第18話 何なんだ

 あの後、俺達はふたり教室に戻って授業を受けた。あ、もちろん他のクラスメイト達もだよ?二条が帰ってこなかった理由は「なんか自転車置き場で足くじいて動けなかったみたいだ。人も少ないしな」みたいな適当なことを言っておいた。


 水無月を始め、クラスメイト達には


 「くそ、卯月に先を越されるなんて!」


 「さっすが!やっぱりふたりは仲いいね!」


 「見てろ!俺に惚れさせてやるからな!」


 とか言っていました。このクラスには多分悪い奴はいなさそうだが、こいつを狙うやつが多すぎやしませんかね?


 俺?まぁ~ったく狙ってないよ?あったりまえじゃん!美冬一筋ですから!


 そしてその放課後。


 俺が鞄に教科書やら何やらを詰め込んでいると、二条が俺に近づいてきて、制服の袖あたりを小さくつまんできた。


 「・・・・・・帰るよ。送って」


 こいつにしてはやたら元気のない声でそう言ってきた。何だよ、そんなに参っちまってるのか?


 まぁ今日ばかりは仕方ないか。


 「ああ、分かったからちょっと待ってろ」


 俺は手早く支度を終えて、席を立った。そして教室を出て昇降口へと向かった。


 「・・・・・」


 その間、二条は一言もしゃべらずに袖口を握りながらそっぽを向いていた。


 「どうしましたお嬢様?体調がすぐれないならわたくしが看病して差し上げますが」


 俺が冗談っぽく口の端に笑みを浮かべながらそう言うと


 「うっさい。・・・・・でも、ありがと」


 そう言った二条の顔ははっきりとは見えなかったが微かに赤くなっている気がした。


 は?どうしたのこいつ?マジで熱あんじゃね?


 俺たちはそのまま一階まで降りて昇降口で靴を履き替え、外に出た。外では部活動にいそしんでいる生徒、ベンチで仲良くおしゃべりに興じている生徒たちの姿があった。


 それにしても相変わらず周りの視線が鬱陶しいですね・・・・・


 そのまま校門の方に向かうと、人影が見えた。中学校の制服を着ている。彼女は帰宅していく生徒たちの視線をしきりに集めていた。


 「冬人さん。お待ちしてました。ついでに二条さんも」


 校門で待ち構えていた神楽坂美冬はそう言って俺ににこっと微笑んできた。


 ああ、可愛いなぁ・・・・・


 とか思いながら俺が呆けていると隣の二条に袖を引き千切らんばかりの勢いで腕を引っ張てきた。


 いってぇ!腕が外れるわ!


 そう思って俺が振り返ったものの、二条は相変わらず俺と目を合わせようとしなかった。なんなんだよ、全く。


 俺は美冬の方へ向き直った。


 「お、おう。そう言えば夏美はどうした?」


 「夏美ちゃんなら今日は委員会の仕事があるそうですよ」


 「そうか」


 何の委員会入ってるんだろうな。聞いてなかったわ。


 「それじゃ、帰りましょ!」


 そう言って美冬は二条がいる方とは逆の腕に飛びついてきた。ぽふっと優しくくっついてきたので全然痛くありません!びっくりです!つい顔が赤くなってしまいます。


 「お、おう。帰ろう・・・・」


 そうして俺たちは三人、帰路へついた。二条は相変わらず無言だった。


 まぁ別にいいけど離すんじゃねぇぞ。


 「冬人さんに命令です!明日、授業が終わったら私の家に遊びに来てください!」


 唐突に美冬がそう言ってきた。


 ええええええええ!何いきなり!あ、でも僕断る権利ないんだった。


 まぁ断るわけないけどね!


 「あ、ああ。分かった。けど何で明日なんだ?」


 「あ、明日は親の帰りが遅い日なんです!」


 「えええええええええええ!!!」


 そんな誇らしげに言われても困るよぉ!


 「れ、連絡できないと困りますよね。教えてくれますか?」


 確かに。横目でちらと見ると美冬がはずかしそうに俺の方をちらちら見ていた。


 そんな顔されたら教えるしかないじゃん!


 「お、オウケー」


 俺がそう言ってスマホを差し出すと、しゃっしゃといじってまた俺に返してきた。


 「はい、これで大丈夫です」


 「さんきゅ」


 俺が美冬からスマホを受け取ると、となりの二条さんから嫌な視線を感じた。


 二条は何も言わずにじぃ~っと俺を見ていた。ジト目である。


 「なんだよ?」


 「別に」


 そう言ってまたそっぽを向いてしまった。


 「それじゃあ冬人さん、私はここで。明日来なかったら分かっていますよね?100通くらいはメッセージ送っちゃいますからね☆」


 きゃああああ!!


 可愛いいい!


 けどちょっと怖い!にこっとしてるんだけど絶対裏がありますよね~。


 ダイジョウブ。逃げないから。


 「あ、でも後で遅れて夏美ちゃんも来ますよ。ちっ」


 何だってぇ!


 まぁあいつのことだからな。俺と美冬が二人きりになるのをできるだけ避けたかったんだろう。


 「それじゃ!」


 美冬は手を振って俺たちとは別の方へ去っていった。振り返ったときにひるがえった銀髪がきらきらとしていて美しかった。


 ***


 そうして俺と二条はふたり同じ方へと歩き出した。


 「明日・・・帰り、送らなくていいわよ」


 二条が唐突にそう切り出してきた。


 「いや、そうもいかねぇだろ。お前、また狙われたいのかよ」


 「別にあたしはあんなのに屈しないから。あの子に付き合ってあげな」


 そう言った二条の声は少し力があった。どうやら少しは気を取り直したらしい。


 「お前の家までそう遠くないだろ。そこまで送ってから美冬の家に行くぐらいどうとでもなる」


 「いいって言ってんのに・・・」


 俺の言葉に二条はしぶしぶ同意したらしかった。


 しばらくすると二条のバカでかい家、そしてその奥に俺の家が見えた。


 「んじゃ、俺はここで」


 「じゃあ。・・・・・・ありがと」


 去り際に二条は微かに微笑んでそう言ってみせた。悔しいがその姿がかわいらしく俺はしばらくあっけにとられていた。


 「なんなんだ・・・・ほんと」


 俺は少し歩いて自宅のドアを開けた。

 

 「ただいまー」


 「お帰り兄貴!」


 玄関には仁王立ちした夏美がいた。


 あれ?


 「お前、委員会があるんじゃ」


 「あったよ。でも終わったら近道して速攻で帰ってきたぜ!もちろん、お兄ちゃんを出迎えるために!」


 「夏美!」


 俺は思わず夏美を抱きしめていた。


 なんて優しいんだ!やっぱ俺の妹は天使だ!


 「全く、しょうがないんだから兄貴は」


 夏美はそう言って俺の頭を撫でてきた。


 君、僕のことを兄貴かお兄ちゃんかどっちで呼ぶの?


 ま、どうでもいっか!今は夏美が可愛すぎて死にそうだから。


 今日は疲れたから夏美にたっぷりいやしてもらおうっと!名付けて「夏美セラピー」!(注 この療法は卯月冬人にしか効果がありません)

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る