第27話 テスト勉強?(その2)

 「おう、来たか。まぁ、適当に座ってくれや」


 俺は水無月に適当な椅子を勧めた。すると水無月は「そうだね」と言って俺の右隣りの席に座った。二条は無言でじっと水無月を見ている。


 「ねぇ、誰だっけ?この子」


 二条が俺の方を向いてそう言ってきた。あらら、覚えていらっしゃらないようです。


 「さぁ?誰だっけか?」


 俺がすっとぼけてみせると水無月は


 「き、君は覚えてるだろ・・・」


 と力なく突っ込んできた。彼はがくっと顔を俯かせていた。どうやら二条に名前を憶えられていないことがショックだったらしい。こいつ、乙女かよ・・・


 「ったく、しょうがねぇな。二条。こいつは水無月だ。水無月孔平」


 俺がそう言うと二条は「あー!」と今思い出したかのように手を打って


 「冬人の友達(仮)のジュンくんね!思い出した思い出した!」


 「そうそう、その通りだ」


 って、何で俺が考えたあだ名を知ってるの!?


 こいつも同じこと思っただけか。


 俺はふんふん頷いて同意した。すると水無月孔平ことジュンは、逆だったか。ジュンこと水無月孔平はすかさず


 「いや、ほとんど合ってないんだけど。孔平だよ孔平」


 苦笑いでそう突っ込んできた。友達(仮)は事実だろう?


 まぁ、それはともかく。


 「何でこの子を呼んだの?」


 二条が俺にそう聞いてきた。まぁ当然の質問だろう。聞いてもいないやつがいきなり現れたら驚く。

 本当の意図は隠して、俺は説明した。


 「ああ、こいつもなかなか頭良くてな。1年の時はテストの上位者だったんだ。だからこいつにも教えてもらおうということだ。それに一応、本当に一応友達だから」


 「ふーん、そっかぁ」


 俺が説明すると二条は聞き流すようにそう答えた。心なしか不機嫌に見えた。

 

 「ま、いいよ」


 二条は水無月に向かってそう言った。顔には笑みを浮かべていたが、それは俺に向けるものとは違うもののように見えた。気のせいか。


 「んじゃ始めるか」


 俺がそう言うと、ふたりは机をくっつけ始めたので俺もそうした。


 そうしてその後、各々がノートやらワークやらを取り出して勉強を始めた。


 西日が教室に差し込んで室内をオレンジ色に染めていた。


 ***


 一時間ほど俺たちは無言で勉強にいそしんでいた。しかし俺が数学の問題に頭を悩ませ始めると隣の二条が


 「そこはこの公式を使ってこう解けばいいの」


 と言って式と答えが書かれた紙を渡してきた。俺がそれを見ていると水無月も覗き込んできた。何だお前、ちけえぞ!どっかいけ!


 俺が呼んだんですよね・・・


 「二条さん、すごいね。これが解けるなんて。ああ、でもこんな解き方もあるから」


 そう言って水無月は自分の机でペンを走らせた。そしてこいつも二条と同じように紙を渡してきた。


 「おお、そうか!こう解くのか!」


 やっぱり天才は違うな・・・。っつーか水無月のやつ、二条のことを褒めておいて自分はちゃっかり別の解法でも解けるアピールをしてきやがった。俺は気に食わなかったが二条は


 「あ、そっか!そんな解き方もあったね」


 と言ってうんうんと納得していた。水無月はその様子を見て少し嬉しそうだった。良かったな。よし、しょうがないからここは俺が手助けしてやるか。


 「ほら、すげぇだろ、こいつ。だから遠慮せずにわからんとこはこいつに聞いてくれ」


 「そ、そうだね」


 俺がそう言うと二条は水無月の方を向いて軽く同意した。


 「けど、君は他人の心配してないで自分の心配をしてなさい」


 言われてしまった。分かってるよ。


 ***


 始めてからしばらく経ってから、俺が伸びをしていると「うーん」とうなりながらシャーペンを口元に押し当てている二条の姿が見えた。


 これはチャンスか・・・


 俺は水無月に耳打ちする。


 「おい。あいつが困ってるぞ。助けてやれよ。俺はちょっと教室を出てやるから」


 俺の言葉に水無月は苦笑いを浮かべながらも


 「う、うん。そうだね。頑張ってみるよ。ありがとう」


 そう言って水無月は席を立って二条の机の方に向かった。


 俺がそれを見て席を立つと二条は顔を上げて


 「ん?どうしたの?」


 と首を傾げて聞いてきた。


 「ああ、ちょっとトイレ行ってくるわ。あとついでに飲み物買ってくる」


 俺は彼女の返事を待たずに教室を出た。ドアが閉まりきる直前、二条が不安げな表情でこっちを見ていた気がした。


 俺は教室を出て、廊下の突き当たりにあるトイレに向かった。用を済ませた後、俺はさっきの言葉通り階段を降りて一階にある自販機に向かった。気づけばもうだいぶ暗くなっていた。昇降口の外では部活終わりの生徒がぞろぞろと帰っていく姿が見えた。


 「もうそんな時間か」


 俺はふとスマホを見ると、通知が何件か来ていた。夏美だ。


 『お兄ちゃん、どうせ二条さんとイチャつきながら勉強してるでしょ!』


 『早く帰ってこーい』


 『帰ってこーい』


 『今からそっちに行っちゃうね☆』


 なんてメッセージが来ていた。かっわいいなぁ、ホント。そんなに兄ちゃんに早く帰ってきてほしいのか。そうかそうか・・・


 って、今から来るの!?マジで!?


 それは3分くらい前に送信されたものだった。やべぇ、急がないと。


 俺は適当にコーヒー3つを買ってさっきの教室に向かった。今、ふたりがどんな状況かは分からん。もしかしたら存外仲良く教え合っているかもしれないし、お通夜みたいな空気が流れているかもしれん。


 もし前者だったらどうしよ~う。邪魔するのは悪いしなぁ・・・。


 俺がそんなことを考えながら歩いていると


 「いでっ!」


 壁にぶつかってしまっていた。いったぁ。我ながらアホすぎる。どうやら例の教室を通り過ぎて突き当たりの壁に激突してしまったらしい。


 俺は教室に入る前に中の様子をちらと窺って、その後にしゃがみこんで耳を扉にくっつけた。すると中から二人の声が聞こえてきた。


 「ねぇ、二条さん。二条さんって、卯月君のこと・・・・・好きだよね?」


 俺は耳を疑った。何で俺の話なんかしてんだよ・・・


 「えっ・・・い、いやそんなこと—」


 「見てれば分かったよ。二条さん、卯月君の前だと本当に楽しそうだから。今日のお昼も見てたよ」


 あのとき感じた視線はやっぱりこいつだったのか。


 「・・・・・・・・・」


 しばらくの間、二条は無言だったがやがてまた話し始めた。


 「う、うん・・・。そうなの」


 二条がそう言うと水無月は


 「やっぱりかー」


 と力が抜けたような声でそう言った。


 「で、でもね、彼、好きな子がいるのよ」


 「え?そうなの?初耳だけど」


 そりゃそうだ。(仮)ごときに言うかよ。何なら男には誰にも言わないまである。


 「しかもその子、結構可愛くて。私に振り向いてくれるかな・・・」


 「そうなんだ。・・・けど、二条さんなら、大丈夫だよ」


 「何でそう言い切れるのよ?」


 そう言った二条の声は不機嫌そうだった。


 しかし水無月は臆することなく言い放った。


 「だって二条さんは、ぼ、僕が好きになっちゃうくらい魅力的な子だと思うから」


 !!


 これにはさすがの俺も驚いた。


 はぁぁぁ~。どうしよう。なんか大変な状況になってきた。

 

 俺はどうするのが正しいのだろう。何もなかったかのようにそのまま教室に入るか、それとも「今の話、本当か?」と言って入るか。


 まぁ、確かに最近二条はアピールっぽいことを何度かしてきていたけれど・・・。


 正直、恋愛初心者には難しすぎる局面だと思う。俺は彼女の好意に対して、どうふるまうのが正しいのだろうか。


 結局俺は、そのまま彼らの話が終わるまで扉の前に座り込んでいた。


 

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