第33話 次なる標的

竹内と上田が駅前にある小料理屋で休憩をしていた。


この場所の食料はすでに若井に食い尽くされていたためスーパーカクエツに置いてあるパンで腹を満たしていた。


「井上マネージャーの手がかりがまたなくなってしまったか」


竹内の意図した通りにいかず、チームメイトがどんどん死んでいってしまう、大切な仲間がいなくなっていくことへの悲しみと怒りで食欲は沸かなかったが、この場を乗り切っていくためには頭に血が巡らなければならない。

竹内は無理やりパンを口に詰めこみ、空腹を凌いでいた。


上田は耳を澄ましていた、聴力スキルを使い続けていくことでスキルレベルが上がり、広範囲の音を拾えるようになっていた。


「また……死亡者が増えました」


「えっ、誰が?」


「沖田さんと若井さんです」


「沖田さんだって!? なんで? 誰にやれたんだ?」


「若井さんです、その若井さんもその直後に寺田さんにやられました」



竹内の表情が苦痛で歪む、同じチームの丹澤に続き沖田まで死んでしまった……

自分のチームすら守れなかった不甲斐なさに竹内の心は潰されそうになっていた。


「なんでそんな簡単に仲間を殺せるんだよ……」


「スキルってやつの魔力なのかもしれませんね、みんな大きな力を手に入れてしまったせいで気が大きくなってしまっているというか」


「上田ちゃんは殺し合いが始まっていることを知ってたんだよな? なんで教えてくれなかった?」


事実上田は沖田と若井が争い始めたところ、もっと遡れば黒沢が中村を毒に侵させたところから把握していたが、竹内に伝えていなかった。

警戒していた黒沢に近づいてしまうことと魅了されていることがばれてしまうことを恐れてのことだった。


「すみません……あまりにも危険だったので竹内さんを守るためにその場では言えませんでした」


上田の言葉を聞きながら竹内は上田の顔をじっと眺めている。

言っていること嘘ではなかった、黒沢の件はあるが、竹内を失ってしまうことは大きな損失であることは間違いないと上田は考えていた。


「……わかった、でもこれから先に危険がわかっているようなら教えてくれないか」


「それなんですが……次に危険になりそうな人のこと、予想はしているんです」


「予想? そんなことわかるのか?」


「はい、俺は井上マネージャーの狙いをずっと考えていました。 杉原さんを殺した後、近くに俺達がいたのに狙ってこなかった、あれが気になって法則を考えていたんです。 多分なんですけど、マネージャーはこのゲームに消極的な人から始末をしているんじゃないかって思うんです」


「……なるほどね、ってことはあまり殺し合いに参加していないやつをマークしてればマネージャーは現れるんじゃないかってことか」


「はい、俺の聴力スキルで調べている範囲だと誰とも接触を取らずに殺し合いにも入って行かないで生存しているのは箕輪ちゃん、副島さん、河合さん辺りです」


「言われて見るとそこらへんの人らは目立った行動を見ないな」


「箕輪ちゃんは丹澤さんが体験した別空間ってやつに入って隠れているのがどう影響するのかわからないんで副島さんをマークしておけば近い内にマネージャーに会えるはず」


「副島さんの場所は?」


そう言いながら竹内は立ち上がった。


「正確とは言えないんですけど、公園のあたりにいるはずです、一緒に河合さんもいますね」


「近いな、すぐに向かおう」



「あっ! 竹内さん!」


上田がらしくなく声をうわずらせたちがる。


「今、急に副島さん達のいる方向にマネージャーの音が、やっぱり次は彼らだ!」



上田の言葉を聞いた竹内はすぐさま小料理屋を出た。



場所的に言えば現在地から公園までは走って5〜10分ほどでたどり着ける、そこまでの距離を竹内と上田は無心で走り抜けた。





公園の入口までたどり着き竹内は上田に確認する。


「副島さん達はまだ無事か? もしわかるなら詳しい場所を案内してくれ」


落ち着いて話しかけてくる竹内に対して上田は公園まで走ったため息が上がっていた。


「ハァ……竹内さん、速すぎですよ……えっと、2人はまだ無事ですねマネージャーも動きがないです様子でも見てるのかな」



2人は無事、それだけでまず竹内は肩を撫で下ろした。

公園を見渡したが、目に見える範囲に人影は見当たらない。


「いないな、もっと奥にいるのか」


公園は元々広いこともあるが、ところどころ木々が植えられていたり、テニスコートやグラウンドで視界が遮られるため、全体を見渡すことが難しかった。


「そうですねここからもっと奥、反対側の入口の方にいるみたいです」


「俺達が近づいてることでマネージャーに変化は?」


「そういうのも特になさそうです……」


状況の確認を済ませ、竹内と上田は副島達の元へ進むことにした。


マネージャーに感づかれないように走らず、警戒しながら上田に案内させ進んでいく。



公園中央にあるグラウンドを抜けた頃、上田が竹内に手を挙げ合図を出す。

その先には副島と河合がベンチで休憩している姿があった。


その更に奥にはマネージャーの姿も見える。


「いた……」


マネージャーは副島達の後方から徐々に近づいているがそのことに彼らは気付いていない。


竹内と上田は木の影に隠れて様子を見る。


「副島さん達に伝えたほうがいいですよね?」


「いや、俺に考えがある、ちょっと待ってくれ」


危険を伝えようとする上田を竹内が止めた。



だがその時だった。


「えっ? いない?」


マネージャーの気配が消えた、上田は急いで木から身を乗り出し、確認するが井上の姿がなくなっている。


「どうしたんだ? マネージャーがいなくなったぞ」


竹内も予想外だった、そのまま副島達に攻撃をするものだと考えていた。


上田は耳を手を当て目を閉じ、集中する。



「何故だ……完全に気配が消えた……」

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