第17話 友達だからだ

 「ねぇ卯月。そう言えば君は二条さんの連絡先知らないの?」


 「あ。そうだ、知ってるわ。とりあえずかけてみる」


 水無月の言葉で思い出した。俺はあいつの連絡先を知っているのだった。とりあえずかけてみるか。ただ出るかどうか・・・


 俺と水無月は今も共に校舎周りを探している。俺は足を止めずに通話アプリを開き、耳に当てた。


 「・・・・・・」


 しばらくコール音が鳴り続けていた。だがそれもしばらくすると「おかけになった~」という電子音が聞こえてきて留守電になった。


 「どうだった?」


 「ダメだ。つながらない」


 「そっか」


 ほんと、一体何してるんだよ。全く世話の焼けるお嬢様だ。


 「なぁ水無月。ここからは手分けして探さないか?その方が見つかる可能性も上がるし、そもそも一緒に探す意味がない」


 「・・・・・そうだな。分かった。俺はあっちから回るからお前はこっち頼むわ。見つかったら教えてくれ」


 「了解」


 そう言って俺と水無月は別行動を始めた。俺の読みでは多分、校舎周りにはいない。となると・・・・・


 俺は足を急がせた。


 ***


 俺が向かったのはゴミ捨て場も近くにある自転車置き場だ。ここは自転車がたくさん止められており、人が隠れていても気づきにくい。


 「!」


 俺は数人の人影を見つけたので近くの木陰に隠れて様子を見た。


 「ちょっとあんたきれいだからって調子に乗らない方がいいよ」


 「あんたが出てきたせいで~くんが私と話さなくなったんだけど。どうしてくれるの?」


 「あんたみたいな子はアメリカに帰りなよ!」


 そこには三人の女子生徒に囲まれた二条の姿があった。リンチってやつか。二条が蹴りつけられている。だがあいつの顔はへらっと笑っていた。


 友達になろうと言って二条に近づいてきたのだろう。だがそれはこいつに恨みを晴らすため。最初から友達になろうとは思っていなかったやつらというわけだ。二条からしたら逆恨みも甚だしいところだろうな。


 「・・・っく!あたしに手を出したら家の人が—」


 「あいにく私たちはそんなの怖くないから」


 二条の言葉に三人のリーダーっぽい派手な化粧をして制服を着崩した生徒がそう答えた。


 まぁこんなことしている時点でそんなことは眼中にないだろうな。「私たちがやった証拠はあるの?」みたいなことを言えばいくらでも言い逃れできると思っているんだろう。


 だが。ここに一人、俺が見ている。


 俺は喧嘩では全く役に立たないが盾になってやるくらいはできる。俺はスマホのあるアプリを開いてボタンを押して再びポケットにしまった。


 さて、護衛の出番だ。


 俺はゆっくりと彼女たちのもとに向かった。


 「いっけねー!やっぱ自転車の鍵取ってなかったわ!あぶねー盗まれるところだった」


 俺はそう言いながら自分のクラスの自転車置き場へと向かうふりをした。そして。


 「ん?君たちは何を・・・」


 俺はたった今見つけたふりをしてさらに接近していった。


 「ん?何キミ?」


 「あたしたちはこの子と仲良くお話してたんだよ」


 「そうよ!男子は帰りな」


 よく言う。二条の制服が汚れてるじゃねぇか。


 「あいにくそうはいかないな。そこの二条を探していたところなんだ」


 俺がそう言うと


 「へーあんたこの子の彼氏?」


 「目こっわ!」


 「全然カッコよくないし。マジウケるw」


 目つきが悪いのはもともとだって何回言ったら分かるんだああ?


 ってこいつらには言ったことなかったな。てへ!


 「何か勘違いしているみたいだな。俺はこいつの彼氏じゃない。護衛だ」


 「はは、マジウケる」


 「何言ってるのこいつw」


 「じゃあ君がこの子を守って見せなよ!」


 そう言って再び三人は二条へ暴力を働こうとしていた。


 そうはさせないさ。


 俺は全力で地面に座っている二条の前へと走った。そして彼女たちからの暴力を背中で受けるようにして二条を守った。


 へへ、こんくらい痛くもかゆくもないさ。たまに筋トレしといてよかったぜ。


 もちろん俺からは一切手を出さない。喧嘩は先に手を出した方が負けだっていうだろ?


 「かっこいいねー正義の味方気どりかな?」


 「ほらほらちゃんと守って見せなよ」


 「あたしたちには手を出せないよね。男が女に手を出すのは最低だからね」


 はは、俺は正義の味方でも悪の味方でもない。強いて言うなら


 二条の味方だ。そして友達だ。


 こんなわがままでうっとうしくいやつでも俺の目を見ても怖がらず、むしろ友達にもなってくれた。うっとうしいだけで悪人ではない。お前らみたいにな。


 いってぇ。そろそろ切り札を出すか。


 ちらと二条の顔を見ると、彼女の顔には疑念と恐怖が浮かんでいた。そして俺をずっと見つめている。


 心配すんな。決着はつけてやる。


 「さて、君たちはもうおしまいだ」


 俺がそう言いながらポケットに手を伸ばした。その不審な動作に三人の動きが止まった。


 「な、何があるっていうの?」


 「これを見な」


 俺はスマホの画面を見せた。


 「な!」


 「これって!」


 「マジで!」


 三人組はそろって驚いていた。


 そう、俺が前もって起動していたのは録音アプリだ。これは近づかないと意味ないしな。実際にこいつらが二条や俺に暴力を働いた証拠を得るためには俺が盾になるしかないしな。


 俺は攻撃の手が止まった隙に二条の手をとって距離をとった。相変わらず二条は何も言わずに俺を見ていた。


 「これにはばっちりお前らが二条や俺を攻撃している証拠が残っている。それでもまだやるのか?これを二条の父親に送ってやればお前らはおしまいだが」


 「くっ」


 「ねぇまずいんじゃね?」


 「くそっ!」


 動揺を隠しきれていなかった。勝負あったな。俺はたたみかけた。


 「今後一切こいつに近づくな!分かったか!そうすればこれは消してやる」


 俺が声を少し張り上げてそう言うと


 「「「お、覚えてな。チクショー」」」


 というおきまりの文句を三人そろって言いながら去っていった。


 はぁ。疲れたじゃねぇかこの野郎。


 まぁ護衛(仮)の役割は十分に果たしただろうが。


 「さ、帰るぞ。クラスのやつらが捜してる」


 俺はそう言って教室へ戻ろうとしたが二条はその場に立ち止まっていた。


 「どうしたんだよ?あんなやつらの攻撃が痛かったのか?」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 しばらく二条は沈黙を貫いていた。しかしやがて目にうっすらと涙を浮かべ始めて


 「・・・・・ばか。遅い、護衛のくせに」


 そう言って俺の胸のあたりをたたきながら顔を俯かせてしまった。


 「悪かったですよ、お嬢様」


 「何で私を助けたの?別に私はあんな奴らの攻撃、痛くもかゆくもなかったけど?」


 そう言う二条の声は言っている内容に反して弱弱しかった。


 もちろん。


 「友達だからだ。お前が、俺の初めての」


 俺がそう言うと、二条はその場に膝から折れて泣き出してしまった。


 俺は無言でその様子を見守ってやっていた。

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