第19話 変化

 翌日の朝。昨日は愛する妹に「俺が寝るまで傍にいてくれ!」と頼んだら「もちろんだよお兄ちゃん」と優しく微笑んで承諾してくれた。そのおかげで昨晩はぐっすりと眠れた・・・・・のだが。


 起きた時。さすがに驚きを隠せなかった。


 「・・・・・・」


 頭の中はもう混乱しまくっていた。


 なぜかって?


 あのですね、どうやら僕は妹のキスによって起こされたみたいなんですよ。


 きゃああああああああ!どういうこと!?


 頭の中は「あわわわわ」ともう大変なことになっていました。俺の顔の表面温度は今めっちゃ高いと思う。


 「あ、起きたね。おはよう。お兄ちゃんが『明日はお姫様のキスで起してほしい』って言ってたからやってみたの!どう?嬉しい?」


 「ええ!俺そんなこと言ってたの!」


 寝言でそう言ってしまってたのかも・・・・・


 キスは蜜の味・・・・・


 んなことは今どうでもいいわ!!


 「あ、ああ。う、嬉しいさ。おかげですっきり」


 「そっか!さ、早く起きて」


 「お、おう」


 本当にそんなことを言ったのだろうか・・・俺は。


 朝から妹にドキドキさせられてしまいました。


 ***


 ふたりで朝ごはんを食べて準備を整え、学校へ向かった。ああ、もちろん外にはあのお嬢様がいらっしゃいましたよ?あれ?美冬は・・・・・


 「美冬ちゃん生徒会やってるからたまに朝早く行くよ」


 と夏美。ということで今日はこの三人での登校となった。右にはルンルンご機嫌な夏美ちゃん。左にはなんだかむすっとしている二条さん。昨日からなんか様子がおかしいんだよな・・・。


 「なぁ二条。今日はもう大丈夫か?」


 「ん、何のこと?」


 「ほら、お前昨日あんま元気なかったろ?」


 俺がそう言うと二条は今思い出したみたいに


 「あ、あー!あれね。君なんかに心配されなくても大丈夫よ」


 「あ、ああ。そうか」


 なんか空元気っぽいんだよな。まぁ本人が問題ないと言うのならほっといてやるか。


 「あ、今日お兄ちゃん美冬ちゃん家に遊びに行くんだよね?私も後で行くけど美冬ちゃんに変なことしないでよ~?」


 突然、右の夏美からそんなことを言われました。なんか顔がにたぁ~っとしてて不気味・・・


 なことはないよ!だって夏美だもん!可愛いに決まってるじゃないか!


 「お?おう決まってるじゃないか。俺は紳士だからお前が考えているようなことはしないさ!」


 語尾の「多分」は消しておいた。だってそう言わないと夏美ちゃん怒りそうだもん。


 「へぇ~ほんとにぃ~?」


 「ほんとかなぁ~?」


 「なんで二条まで混ざってくるんだよ・・・」


 左の二条さんもジト目で俺を見ていました。俺ってそんなに信用されてないのかな・・・ショック。


 そうこうしているうちに中学校が見えてきた。


 「んじゃ、お兄ちゃん、二条さんバイバーイ」


 「おう」


 「あ、うん」


 夏美を見送り、俺たちは高校へと向かった。


 ***


 俺たちが教室に入りそれぞれ席に着くと昨日の・・・六月だっけ?の苗字の男が近づいてきた。


 思い出した。水無月な。


 「やぁおふたりさん。今日も仲いいね」


 水無月のさわやかな声に俺と二条は


 「んなことねぇよ」


 「全然よ」


 と否定。


 「毎日毎日一緒に登下校してるのに?」


 「俺はこいつに護衛を頼まれただけだ。あとた・だ・の友達」


 「・・・・・そうよ。ただの護衛兼友達よ」


 「一瞬の沈黙は何かな?」

 

 二条の言葉に水無月は苦笑しながらそう言った。


 ほんと何なんだ?なんかちらっと俺の方見て抗議してきたような・・・?


 気のせい・・・だよな?

 

 「ああ、そ、そういえば二条さんには自己紹介してなかったね。僕は水無月孔平。こちらの卯月君の友達」


 「俺は友達と認めた覚えはないぞ」


 「ひっど」


 だって事実だもん。まぁ、でも二人目の友達ができるのなら嬉しいが。少し。


 「そうなの。分かってると思うけどあたしは二条小春よ。まぁそこの男とは仲良くしてあげて」


 「何でお前は上から目線なんだ・・・」


 二条の態度に俺は思わずそう呟いてしまった。なんだこいつ、俺に新しい友達ができるのが嫌なのか?


 ならそれは性格が悪いだけなのか、それとも・・・・・


 もう一つの可能性もあるがそれはやめてほしい。あってほしくない。


 「はは、面白いね、ふたりとも。それじゃまたお昼に話そう」


 そう言って水無月は自分の席へと戻っていった。


 意外と積極的なのかもな、あいつ。まぁ事と次第によっては俺が手伝ってやらんこともないぞ。


 何様なんだろうな、俺


 ***


 そして昼休み。


 「さ、さぁ私のためにおにぎりとお茶を買ってきなさい!」


 と二条に命令されましたので購買へ向かった。あいつ、意外と質素な食事が好きなのかなと思った俺です。


 んでなぜか隣には水無月がいた。


 「やぁ。僕もちょうどお昼買いに行こうと思ってたんだ。」


 「お前、俺の後をつけてきたろ」


 「ばれたか」


 俺の得意技は人間観察だ。なめんじゃねぇぞ?


 「じ、実はね、大親友である卯月君に二条さんとの仲を取り持ってほしいんだ」


 「俺はお前を大親友とは思ってないけどな」

 

 「まぁそう言わずにさ」


 はぁ。まぁこいつのことを好きになってもらえたら俺も気が楽になる。直近の二条の様子を見ているとどうも嫌な予感しかしない。それにこいつ、普通に顔はイケメンなんだよな。眼鏡イケメンってやつ。


 なんだこいつこんちくしょー!!


 って内心では思ってる。


 「けど俺もあんまあいつのこと知らんぞ?それに恋愛経験とかゼロに等しいし」


 「いやそれで全然いいんだよ。君には二条さんとの会話の間に僕をそれとなく挟ませてくれれば」


 「めんどくせぇ」


 「頼むよ」


 そう言って水無月は俺に頭を下げてきた。はぁこのイケメンにそこまでされたら仕方あるまい。面倒だが。


 「わかったよ。ただし、成功報酬はそのうちいただく。失敗しても手間賃くらいは払ってもらう」


 「うん。もちろんだよ」


 そう言って水無月はにっと爽やかな笑みを浮かべた。やっぱいけ好かん。


 俺と水無月は購買でそれぞれ買い物を済ませ、再び教室へ戻った。二条には教室から離れるなと伝えてある。


 「ほらよ、お嬢様。目的のブツですよ」


 俺が二条の机にお茶とおにぎりを置くと


 「ご、ご苦労」


 とご満悦。俺も席に座った。水無月も俺と二条の近くの席を拝借してそこに座った。


 「今日はこいつも一緒だがいいか?」


 「ふ、ふーん。別にいいわよ」


 と二条は言ったのだが顔はちょっと不満そうだ。まぁそれは無視して俺たちは三人昼食を始めた。


 俺が買ってきたパンを口に入れようとした瞬間


 「これはさっきのお礼よ!食べなさい!」


 「ふぐっ!」


 無理やり何かを口に入れられた。な、何すんだ・・・・


 ってうめぇぇ!!


 何だこれ?


 「どう、おいしいでしょ。カニよカニ」


 弁当にカニが入ってるとは、さすがだ。しかもめっちゃうまい。


 俺がそんなことを思っていると水無月が


 「へぇ~噂には聞いてたけど本当にお嬢様なんだね、二条さんって」


 と言ってきた。その言葉に二条は


 「ま、まぁそこそこの名家よ。うちは」


 と誇らしげだった。


 「いやどこが『そこそこ』なんだよ。あの家を見れば格の違いが分かるぞ水無月」


 「そんなにすごいんだ」


 彼も興味深々でした。


 そこからは水無月の好きなもの、二条の好きなものあたりについての会話となった。


 「ほーん、お前文学少年なんか」


 「そうだね。結構本は好きだよ」


 「どんなの読むのよ?」


 と二条が聞くと


 「ミステリーが好きかな。謎解きは好きなんで」


 と、ちょっと照れながら水無月がそう答えた。


 「あ、そういえば卯月君。今度映画に行くから付き合いなさい」


 と二条がいきなり命令してきた。


 「は?」


 俺が呆けていると


 「へ~どんなの見るの?」


 と水無月君が頑張っていました。


 けど友達だからな、一応。付き合ってやるか。


 そんな感じで時間は過ぎていった。


 ***


 そして放課後。


 「ほら、さっさと帰るわよ」


 「お前に言われんでもわかってるっつーの」


 実際俺は早く帰りたくて仕方がなかったのだ。授業中とか


 「ああ、まだ終わらんのかな。ああっああああああ」


 てな感じだったし。多分ガタガタ震えていたと思う。


 そうして俺たちは家路についた。って言っても俺は帰らずにそのまま美冬の家に行くけどな。隣の二条は昨日と同じく俺の制服の袖口をきゅっと小さくつまんでいた。


 うう、なんか落ち着かんなぁ。


 俺は気を紛らわすために適当に話し始めた。


 「あ、そうだ。水無月のことどう思った?」


 「ああ、あの子?まぁ別に普通じゃない?悪い子ではなさそうだけど」


 「そ、そうか。ならよかった」


 「ん?何がよかったのよ?」


 しまった。つい口が滑ってしまった。何か適当なことを言わなければ。


 「ああ、あんなんでも俺の友達(仮)だからさ、お前とも仲良くしてほしいのが俺の本音っていうか?」


 「仮なんかい・・・」


 俺の言葉に二条は手で口をを押さえてくすっと笑った。風のせいなのか、それとも頭を少し下に向けたからなのか長くきれいな金髪がさらさらと舞った。


 

「・・・・・!」


 不覚にも少しどきっとしてしまった。まぁ実際かわいらしい笑みだったしこいつ自体美人だから仕方ない!そう、これは不可抗力だ! 


 まぁとにかく誤魔化せたからよし。


 いつの間にか二条の家が見えていた。


 「んじゃ、また明日」


 と俺は踵を返そうとしたのだが、二条が手を放そうとしなかった。


 え?何?


 「・・・・・」


 彼女は無言で俯いていた。


 「お、おい。」


 俺が呼びかけると二条は顔を上げて


 「あ、ごめん。さ、あの子のとこに行ってあげな」


 と言って微かに笑った。だがその笑みには明るさが足りなかった。


 「あ、ああ」


 俺は少し気にかかったが振り払って神楽坂家へと向かうのだった。

 次回、神楽坂家の騒動にて!ドキドキ・・・・・

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