第45話 決断

ちゃんと答えるべきか、相手にするべきじゃないのか……

河合はそのまま答えろと言いたげに俺にうなづいている。


「そうだよ……俺のスキルでやったことだ……」


言ってしまった。

どの道バレてしまっていることだ、下手に隠しても仕方ない。


「いいスキルもってるな箕輪ちゃん、というかずいぶん久しぶりに会う気がするよな、会議中にこんなことになってからまだ3日しかたってないのに」


「あ、ああ久しぶり、俺達なんでこんな事になってるんだろう……」


「元の世界に戻ってさ、早くドラゴンファンタジーオンラインがやりたいよな」


すごく普通に話してきてる、やっぱりいつも通りの上田だ。

一緒にネットでやってたゲームの話まで持ち出してきた。


「今はそんな話をしてる場合じゃないですよね! 結局上田さんはここに何を目的にしてきたんですか?」


河合が話をさえぎったことで上田は少し黙ったのち返答する。


「さっきも言ったろ仲間が欲しいんだよ、不安なんだ」


「その割には雑談を始めたりして、ずいぶん余裕そうですね」


あれ……もしかして俺、上田に懐柔されそうになってたのか?


「河合くん冷たいなぁ、余裕なんてないよ、あるわけがない……誰だってこのまま殺されたくはないだろ?」


河合は上田に歩み寄ろうとはしなかった。

気丈に振る舞ってはいるが、一緒にいた副島が河合が居なくなってすぐに上田に殺されたんだ、怒りだってあるんだろう。


話し方はいつもの上田だけど、疑って話を聞いていると何が裏があるようにも思えてしまう。


ここは俺もしかけてやるか。


「上田ちゃん、知ってるみたいだから隠さないけど、これまでのやりとりはほとんど見えたんだ、仲間を殺した上田ちゃんを素直に信用できない」


俺の言うことを上田は眉1つ動かさず聴いている。


「河合も言うようにそんな上田ちゃんと一緒にいるのは不安なんだ! もし俺達を信用してるなら上田ちゃんの今持っているスキルを教えてよ!」


これでどうだ! 上田のスキルが分かればこっちが有利……

あれ、河合が苦い顔をしてる……


俺なんか間違えたのか……?



「そうか……そこでは相手のスキルまではわからないのか」


しまった……上田のスキルを知らないことがバレてしまった……まさかここに来たのもそれが目的だったのか?


部屋に入れてしまえばステータスがわかるけど、それは危険だし……


……まだアレは使いたくない……


まずい、上田と話してるとつい色々言いくるめられてしまいそうだ、俺は話をしないほうがよさそうだ。



河合に目配りをして、上田の相手を任せることにした。


「上田さん、探りあいはしたくありません、ここに来たってことはひとりでマネージャーと争うほどのスキルはもってないってことですよね? ただ、今の上田さんと素直に対面できるほどお人好しじゃないんで、この先どうしたいのかをこの場で教えてください、俺達の対応はそれから考えます」


しっかりしてるな河合……

それに引き換え俺は、後輩に頼ってしまうなんてダメな奴だ……

いやいや、今はそんなこと言ってる場合じゃないか、頼れる奴に頼らなきゃ全滅してしまうんだ。

ここでのやりとりは河合に任せよう!


河合の問いかけに上田は答え始めた。


「色々誤解されているようだけど、俺は河合くんやそこにいる人達を殺そうなんて全く思ってないよ……」


「副島さんと竹内さんを殺してるじゃないですか、口ではなんとでもいえますよ」


「俺だって死にたくなくて必死なんだ、殺したくて殺したわけじゃない、誰だってそうだろ?」


「俺は誰も殺してなんていません」


「そういう場に出会さなかっただけだ、喜んで殺しをしてる人なんていなかったはずだ、それぞれ家族がいたり大切なものがあるから元の世界に戻るため仕方なくやったんだ」


こんな状況でも上田は妙に落ち着いている、一番危険な場所にいるはずなのに……

いってることはわからなくはない、俺だってデバッグルーム以外のスキルを持っていきなり襲われたら積極的に殺しはしないとしても逃げるために傷つけることくらいはしたかもしれない……


スキルの巡り合わせで何が起きるかわからない状況だからきれいごとなんて言っても仕方ないのかもしれないけど……


河合は黙り込み考えていた、下手にしゃべって情報を与えるのも怖いから慎重になっている。


「返事がなくなったけど、信じてもらえたのかな? さっき河合くんが言ったようにこのままだと俺はマネージャーに襲われて殺されてしまう、それをわかってて見捨てるつもりだとしたら、君達は俺を殺したのと同じじゃないか?」


「それが信じられないからこうして話しているんです、現に自分のスキルも教えようとしていない……上田さんがやられるのなら自業自得じゃないですか?」


「じゃあ俺がここでスキルを伝えたとして信じるのかい?」


河合がまた黙り込んだ。

押されてる……河合よりも上田の方が一枚上手だ……


なんでだろう、裏があると言われれば確かにと思うけど、俺には上田が悪い奴とはどうしても思えない。


ここで上田に何かされたとしたらすべてが台無しになってしまう……



中村さん、河合……ごめん!


「上田ちゃん、目の前の電信柱の影にテニスボールくらいの黒い空間があるでしょそこに触れてみて」


上田にデバッグルームの出入口を教えた。

確信なんて何もない……俺は俺の直感を信じる。


「箕輪さん、なにを!?」


河合が驚いている……


「ごめん……でも俺は上田ちゃんを信じたい……」

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