第43話 愛の形
黒沢と寺田の関係に異変が起き出した。
上田は近寄るのをやめ2人の動向に耳を集中させていた。
寺田の上田に対する憎悪はすさまじい、下手に近付いたら殺される、黒沢にも気付かれようなのでこれ以上行くのは危険でしかない。
ただこのゲームの中で黒沢と寺田の存在は脅威であることにかわりなかった、このチャンスを逃せば今後殺すチャンスはないかもしれない。
離れすぎず、近づかず。
ほどよい距離感を保ちながら上田は様子を伺うことにした。
「アンタのスキル本当に強いの? 中村さんごときに全然歯が立たなかったじゃない」
「……あ、あれは……中村さんが、本当に……強くて……」
黒沢の執拗な口撃は言われるごとに傷付き自信をなくしだした寺田に対しても緩むことなく続いていた。
ようやく寺田を言い負かした、ずっと苛立たせてきた自分の気持ちを吐き出すように刺々しい言葉をそのままぶつけていく。
黒沢と付き合っている。
そう確信していたからこその自信が崩れ寺田の目は淀みはじめていた。
どうすれば黒沢に愛してもらえるのか、自分に何が足りないのかが頭を駆け巡っていたが、女性経験の少ない、そもそも人付き合いが得意ではない寺田にはどうすればいいのかがわからなかった。
「さっきから黙っちゃってどうしたの? 何かいいなさいよ」
返事ができなくなっていた寺田を黒沢はさらに煽っていく。
何か言えば罵倒される、自分の愛している女に嫌われているのではないか?
魅了スキルを使い続けてきたことでスキルのレベルは序盤に比べて高くなり、魅了させる力も強くなっている。
はじめに魅了された上田に比べ寺田は強力にスキルの力を受けていたため、黒沢に惹かれる力も強くなっていた。
盲目的に焦がれている相手から突き放されることに寺田は耐えられなくなっていた。
言葉ではもはや何も変えられない。
寺田は黒沢の肩を引き寄せ強引に抱きしめた。
「はぁ!?」
黒沢は本気で嫌がり両手を顔に当て全力で寺田を引き離した。
嫌悪に満ちた黒沢の顔に寺田はさらに絶望する。
「なんで……」
嫌われているはずがない、ここまで黒沢のことを思っているのに命まで捧げるつもりでいるのになぜ受け入れて貰えないのかわからない。
黒沢は寺田を完全に拒絶し、距離を取り出した。
「次変なことしてきたら毒を使うから」
変なこと……
自分がとった精一杯の求愛の行動を「変」の一言で片付けられた。
自然に涙が流れてきた。
これまでの33年間の人生、恋愛なんてものははっきりいってしてきたことはなかった。
見栄で付き合っているのかと聞かれて誤魔化して昔好きだった人と勝手に付き合っていたことにしてそれを恋愛経験とウソついていた。
はじめてこんなに好きになる人ができた、スキルの力ではあるが、寺田にとってそれは幸せなことで勝手に自分の中の歪んだ恋愛像に黒沢を無理やり当てはめどんどんと妄想を深めていた。
それがもうかなわない……寺田の心は行き場をなくしてしまった。
「バカみたい……もう私行くから」
黒沢は寺田を置いて進み出す。
「あ………どこへ?」
弱々しい声で寺田は黒沢に問いかける。
「マネージャーに会うのよ、こんな場所もううんざり」
マネージャー。
そこで黒沢はマネージャーを誘惑するつもりだ。
行って欲しくない、でも止めようとしたらまた罵声を浴びせられる。
寺田の中の選択肢はひとつしか残されていなかった。
ーー大好きな香耶とずっと2人きりでいたいーー
寺田に背を向け歩いていく黒沢の肩を強引に引き寄せる。
「触るなっていったでしょ!」
黒沢が振り向いた勢いで頬を叩こうと手を振りかざす。
寺田は構わずに黒沢頭を引き寄せ強引にキスをした。
「んんんっ! んっ! んんんん!!」
必死に抵抗するが寺田の体も唇も離れない。
黒沢が大きく目を見開いた。
寺田がナギナタの刃を逆手に持ち、黒沢と自身の心臓を貫かれた。
2人の唇は未だに触れあい、口先からは血が滴り落ちている。
ーーこれで2人は永遠だーー
寺田の執念にも似た歪んだ愛は互いの命を犠牲にして実ることになってしまった。
氷のナギナタで繋がれた2人は一見すると共に求め合う恋人のようにも見える。
引き離そうと寺田の顔に触れた黒沢の手は愛くるしく求めているかのように。
激しく止めた寺田の腕は黒沢の頭と体をきつく抱きしめるように。
死後も2人は倒れることなく口づけあったまま立ち止まっている。
そして、氷でできたナギナタは溶けることなく2人を結び続けていた。
死亡者
黒沢 香耶
刺殺(寺田 朋和)
寺田 朋和
自殺
残り5名
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