ったところで絶対にやられるだけだ……


沖田もなんかおかしくなってるし。

俺が行ったところで殴られて一撃で天国に行ってしまう……




「大丈夫です……私は……」


近づいて来る黒沢から中村さんは距離を取ろうと離れる。


「えっ、なんで? もしかして私怖い?」


チラッと沖田を見て返事を求める。


「そんなことはない、黒沢さんはいつも通りファビュラスだ、ニヒヒヒ」


恐っ……!!


口調はいつもの沖田だけど、目が血走って、血管もところどころ浮き出てる……

黒沢に洗脳でもされてるのか? なんか沖田ぶっ壊れちゃってるぞ……




「でしょでしょ、なのにこんな風に避けられたら傷ついちゃうなぁ、中村さんひどぉ〜い」


なんだコイツの嘘くさい演技がかった話し方は……

中村さんをちょっとバカにしてるようにすら思える……



「本当に大丈夫です……私は、行きます……」


中村さんなりにその場を離れようと頑張ってるみたいだ……



「そんなこと言わないでよ……」


黒沢が手をあげると、沖田が中村さんの背後についた。



「えっ……」


逃げ場を失った中村さんが肩をすぼめる。


「ねぇ中村さん覚えてる?」


黒沢は話しかけながら中村さんに軽く触れた。



「金子って全然私に関わってこようとしなかったでしょ?」


「金子さんですか? そんな風には……」


「あいつきっと自分より若くてかわいい私が気に入らなかったのよ」


「そんなことは……」


なんだ、なんか女同士の変な会話が始まったぞ……

黒沢ってうちの女性グループにあまり馴染んでる感じはしなかった、それでもひょうひょうとしてるから気にしてないのかと思ってたけど、本当は絡みたかったのか?

俺には黒沢自身から避けてるようにも見えたんだけど……


「あいつ中村さんだけ露骨に誘って、私のことは無視して孤立させようとしてたの……あんただってわかってるんでしょ?」


あれ……案外黒沢は本気で怒ってるのか?

寂しかったってことなのか……?


「してないです……金子さんはいつも、なんで黒沢さんは来ないんだろうねって……言って……」


ん? 中村さんが変だ……顔色が悪くなってきてるし、ふらついてないから……?


「そうやっていざ問い詰められると白々しくそういうのよ、本当はみんな私の悪口を言って盛り上がってたくせに」


「ハァ……ハァ、言って……ないです……」


どうしたんだ、ついに息が切れだした……


「苦しそうね……私の新しいスキルは辛いでしょ?」


中村さんが地面に倒れ込んだ。

顔が真っ青になってる……黒沢のスキルによるものなのか……




「黒沢さん、ちょっと……」


「うるさいわね、黙っててよ!」


沖田が何か話しかけようとすると、黒沢は怒鳴り声を上げた。

さっきから様子がおかしいよな……中村さんに、っていうかここの部署の女性陣に恨みがあるっていうか。


「いいところなの、誰も邪魔しないでよ……」


そう言って黒沢は倒れ込む中村さんを観察する。



「ゼェ……ゼェ……」


「いい気味ね、あんななんて誰ともまともに話もしようとしないくせに構ってもらっちゃって、最後くらいひとりで孤独に死ねばいいのよ」


黒沢の嫉妬はともかく、中村さんこのままじゃまずいだろ……


こんな急激に容態が悪くなっていくものなのか?

助けに行った方が……いや無理だ、俺じゃ何もできない……


何か助けられる方法は……

誰か助けようとする奴はいないのかよ……



「ウォォォォォォォ!!!」


うわっ!?


なんだ急に! 誰だ叫んだのは?



「若井さんがこっちに!」


沖田が黒沢を守りに入った。



「なんでそんな大事なこといわないのよ!」


「すまん……でも言おうとはした」


あっ、沖田が黒沢に話しかけた時か……


ってか、こんな時に若井だって!?

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