第20話 神楽坂家の騒動
二条の様子が少しばかり気になったものの、俺は美冬の家へ急いだ。神楽坂家の近くの公園では学校帰りの中学生や友達とボール遊びに興じている小学生たちの姿があった。俺がそこを通り抜けると、周りの家よりも少しばかり大きめの白い家が見えた。もちろん神楽坂家である。
「お、おお!ついに、ついに俺は家に・・・」
心の声が漏れていたようだ。だってしょうがないじゃん!めっちゃききき緊張してるもん!
学校から帰る前に美冬から16時くらいに来てくれとメッセージが送られてきていた。今はその5分前くらいである。ふっ、できる人間は約束の5分前にくるのだよ。これ常識。テストに出ます!
まぁちょっと早いけどいいよな?
俺は深呼吸を数回繰り返した後、震える手でインターホンを押した。
ピンポーン、と鳴り響いた。
「はははは、はいっ!ふふふ冬人さんですね?ちょっと待っててください。今行きますから」
「え、い、いやお取込み中なら俺どっかで待ってるから気にしないで?」
美冬ちゃんの声があまりにも震えているのでタイミングが悪かったのかなと思いました。
俺の言葉に美冬は
「い、いえ!大丈夫です!」
と言って切ってしまった。
ほんとに大丈夫かな・・・・・
俺が緊張と不安が入り混じった気持ちでそわそわしながら数分待っていると
「い、いらっしゃいです!さ、さぁ上がってください」
と言って美冬が出てきた。私服だ!かわいいいいいいいい!なんか水色の服着てる!
いや制服もめっちゃ似合う子だよ?
「ほ、ほんとにいいか?何か用でもあるなら遠慮しないでいいけど」
「いえ。本当に大丈夫です」
俺の言葉に美冬は穏やかにそう答えたのでお言葉に甘えることにした。
「そ、そっか。じゃあ、お邪魔します」
はぁ~ドキドキするぅ~
俺は美冬の後をついて行った。玄関で靴を脱ぎ、そのままリビングへ通された。
「どうぞ、そこのソファに座ってください」
と言われたので俺は高級そうなソファに腰を掛けた。リビング広いなー天井高いなー窓から見える庭がきれいだなーとか思いました。
あ、もちろん私服の天使の美冬ちゃんもきれいだよ?
俺がしばらくボケーっとインテリアやら美冬やらを見ているとソファの前の机にティーカップが差し出された。
「どうぞ。コーヒーです。砂糖いりませんよね?」
「あ、ありがとう。俺は砂糖はいらないけど・・・」
「けど?」
ブラックで!
とか言えたらかっこよかったかもな。でもさすがにそれは無理。なので俺は
「牛乳は・・・ほしいです・・・」
と俺はか細い声で伝えると
「あ、そうなんですね!今取ってきます!」
にっこりスマイルで了承してくれました。
まじ天使!いや女神かも。俺の妹もだけどね。
美冬はとととっと戻ってきて牛乳パックを俺に差し出してきた。
「ありがとう」
「はい」
美冬もソファの反対側に座った。このソファは机を囲むようにコの字になっている。
俺は牛乳を入れてカフェオレを作り、カップをゆっくり口に運んだ。美冬は俺のことをじーっと見つめている。
はぁぁ~緊張する!そんなに見ないで!
俺は思わず視線をそらしてしまった。
「は!私のことを見ていられなかったんですね・・・」
しゅんと
「いいいいや、そんなことないから!」
緊張で見られなかっただけだよ!むしろ「きれいすぎて」見ていられなかったんだよ!俺は慌ててカップを机に置いた。
「ほんとですか?私、片付けが苦手でバタバタしてて碌に身だしなみ整えてないんです。ダメですよね、きっちりしないと」
「い、いや全然、本当に全然乱れてないと思うよ?」
俺が必死にフォローすると、美冬は手鏡を取って
「いえ!いつもより前髪が1センチずれてます!それに服にほこりがついてますし!」
「こ、細かいね・・・」
俺には全く分からなかった。ほこり?どこにあるの?そんなの。
「私、A型ですから」
「そうなんだ!お、俺もだよ」
ちなみに血液型と性格には何の関係もないらしいですよ?科学的根拠は何もないみたいですし。
俺は美冬と同じ血液型だったことに嬉しさを覚えていた。しまった、つい勢いで席を立ってしまった。キモイと思われたかな・・・
「ほ、ほんとですか・・・?」
美冬ちゃんはびっくりしたというように目を丸くしながらそう言ってくれました。よかったぁ~
「う、うん。マジ」
「やったー!」
俺が肯定すると美冬は飛び上がって嬉しさを表現した。元気いっぱいで可愛いです!
その様子をほほえましく見ていると、突然美冬が悲鳴を上げた。
「あたっ!」
「え、何?どうしたの?病院行く?救急車呼ぶ?」
「い、いえ大丈夫です。ただ机の角に足をぶつけただけなので。いたた・・・」
しまった、ついいらんことまで言ってしまった。ちょっとびっくりしたんだもん!
それにしてもちょっとドジなところもあるんですね。それに片付けが苦手だと。
まぁ、完璧超人はいないってことだね。どんなにすごい人でも弱点はある。例えば弁慶とかアキレウスとかね。
美冬は足を押さえながらゆっくり座った。ほんとに大丈夫かな・・・
「私、たまにこういうドジやらかすんです・・・」
苦笑しながら美冬がそう言った。
「い、いやそういうところも・・・美冬の・・・魅力だと思うよ」
情けないことに直視できないから横目で俺が頑張ってそう言うと美冬は黙ってポカーンとしてしまった。
「・・・・・・・・・」
何?やっぱキモイって思われたかな?だったらごめーん!ちょっと死んでくる。
俺が焦っていると、美冬は顔を俯かせてしまった。
何?もしかして泣いてるの!?やっぱ俺いっぺん死んでくる!
だが俺の心配は杞憂だったようだ。
「ありがとう・・・ございます」
顔は見えなかったものの、キモイとは思わなかったようなので安心した。
本当は「弱点があった方が可愛いよ」と言いたかったが「可愛い」という単語を口に出すのはちょっと恥ずかしかったので言えなかった。
ああ~俺のバカ!
俺はふと部屋の隅の本棚に目がいった。小説もあったが中には漫画もたくさんあった。美冬のかな?
「漫画とか、読むの?」
俺が本棚の方を指さしてそう言うと、美冬はびゅっとそっちの方に向いた。
大丈夫?首、痛くなかった?
「あ、ああ。あれですね!は、はい。恥ずかしながら。ああいう恋に憧れてしまっているもので・・・」
美冬は恥ずかしそうに指をつっつき合わせながらそう言った。ラブコメ漫画、面白いよね!ラノベも好きだけど。
「い、いいと思うよ。女の子だし・・・」
「そ、そうですか?えへへ」
俺の言葉に美冬はにこっと笑った。14歳の少女らしい可愛い笑みだった。うっかりすると見とれそうになる。
「よかったら、本棚・・・見ますか?」
「う、うん。見たい」
美冬が勧めてくれたので、俺はお言葉に甘えることにした。
俺と美冬はそれぞれソファを離れて本棚へと向かった。
「おお~いっぱいあるな」
なかなかの量の本がそこには詰まっていたので思わず感嘆の声を漏らしてしまった。
「そ、そうですか?あ、これ!読んでみてほしいんです」
美冬は一番上の本棚に手を伸ばした。背伸びをしている。
なんとか取れたのだが。
はずみでバランスを崩してしまった。しまった!俺がとってあげれば!
俺は慌てて彼女の方へ手を伸ばしたが俺もバランスを崩してしまった。
「「うわぁ!」」
美冬は背中から崩れ落ち、さらに俺はその後ろで倒れてしまった。
や、やばい!
ガチャ。
そのとき、リビングの扉が開く音がした。俺が慌ててそっちに目を向けるとそこにいたのは・・・
「遅くなっちゃたー!って・・・・・・何やってるのかな?ふたりとも」
夏美ちゃんでした。怖い、そんな目で見ないで!
っていうかお前インターホン押せよ!!何自宅気分で入ってきてるんだよ!
「な、夏美・・・」
「夏美ちゃん・・・」
俺と美冬は苦笑いで夏美の方を見ていた。おあとがよろしいようで。
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