第10話 休日3

 プラネタリウムを出た後、なぜか美冬は少し恥ずかしそうに笑っていた。俺は一体どうしたのかと思って聞いてみたが


 「別に、なんでもありませんよ?」


 と言っていたので特に気にしないことにした。


 1階の入場口に戻り、帰る前に


 「悪い。トイレ行ってくるからちょっとだけ待っててくれ」


 と伝えて俺はトイレに入った。


 「それにしても、何であんな夢を見たんだ・・・?」


 なんかめっちゃ恥ずかしいんですけど!うわぁぁ!


 俺の妄想を具現化しただけだろどうせ!いやぁぁぁ!


 と内心で思っていました。


 それと美冬の様子も少し気になった。


 「うーむ」


 結局、考えても分からなかった。


 そうしてトイレから戻ると


 「!!」


 美冬に絡む男がいた。ふたりだろうか。見た感じ、俺と同じか一個下の連中だろう。一人は黒髪で頭ツンツン、全身黒で統一しており、チェーンのようなものをズボンにつけている。

 もう一人は金髪で服装が派手目な男だ。ちなみにふたりとも顔は意外とイケメン。


 ってそんな情報いらねー!こういうチャラついたやつに限って意外と顔は良かったりするものだからたちが悪い。くそったれ!


 「ねぇキミキミ~、今一人?俺と一緒に遊ばねぇ?」


 「お嬢さん今一人?僕たちと遊ばない?」


 などと言ってやがった。こんなところでナンパしてんじゃねぇよ!


 やつらの言葉に美冬は


 「あ、あの・・・」


 と気圧され気味だった。


 あいつらは多分こんなところでは手荒なことはしまい。館内の隅のほうとはいえ人の目がないわけではない。だがしないとは限らない。どうする?そうなったら俺はまるで役には立たない。


 それでも、それでも俺はイチかバチかの賭けに出ることにした。俺は深呼吸をして心を落ち着かせ、目元に力を入れる。


 そう、俺の欠点でもある目つきの悪さを使ってやつらを脅し、追い払おうという作戦だ。これはあくまでもハッタリにすぎないのでやつらが強引な手段に出たら俺が身を挺してでも守ってみせる。


 美冬は、美冬は・・・俺の、そして妹の大事な人だから。


 だって~美冬が傷つくと夏美が悲しむでしょ!それだけは避けたいの~


 何度でも言おう。俺は・・・・・


 シスコンだ!


 俺がやつらに立ち向かおうと足を踏み出したその時


 バシュ!バシュ!


 と足かけ技によって見事に倒されて手を後ろで持たれていた。


 「あんたら最低!嫌がってるのが分からないの?」


 突如、金の閃光が現れた。


 やつらは「いだだだだ!」と言って痛がっていた。


 「ほら、この子に謝って!」


 と謎の少女が言うと


 「「ごめんなさ~い。もうしませんから離してくださーい!」」


 と言ったので彼女が手を離すと逃げていった。


 は?なんなのこいつ?


 俺の勇気返してぇぇ!!


 俺は立ち尽くしていた。


 謎の金髪少女は美冬に


 「大丈夫?なんかされなかった?」


 と心配そうに見つめて言った。


 「は、はい。大丈夫です。ありがとうございました」


 「うん。よし!それじゃ!」


 「あ、あの名前は・・・」


 美冬は彼女の名前を聞いたが、何も言わずに去っていった。


 なんだったんだ?あいつ?


 俺は美冬のもとに向かった。


 「わ、悪い。俺が・・・助けられなくて」


 「いえ。冬人さんのせいじゃないですし。それに助けてもらいましたので」


 「そっか。あの人、だれか知ってる?」


 「いえ、知らない人です。けれど美人でしたね」


 「そうか?」


 俺は突然の出来事に面食らっていたので記憶があいまいだった。多分、年は俺とあんま変わらないだろうとは思ったが。


 この時の俺はあの金髪少女にもう一度出会うことになるとは全く思っていなかった。


 ***


 それから来た道をたどるようにして家に帰った。夏美からも


 「お昼ご飯作っといたよ!」


 とメッセージがあったのでね。


 帰り道では美冬の学校での様子などを聞いた。他にも少しだが雑談をしていた。


 やっぱり僕、女の子との会話にはあんまり慣れてないようなんです・・・・・


 「今日・・・楽しかった・・・ですか?」


 そ、そんな目で見ないで!照れちゃう!


 「お、おう。もちろん、楽しかった」


 「そう・・・ですか・・・」


 俺の言葉に美冬は穏やかな微笑をたたえてそう答えた。


 実際、楽しかった。けれどちょっといろいろ大変でしたね。


 40分ほど電車に乗って、20分ほどバスに乗ると家に到着した。


 俺と美冬が家に入ると


 「おっかえり~!お昼できてるから食べよ!」


 と夏美が出迎えてくれた。


 今日も夏美は可愛いな・・・うんうん


 と一目見て思った俺でした。


 ***


 三人で昼食を食べた後、美冬が後片付けをやっといてくれるとのことだったのでお言葉に甘えることにした。


 夏美が「速攻で着替えてくるー」とか言って二階に行ったので玄関の壁にもたれて待っていると


 「じゃーん!どう?どう?似合ってる?」


 とキラキラお目目で近寄ってきた。


 夏美はベージュの花の模様が施された服に桃色のスカート、そして花の髪飾りをつけていた。


 正直言って・・・


 めっちゃかわええええええええええ!!


 やはり妹は最高だな!わははは!


 「おう、最高に似合ってるぜ妹よ!」


 「感謝するぜ兄者!」


 そう言ってハイタッチ!いつものノリだ。


 うむ、今日も俺たちは通常運転である。


 「さて、いこっか。お兄ちゃん!」


 「おう。行こうぜ!」


 俺たちは手を取り合って家を出た。


 ***


 どうやら近場らしいので「歩いて行きます!隊長!」とのことだった。


 いや、今日は君が先導するのだから君が隊長じゃな~い?


 と思いましたがツッコミませんでした。


 家を出た瞬間、夏美は俺の左腕に自分の右腕をがっちりと絡ませた。


 いろんなところが成長してますね、ええ。


 そんなことはともかく。


 めっちゃ見せつけるようにして歩いてるから周りからジロジロ見られるんだが!


 「ああ?なに見てんだボケ!」


 とでも言いたげな視線を道行く連中に浴びせなければならなかった。


 通りかかったおばあちゃんが


 「あらあら~、仲いいねぇ~」


 とこっちを見てそう言っていた。


 うん、その通りだよ!おばあちゃん!俺たちの仲の良さは日本一、いや世界一、いやいやいや、宇宙一だよ!


 宇宙人にも兄妹ってあるのかしら?


 道中、夏美は


 「お兄ちゃん、お兄ちゃん。私とお出かけできて嬉しい?ねぇねぇ?」


 と何度か腕をぐいぐいやりながら聞いてきた。


 「あ、ああ嬉しいよ!でもちょっと腕があああああ!」


 きみ、ちょっと力強くありません?


 いたぁぁぁい!


 んだけど!


 兄ちゃん、夏美がちゃんと成長してるようだから感動しちゃったよ!うるうる。


 そうして20分ほど地獄の、もとい、最高の時間を過ごしながら歩くと


 「ここだよ!」


 ということだったのでそこに入った。


 ここはまだ比較的新しいショッピングセンターだ。中にさまざまな店が並んでいて映画館もあり、なかなか楽しめる場所だ。別に俺はこういうところに出かけるのは嫌いではない。


 「んで、どこ行くんだ?」


 「もっちろん、映画です!」


 いや、もっちろんかどうかは知りませんが。


 まぁ映画は嫌いではない。ハリウッドのヒーローが出てくる映画とかSF系もなかなか面白くて好きだ。


 夏美がエスカレーターに乗ったので俺もそれについて行った。休日のショッピングセンターは買い物客や俺たちのように遊びに来ている客であふれていた。


 エスカレーターを2回ほど乗ると映画館が見えてきた。ここの映画館はなかなか環境のいいとこだと聞く。


 「どれ見るんだ?」


 「これだよ!」


 「これか!」


***


 カウンターで席を決めてチケットを買い、館内に入った。


 「お前、こういうの好きだったか?」


 「うん。私もお兄ちゃんと一緒にテレビとかでこのシリーズ見てたもん」


 「そうか」


 このシリーズは何度かテレビでも放送されており、それを見ていたらいつの間にか好きになっていたということだろう。


 席に座ると夏美がしっかりと隣の俺の手を握ってきた。


 ちょっとお兄さん恥ずかしいな・・・・・


 なんか恋人同士みたいです。


 でも、嫌ではないんですよ!うっれしいなぁ~


 しばらくすると映画が始まった。内容は宇宙船に乗ってさまざまな惑星に行って探索をしたり、帝国軍と呼ばれる組織とそれに立ち向かう反乱軍が戦いを繰り広げるというものだった。作中にはレーザー銃やビームサーベルのような近未来的な武器が出てくる。やはりこのシリーズの戦闘シーンとか世界観は何度見ても面白いと思う。これのアニメも俺は見たことあるよ!


 男ならこういうSFアクション系に燃えるよね!


 となりのマイシスターも目を輝かせながら映画に見入っていた。正直俺も満足いく内容だった。


 90分ほどの映画を見た後、俺たちはここにあるカフェに入って映画の内容について語っていた。


 「今回もおもしろかったな!」


 「うん!死んだはずの悪の帝王がまた出てきたとことか!」


 「それな!」


 みたいな会話をしていた。


 そうしてその後カップルみたいにふたりで自撮りをした。


 慣れないからちょっと恥ずかしかったですが妹の頼みなら何でも聞いちゃう僕です!


 いい時間になったのでショッピングセンターを出て家へと向かった。太陽は西に傾き、カラスが鳴いていた。


 「今日は楽しかった?お兄ちゃん」


 「おう、もちろんだとも」


 「じゃあ私のこと好き?」


 なんでその文脈で「じゃあ」が出てくるんだ?まぁけれども好きなのには違いない。


 「お?おう好きだとも」


 「その好きは好き?」


 夏美はそう言って握っていた手を少し強めた。


 「・・・?」


 どういうとは・・・?それこそ意味が分からない。


 そもそもなぜこんなことを聞くのか? 


 俺が黙っていると


 「ううん。やっぱりさっきのなし」


 と言ったので俺からも何も言わないことにした。


 そのうちに家が見えてきた。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る