第34話 起こしてビックリ、出てビックリ

どれくらい時間がたったんだろう……あいわらず中村さんは目を覚まさない。


ステータス上の毒は消したんだけど、それじゃ意味なかったのかな。


顔色だって良くなってるしもう回復しても良さそうなんだけどなぁ……



揺すって声かけたら起きるのかな?

でも触れた瞬間目を覚ましたら変態だと思われたりしないか……?


こんなところに連れ込んでしまってるし、変なことしたと誤解されたらやばいしなぁ。



「おーい、中村さ〜ん」



……ダメだ、声だけかけても全く反応はない、さっきから何度もやってるけど、ずっとこの調子だ。


やっぱり揺すってみるか。



だ、だ、だ、大丈夫……俺は中村さんのことが心配だから起こすために触れるんだ、決してやましい気持ちはないんだ、肩にちょっと触れて揺らすだけだ、本当にそれだけ……



恐る恐る、指先が中村さんの肩に触れた時……



「…………箕輪………さん?」



!!!!!!????????




な、な、な、な、な、な、な



なんだって〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!????



あ…ありのまま起こったことを話すぜ!

俺は、中村さんを起こそうと思ったらいつの間にか起きていた

な……何を言ってるかわからねーと思うが、俺も何が起きてるかわからなかった……

頭がどうにかなりそうだった……催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ

もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……



って、ふざけてる場合じゃあねぇ……


「あ…………いや、これは……その……」


ダメだ……こんな状態にうまくマッチする言い訳が思い浮かばない……

どう見たって変態だ……



「す、すいません!」





すぐ口からでた言葉は謝罪しかなかった……


勢いでデバッグルームを出てしまった。

ああぁ、完全にやってしまった、俺は完全に変態だ……起きた瞬間俺みたいなやつが目の前で触れようとしてきてたら引いてるよな……気持ち悪いやつだって思われたろうな、もうダメだ……完全に終わった。



「あれあれ、誰かと思ったら箕輪さん?」


へっ? 誰の声だ?

外にでた途端に女の声が、俺、今話しかけられたのか?


声の方向に顔を向けると黒沢が寺田を引き連れて立っていた。

中村さんの治療に夢中であまり見れてなかったけど、黒沢が寺田と一緒にいて無事にいるってことはあの若井を倒したってことか……


「いが〜い、箕輪さんってまだ生きてたんだぁ」


大きなお世話だ……っていうかコイツいきなりすごい失礼なこと言ってくるな……

でも挑発返しなんてしたらまずい、俺じゃ黒沢にすら勝てない、ましてや寺田のスキルになんて絶対に敵うわけないんだ。


「なんとかね、逃げ回ってるだけだけど……」


ここは当たり障りのない会話をしてうまくやり過ごさなくては。


「香耶ぁ、こいつ殺してスキル増やしたらどうだ?」


おい、寺田! 仮にもうちのチームのリーダーだろ、いきなり殺意全開じゃねぇか……!!


「ちょっ、ちょっと嫌だなぁ、殺すだなんて……じょ、冗談はやめてくださいよ」


映像越しに黒沢の魅了スキルで洗脳されているやつの表情は見てたけど、実際に見るとやっぱりやばい、ずっと目が血走って、血管も浮き出てパッと見で正常ではないことがわかる。


「もう……寺田さん、いきなりそんな怖い言い方するのはかわいそうでしょ」


黒沢が寺田を抑えて俺に近寄ってきた。


「箕輪さんはずっとひとりだったんですか?」


「えっ……そうだけど……」


「フフ……だと思った、職場でもそうですもんね」


クソ……ムカつくな……こいつといい、寺田といい口が悪いな!

でも我慢だ、このままデバッグルームに戻ったら中村さんがいるのがバレる……


「ハハハ……まぁひとりが楽だから、2人はここで何を?」


「……ちょっとね、人を探してるの」


探してる……ここで探す人って中村さんだよな、毒スキルを与えたのに黒沢はスキルが増えてないから疑問にでも感じたか?


近づいてくる黒沢がさりげなく俺の手に触れようとしてきた。


中村さんの時と同じか、こいつは触れることで毒を相手につけられるんだ。



黒沢の手をとっさに回避した。


そこで黒沢の表情が強張った。



「やっぱり知ってるんだ……」


げっ……やばい空気だ……


「私と寺田さんが一緒にいることに何の疑問もなかったし、変だと思ったの……アンタどこで私のスキルのこと知ったのよ」


黒沢の口調が変わった……こいつ二重人格なのか? 普段は口数少なくて物腰が柔らかいタイプなのに急に態度が変わる……

でもうかつだった、黒沢が寺田と一緒にいるのは当たり前だと思ってしまっていた……


「香耶下がってろ、どんなスキルを持ってるかわからない、危険だ」


寺田が黒沢を庇うように俺の前に立った。


「香耶って呼ぶなって言ってるでしょ、何度言わせるの!? ……とりあえず、とどめは私がやるから殺さないでよ」


「ちょっと! 何でそんな話になってるの!?」

オイオイオイオイ! おかしいだろ!

何で勝手に俺が殺される流れになってるんだよ!


「寺田さん、俺部下ですよ! いきなり殺すとか言わないですよね!?」


目が血走ってる寺田は表情一つ変えることなく俺の質問に答える。


「お前が部下だとかなんて何の理由にもならねぇ、死んで香耶のスキルになれることを幸せに思えよ」


期待した俺がバカだった……今のこいつに何言ってもそりゃこうなるよな……



寺田が氷のナギナタを作り出した。


「手足を切り取れば、多少いいスキルを持っててもどうしようもないだろ」


なんの躊躇もなく、寺田を俺を向けてナギナタを振りかぶってきた。


ダメだ……誰か……助けて、死にたくない……



目をつぶっていたせいで何が起きたかわからないけど、大きな金属音が鳴り響いた。


「あれ……?」

生きてる? 手足も切られた感じはない、寺田にやられたはずじゃ……



「中村……さん?」

寺田の声に俺は思わず目を見開いた。



本当だ……思わず目を疑った。

デバッグルームに置いてあった護身用の剣を持って中村さんが俺を守っている……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る