第26話 テスト勉強?(その1)
週が明けた月曜日。昨日は俺も夏美も家でゆっくりと過ごしていた。中学生たちは土曜日に体育大会があったため、今日はお疲れ休みのようである。ちなみに俺と二条が通う高校は体育大会は平日にやるため、そんなものはありませーん。
俺が一人で家を出ようとしたら夏美のやつが「私も行く!」と言ってきたのだが俺は「せっかくのお疲れ休みなんだ。ゆっくり休んどけよ」といってなだめた。実際、嬉しい申し出ではあったんですよ?ほら、俺のためなら休みでも関係ないという精神が垣間見えて。でもね、兄ちゃん・・・
夏美が過労で倒れでもしたら罪悪感で軽く100回は死ねるんです!だからごめん!お願いだから今日は休んで!
的なことを伝えたら、しょんぼりしながらも
「・・・うん。わかった。行ってらっしゃい」
と言って薄く笑った。そんな顔見たくなかったなぁ。でもちょっと可愛いと思った冬人でした。
俺が玄関のドアを開けて外に出ようとしたとき、後ろから声をかけられた。
「二条さんとイチャイチャしないでねー」
俺は一瞬立ち止まった。その後首だけで振り返ってにやりと皮肉っぽく笑って
「しねぇから大丈夫だよ」
とだけ言い残して外に出た。
季節はもうすぐ6月だ。徐々に梅雨の足音が聞こえてくる。そしてテストが近かった。
そんな時期でも二条小春は俺の家の前で腕を組んで仁王立ちしていた。
「おっそーい。待ちくたびれたぞ」
「別にそんな遅くねぇだろ」
この会話ももうずいぶんとやっている気がする。そう思うと俺は自然と笑みが漏れた。
「なーに笑ってんの?あ、まさか今日の小春ちゃんもきれいで素敵だなぁとか思っちゃた?」
二条はにやりと笑いながら近くに寄ってきた。
「そんなんじゃねぇよ。ほら、行きますよお嬢様」
そう言って俺は学校へと足を向けた。すると二条は「なーんだ。つまんないの」と言って俺の後をついてきた。
しばらく歩いて気がついた。
ま、待てよ。今日は夏美も美冬もいないから、こいつと・・・ふたりきりなのか。
うーん、何かそう思い始めたらむずがゆくなってきた。ちらと後ろを見ると二条は「ん?どしたの?」みたいな顔をしながら首を傾げてきた。そんな様子も悔しいことに可愛らしさがあったので俺は思わず前に向き直った。
いかんいかん。なんか適当な話題で誤魔化さないと。
「あ、そうだ。もうすぐテストだな」
「そうだねー」
「俺数学苦手だから、早めにやっとかないとなぁ」
俺がそんな風にぼやくと二条は
「そうなんだ!んじゃ、私が教えてあげるよ」
と言って俺の隣に並んできた。彼女の瞳はいつものようなからかうような雰囲気はなく、口元は優し気に微笑んでいた。
ぐ、たまに見せる大人っぽいところ、本当にきれいなんだよな。
そんなことを頭の片隅で思ってしまった。
「ん?どしたの?まさか私に教えてもらいたくないとか?」
俺が黙っていたので二条がそんなことを言ってきた。
「あ、ああ悪い。ま、まぁできることなら・・・お願い・・・したい、かな」
実際、友達とテスト勉強をすることに少しだけ憧れがあったのだ。だから俺は本心を伝えた。
「そっかそっかー!この私じゃなきゃ嫌なんだねぇー!素直でよろしい!」
二条はそう言って俺の肩をたたいてきた。
やっぱこいつ、うぜぇ。
うーむ、テスト勉強か・・・・・
そうだ!
よし。あいつも呼んでやるとするか。まぁ一応約束しちまったしな。報酬は払ってもらうけどな。
俺がにやりと笑っていると二条がそれを見て
「なーに笑ってんの?気持ち悪い」
とか言って俺から距離をとった。
うるせえ。この笑い方ももともとなんだ。しょうがないだろ。
***
俺たちは教室に入って、自分たちの席に着いた。二条は相変わらずの人気であり、すぐに俺以外の友達らしき子たちが集まってきた。
俺は二条がそっちに気をとられている隙に、彼のもとにゆっくりと近づいていった。
そう、彼とは。
「よ、よう。ちょっといいか」
「ん?お、おはよ。珍しいね、君から声をかけてくるなんて」
あのさわやか眼鏡イケメンこと、水無月孔平である。
そういえばもうすぐ6月だな。よし、6月になったらジュンと呼んでやろう。
え?どうしてジュンかだって?
ほら、水無月って今でいう6月のことだろ?それを英語で言うと「June」だろ?
だからだよ!我ながら名案だなワハハ。
「何笑ってるの?なんかいいことでもあった?」
「別にそんなんじゃねぇ。むしろお前にいい話があるんだ」
そして俺は水無月の耳元に口を寄せて、内容を話した。
「うーん、なるほどね。でも僕はお呼びじゃないけど・・・」
「いいんだよ。お前は俺の友達(仮)なんだから」
「(仮)は取れないんだね。まぁ確かに君の友達としてならいいかも」
「それにお前、結構勉強できるだろ?俺と二条に教えてくれよ」
「君はともかく、二条さんはどうかな・・・。まぁとにかく分かったよ」
そう言って水無月は光り輝く笑顔を見せた。いちいちうざいな・・・
「おう。んじゃ放課後」
俺は自分の席へ戻った。
***
昼放課。
「今日は何をご所望でございますかお嬢様」
俺はいつものようパシられようとしたのだが
「いや、今日は私もいっしょに行くから。いっつも君をいいように使うのはさすがにね」
そう言って二条はちょっと照れながら笑った。
ええ・・・どうしちゃったの。別にいいんだけど。
急に優しさを見せられてもね。ちょっと疑っちゃいますよ、僕。
「なんだ?またなんか企んでるのか?」
俺がそう言うと二条は頬を膨らませながらすねて
「失礼ね!別にいつもいつも変なことを考えてるわけじゃないんだよ?ちょっとは私のことを信じてよ」
「たまに変なこと考えてるんですね・・・」
俺はため息をついた。
「ま、まぁ勝手にしろ」
「うん」
俺たちがふたりで教室を出て行くのを見ていたやつの視線が気になったが、放っておいた。
***
そうして俺たちは購買から戻り、再び教室に入って席に座った。
買ってきたパンを食べながら俺は話を切り出した。
「なぁ。今日の勉強会?ってどこでやるんだ?図書室でも教室に残ってでもいいが」
「そうだね・・・」
二条はおにぎりを咀嚼しながら答えた。
「君はどこがいい?」
「人任せかよ・・・」
まぁ僕に任せてくれるならいいですけど。
「んじゃ、3階の空き教室で。教室は多分人が残るし、図書室もこの時期は人が多くなって集中できんからな」
「オッケー、んじゃそこで」
あっさり承諾。まぁ好都合ですけどね。
***
そうして放課後。
俺と二条は約束通り3階の空き教室に向かった。あそこは普段はクラスを分けて行う授業のために開放されているのだが、そうでないときは特になんてことのない教室である。
遠くで野球部のバットの音や、吹奏楽部の楽器を演奏している音が聞こえる。
「ここだ」
「ここね・・・。私たちは使ったことないね」
「ああ」
ここは俺達の教室がある棟とは別の棟にあるから普段は使わない。
俺たちは教室に入って、適当に座った。っても、窓際だが。俺は外の風が当たる窓際の席が好きなのだ。
二条も俺の隣に座った。俺はスマホを開いて夏美に「今日は残って勉強してくからちょっと遅れる」というメッセージを送った。そうしてその後教科書やら何やらを取り出して机に置いた。
「始めよっか!」
二条がそう言ったのだが俺は「待て」と言って制した。
「どして?」
二条がくてんと首を傾げた。
「もうそろそろやつがくるからだ」
「やつ・・・?」
するとその時、扉が開かれて一人の男が現れた。
「や、やぁ」
そう、あの水無月孔平ことジュンである。
これはテスト勉強を利用して教室に二条と水無月を集めて、機をうかがって俺が「トイレだ」とでも言って教室を出てふたりきりにさせようという作戦なのだ。
さて。上手くいくのだろうか・・・
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