第14話 走れ

 俺は家を出たら自然と走り出していた。気持ちばかりが急いていたのかもしれない。この辺りは住宅街で家がたくさん並んでいる。一つ一つの家の表札を見て、違うこれも違うといった感じで探していた。


 だがそれも1時間ほどすると無為な時間を過ごしていると気づき、自然と足は止まっていた。最近は日は長いのでまだいくらかの猶予は残されている。まぁ別に今日である必要はないのだけれど。


 「くそっ、はぁ、どうすれば・・・いい?」


 俺は知らずそう呟いていた。妹には自力でやれと言われた。それに俺には頼れる友達というものは存在しない。


 ・・・・・ん?


 待てよ?友達・・・・・


 頭に一つだけ心当たりがあった。俺はあいつのことを友達と考えているかはわからないが、少なくともあいつは俺のことをそうだと言った。っていうかもともとあいつのせいだしな。助力ぐらいするのが筋ってもんだろう。ただ情けなくはあるがな。


 「しかたねぇな・・・・・」


 俺はまた足を急がせた。


 ***


 ピンポーン。


 俺が向かったのは二条家だった。忘れそうになっていたが俺は二条のボディーガード兼友達だった。なら俺の頼みを聞いてもらおうじゃないか。


 「はい」


 返事の声は男のものだった。恐らく執事だろう。緊張する~


 「あの私は二条小春さんの学校での護衛兼友達の卯月冬人といいます。小春さんに用事があって参ったのですが、いらっしゃいますでしょうか?」


 「わかりました。少々お待ちを」


 しばらくした後、中から人が出てきた。


 「どしたのー?まさか私に会いたくなったとか?」


 「バカ言え。そんなわけねぇだろ。それよりもお前の友達として頼みたいことがある。ちょっと出てきてくれ」


 俺がそう言うと、二条は門をくぐって外に出てきた。二条は袖口や首元に装飾が施されたピンクの服に、白のスカートをはいていた。よく似合っているとは思った。しかし彼女の美貌ならどんな服でも着こなせるだろう。


 「んで、何?頼みたいことって」


 「ほら、お前が余計なことを言ったせいで妹と美冬が変な誤解をしただろ?それを解くために美冬に会いに行くために家を探してるところなんだよ。妹からは助力を断られてな。それで大親友のお前にぜひとも協力してほしくてな」


 「そっかそっかー!まったく情けないなー!でもしょうがないから協力したげる。それで、どこぐらいまで探したの?」


 お前のせいなんですけど!態度がデカくないか?


 俺は地図を取り出した。


 「大体、こっからここまでだ。中学校に歩いて通える範囲なんだからそう遠くはないはずだが」


 「なるほど、オッケー!家のメイドにも探すよう頼んでみるよ」


 「あ、ちょっと待った」


 俺は踵を返そうとした二条を引き留めた。


 「ん?まだなんかあるの?」


 「ほら、連絡できねぇと困るから。その・・・連絡先教えろよ」


 俺がそう言うと二条は呆然として立ち尽くしてしまった。心なしか顔が赤くなっているような気がする。


 「・・・・・」


 「ど、どうしたんだよ?」


 俺が問いかけると二条は我に返って


 「あ、ううん。何でもないの。男の子から連絡先聞かれたの初めてだから」


 「って、お前俺と友達になりたいんだろ?ならそれぐらい必要だろ」


 「わ、わかってるから!ほら君のスマホを貸して」


 二条は顔を赤くしながら手を差し出してきた。うっとうしいだけのやつかと思ったがまぁかわいらしいところもあるじゃねぇか。


 俺はメッセージアプリを起動して差し出した。


 「えーっとこれをこうやって~」


 二条があれこれやった後


 「できたよ!ほら」


 満面の笑みでそう言ってきた。


 「おう、サンキュー。じゃあ、俺はこっち側から探してくからお前はこっち側を頼むわ」


 「オッケー!」


 そうしてまた俺は走り出した。今日はできてあと2時間くらいか。あいつもそんなに長くは外に出られないだろうしな。


 ***


 心に余裕ができたからか、疲労はさっきよりもあまり感じなくなっていた。


 友達ってのも、悪くはねぇかもな。


 ただ依然として見つからずにいた。さすがに日も少しずつ落ちてきている。


 とそのとき、俺のポケットのスマホが震えた。俺は足を止めて確認した。メッセージアプリの通話機能の画面が表示されていたのでそれに出た。


 「もしもし」


 「そちらは卯月冬人さんですか?」


 「誰ぇ!?」


 出たのは聞いたことのない女性の声だった。え、いやめっちゃビビるんだけど!


 「申し遅れました。私はお嬢様のお世話を任されている秋月あきつきと申します。お嬢様から頼まれて神楽坂家を捜索しておりました」


 「あ、ああそうですか。ありがとうございます」


 そういえばメイドがどうのこうのとか言ってたな。それでもビビったわ。


 あれ?でも何で俺の連絡先を・・・あいつが教えたのか。


 「神楽坂家が見つかりました。場所は今からそちらに送ります」


 「そうですか、ありがとうございました。本当に」


 「いえ、お嬢様の護衛兼友人という大切な任務を任されている卯月さんの頼みですから。どうかこれからもよろしくお願いします。それでは」


 「はい、ご苦労様でした」


 俺はそう言って通話を切った。その数分後にはなぜか友達登録されていた秋月さんから位置を示した地図が送られてきた。


 「ここか!」


 走れば10分程度で着く場所だった。


 今日は少ししか話せないかもな。


 ***


 「はぁ、やっと着いた」


 美冬の家は俺の家からはそこそこ離れた位置にあった。あいつ、こんなところから俺を迎えに家に来てたのか・・・・・


 ピンポーン。


 俺はインターホンを押した。二条の家よりは全然だがそこそこ大きめの家だった。


 「はい」


 出たのは大人の女性の声だった。恐らく美冬の母親だろう。きっと美人なんだろうなぁ~ぐふふ


 なんてアホなことを考えている場合ではない。


 「あの、妹がお世話になっている卯月冬人です。今日は美冬さんに用事があって来ました」


 「あ~あなたが冬人さんね!お話は聞いていますよ。ちょっと待っててくださいね」


 ほう、美冬のやつ俺のことを母親に・・・・・


 これは脈ありか?


 さすがに自意識過剰だな。


 しばらくするとドアが開いて人が出てきた。見間違うはずはない。きれいな銀髪に銀の瞳。神楽坂美冬本人だった。


 今日もきれいだなぁ~


 なんてぼけーっと見ていたら


 「最低!ゴミ!カス!冬人さんなんて宇宙の塵になっちゃえばいいんです!」


 「ぐはっ!」


 いきなり罵倒の嵐だったので俺は思わずその場に膝をついてしまった。


 しかしこのまま誤解を解かないわけにはいかない。俺の本能がそう告げている。


 「待ってくれ!」


 俺は去ろうとした美冬の手を握って引き留めた。恥ずかしいとか言っている場合じゃない。


 「あれは誤解なんだ。とにかく話がしたいからそこの公園に行かないか?」


 「・・・・・」


 美冬は黙って疑惑のまなざしを向けてきた。しかし


 「・・・・・分かりました」


 黙ってついてきてくれた。


 しっかり話さないとな。夏美みたいに多分すぐには信用を取り戻せないだろうが。


 そうして俺たちは公園で話を始めたのだった。

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