第11話 小島劇場
「話をするっていっても若井さんがどこにいるかわからないんじゃ……」
「実はすでに杉原さんに監視してもらっている」
小島は小学校を拠点にして早々に若井を発見していたが、そのことを一部の者以外には伝えていなかった。
協力して若井を探そうとしているにも関わらず情報を隠されたことに菅原は納得がいかなかった。
「わかってるのになんで教えてくれなかったんですか?」
「いいだろそんなこと、そんなことより誰か若井さんと話をしようと思う人はいないか?」
菅原の質問を煙に巻くように小島は全員に問いかけた。
当然名乗りをあげるものなどいない。
不穏な空気が漂っていた、金子がいれば小島に文句の嵐が飛ばされていることころだろう。
小島は新入社員時代から歯に衣着せぬ物言いで上司や先輩から可愛がられてきたが、その性格が災いして衝突することも多かった。
評価するものも少なくはないが敵も作ってしまう性格、本人もそれを自覚してはいるが、ある種取り柄でもあると言い聞かせて行動している節はあった。
30を手前にして、小島を評価するマネージャーの井上に今のチームに引き抜かれ、リーダーを任されるようになったが、下っ端時代とは違い、強引に進めることを止めるものがいなく、強いものいいも若手時代の勢いと捕らえてもらっていた時期か終わりワガママと見られようになっていた。
そのことに小島は違和感こそ感じてはいるものの気付けてはいなかった。
「中村さんせっかくだからどう? 若井さんと話してみない?」
金子に連れられ品質評価チームに同行している中村に小島はけしかけた。
「私は……すいません」
「えっ嫌なの?」
「嫌というか話したこともほとんどないんで……」
「同じ部署にいるのに話したこともないの? それじゃダメだよ、もっと積極的に行かなくちゃ! じゃあ黒沢さんはどう?」
「ええぇ、私?」
まさかのとばっちりに黒沢の声が上ずった。
「黒沢さんなら若井さんと話したことあるでしょ? やってみてよ」
黒沢に対しても無茶振りのスタンスは変わらずに小島は押し進めた。
「話くらいはしますけど……このタイミングで何を話したらいいかわかりませんし……」
「いっぱいあるでしょ、今の心境とかさ、これからどうするかとか」
「それを私が聞くんですか……?」
この場で魅了スキルを使えば小島を屈させることはできたかもしれないが、他の目のあるこの場でスキルを使うことを黒沢はためらい、曖昧な答えしかできなかった。
「小島さんが行ってくれるんじゃないんですか? さっき私に言ったじゃないですか」
強引な小島に対し、山田が割って入った。
予想しない追撃を受け小島は苦し紛れに話し出す。
「いや、俺が行ったらまとめられる人がいなくなるだろ」
納得するものは誰もいなかった、全員が言葉を失い気まずい沈黙状態となった。
小島は本気で行かせようとしていた訳ではなく、本心は「この中で若井と話をしにいくことができる勇気のある者なんて小島さんしかいない」と周りから敬われながら出発したいと考えているだけだったが、今の状態でその気持ちは伝わることはなかった。
「しょうがない俺が行くか」
誰も発言しないことにいたたまれなくなり、小島はようやく自分から行く決心をした。
ガタイのいい小島は自身の大きな手で両頬をパンパンと2回はたいた。
「ちょっと行ってくらぁ!」
決意してからの行動は早く、スタスタと屋上からそのまま校庭につながる階段に向かっていった。
「小島さん! 本当に若井さんと話す必要があるんですか!?」
階段へ向かう小島を菅原が引き止めた。
若井の心境や状態はともかく渡辺を殺した張本人と一対一で話をする、そんな相手に話が通じるのだろうか、誰もがそれは感じていた。
若井は限りあるこの空間の食料を暴食している、このペースで食べられ続けたらそう遠くないうちに食料が枯渇してしまうかもしれない、外部からの接触を断裂されたこの環境では警察が来てくれるかもわからない、ここで最低限のライフラインを確保するためには自分から動かなくてはすぐに限界がきてしまうだろう。
ひとりで行くべきじゃなかったのではないか、では誰か一緒に行くかと言われて行く者はいたか……小島なりに考えて取った一連の行動ではあった。
「もう日が暮れる、ここで対策を打っておかないと後で取り返しのつかないことになるかもしれない」
振り向いて返事をした小島の顔はいつになく緊張感を感じさせる真面目な顔だった。
「山田さん、さっき話した作戦、いざとなったらよろしくな」
そう言い捨て、山田の返事を待たずに小島は階段を降りていった。
「小島さんまで酷い目にあったらどうしよう……」
階段を降り姿の見えなくなった小島を身を案じ菅原が不安そうに呟いた。
「覚悟はあるんだと思う、無事であってくれれば何よりだけどね」
山田は小島の決意を感じていた、このまま何もなければいいが万が一の時は……
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