第15話 三人三角トライアングル

 神楽坂家から少し歩くと公園が見えた。ここの公園は春には桜がたくさん咲いてなかなかきれいな場所だ。今はもうすっかり葉っぱだらけだが。


 「・・・・・」


 「・・・・・」


 俺も美冬もしばらく何も言わずに黙っていた。気まずい!超気まずい!


 なぜかって?さっきから美冬ちゃんがちらちら横から睨んでくるんですよ!


 怖いぃぃぃ!


 だからと言って話はするけどな。


 しばらく歩くと富士山のような形の滑り台が見えた。今はもう日が暮れかかっているので小さな子供はいなかった。


 「あそこのてっぺんで話さないか?」


 俺がそう言うと美冬は小さく頷いて首肯した。


 懐かしいな。昔はよくこれで遊んだものだが。そう言えばいろんなところの公園にこの富士山滑り台があるんだよな。どしてだろうね~?


 俺と美冬はそれぞれてっぺんに腰を掛けた。


 「さて。例の話だよな」


 俺がそう切り出すと、美冬がかすかにこっちの方へ顔を向けた。


 「お前も見た時分かってただろ?あいつは科学館でお前を助けてくれた人だぞ?」


 「・・・・・はい、まぁ」


 俺の問いかけに美冬はぶっきらぼうに答えた。どうやら今日の美冬ちゃんは超コールドで冷たいようです。なんか冷気放ってるようなあああああ。


 「でそいつがたまたま、本当にたまたま俺のうちの近くに引っ越してきて同じ高校に通うことになったんだ。二条小春っていうらしい。二条は—」


 「に・じょ・う?」


 美冬がこっちを睨んできた。

 

 え、何?何かやばいこと言った?


 「ずいぶん仲がおよろしいんですね!」


 ちょっと!口は笑ってても目が笑ってないんですけど!怖い!


 「いやそんなことねぇよ。あいつの家は結構有名だから誰か信頼できる男を護衛につけろって言われたらしいんだ。それで席が近くて家も近い俺が選ばれたってだけだ」


 「どうして家の人が護衛をやらないんですかね?大切なお嬢様なのに」


 「こっちが聞きてぇよ!」


 何で俺が護衛なんてやってるんだろうな!家の誰かにやらせればいいのに。それこそアニメみたいにリムジンとかで送迎してもらうとかな。


 あ、でも俺だったらちょっと恥ずかしいかも・・・・・


 「んであのときはあいつが適当なことを言っただけだ。どうせ俺たちをからかいたかったんだろうよ。俺と二条さんは単なる友人ってだけ。俺の友達になってくれるらしいからな」


 「へ~そうですか~」


 めっちゃ適当な受け答えをされてしまった。やっぱりすぐには信じてくれないか。冬人君、ショック!


 「夏美もまだ信じてないみたいだったよ。はぁ。それで俺は何をすれば許してもらえるんだ?」


 「・・・・・告白・・・・」


 小さな声で紡がれた言葉は俺の耳に届かなかった。


 「ん?今、なんて」


 「一生私に監視されてくださいって言ったんです!」


 「えええ!!」


 マジ!?僕、一生美冬ちゃんに監視されるの!?


 「冗談です」


 「よかった・・・・・」


 7割怖い、3割嬉しかったです。監視されるのが。


 「夏美は俺に何してもらうかお前と話すつもりだったようだけど?」


 「そうですか。じゃあそうしましょう。そのほうが真剣勝負になりますからね」


 「また勝負ですか・・・・・」


 どうやらまた俺はかわいいかわいい女の子たちの勝負に付き合わされるらしい。


 「判決は追って連絡します!では閉廷!」


 「え!俺って被告人か何かだったの!」


 そうして俺の裁判は終わったのだった・・・・判決はいかに


 カラスが遠くで鳴いていた。


 ***


 あの後、美冬とは公園で別れて俺は一人帰路についた。


 あ、そういえば。


 俺はスマホを取り出した。そして「Koharu Nizyou」あてに「一応助かった。礼を言う」とメッセージを送った。


 「一応、あいつに助けてもらったからな。あいつのせいだけどな」


 すると数分後に


 「まぁあたしのおかげだね!あたしって恋のキューピットなんじゃない?」


 お前はメイドに指示出しただけだろ!探し当てたのは秋月さんじゃねぇか!


 お前は俺の初恋を邪魔するお邪魔虫さんですからね、俺にとっては。


 俺は自宅の扉を開けて中に入った。


 「ただいまー」


 「ああ、お兄ちゃん。遅かったね」


 リビングに入ると夏美が夕食の準備を終えてテレビを見ていた。


 「美冬ちゃんには会えたの?」


 「ああ、何とかな。俺一人の力じゃないが」


 「どうせ二条さんに手伝ってもらったんでしょ!」


 俺の言葉に夏美がズバッと切り込んできた。ぐ・・・


 俺は観念して正直に言った。

 

 「ああ、その通りだ。だが友達同士なんだから助け合って当然だろ?」


 「そうだけど・・・」


 夏美がむくれながらそう言った。おお!やっぱかわいいなこいつ!


 「ま、俺の処分に関してはお前と美冬でなんでも決めてくれ。俺にできることならだが」


 「言ったねぇ~!なんでもって!うん、美冬ちゃんと相談しとくね」


 「あ、ああ・・・」


 しまったな。つい、なんでもと言ってしまった。だが妹の頼みならなんでも聞いてやると心に決めた冬人でした。今更引き返せません。


 「さ、食べよ!さめちゃうから」


 「おう。そうだな」


 リビングには肉のいい匂いが立ち込めてきておなかが減ってきた。今日はエネルギーを大量消費したからな。


 ***


 「今日は罰として私と一緒に寝てもらいます!」


 夕食の後、俺たちは風呂に入った。そしてその後の寝るまでの時間に唐突に切り出してきた。


 「ええ・・・・・」


 「何か言ったお兄ちゃん?お兄ちゃんに拒否権は一切ないけどね!」


 「仰せのままに・・・」


 ちょっと恥ずかしいけどまぁ嬉しいので何とも言えない気分でした。


 俺の言葉に夏美は


 「イエーイ!」


 と大層嬉しそうでした。夏美を楽しませられるならまぁいいだろう。


 俺たちは夏美の部屋に入った。


 「さ、お兄ちゃん入って入って!」


 「お、おう分かってる」


 なんだかめっちゃ緊張する・・・顔がちょっと熱い気が・・・


 俺は夏美から少し距離を置いてベッドに入った。


 「ん?遠いぞ!こっちから近寄ってやる!」


 夏美がじりりと距離を詰めてきた。


 「はぁ。しょうがないな」


 とか言いつつちょっと嬉しくなっている俺でした。けど俺たち兄妹だよな?ちょっと距離が近すぎる気がするんだよな。今回ばかりは機嫌を損ねたくないので従いますがね。


 「はい動かないで~。はいチーズ!」


 「っておい!」


 夏美がいきなりスマホで写真を撮ってきた。え、何「お兄ちゃんと一緒にベッドなう」的な?


 「美冬ちゃんに『お兄ちゃんとベッドなう』ってメッセージとともに送信!」


 「おい!絶対それ面倒なことに・・・」


 俺はあきらめた。美冬に何されることやら・・・


 「ほ、ほらさっさと寝るぞ!」


 「うん!おっやすみー!」


 なんだか落ち着かなかったがそれでも俺たちは眠りについた。


 ***


 翌日。


 「おらぁー起きろバカ兄貴!学校遅れるぜ!」


 夏美が異様なテンションで俺を起しにかかってきた。いてて、覆いかぶさってくんな。顔が近いんだよ。


 もしかして俺と一緒に寝られたのがそんなにうれしかったのかな?だとしたら兄貴としては天にも昇る心地だがな!


 んなわけねぇよな。俺をからかいたかったんだろうよ。


 「分かったからどきなさい妹よ」


 「おう!飯はできてるからな!」


 どうやら今日はこのテンションで行くらしい。


 そうして俺たちはリビングで食事を済ませ、支度をした。


 「おらー兄貴!今日は、いやこれから毎日私と一緒に手をつないで学校行ってもらうからな!」


 「お、おうけー」


 はぁ、しょうがないな。ほんっとにしょうがないな。


 そうして俺たちは手をつないで外に出た。が・・・


 金と銀の光をまとわせている美少女がそこには待ち構えていた。


 なんかオーラが見えるような・・・


 「あ、冬人さん!昨日は夏美ちゃんとお楽しみだったようですね!今日は私に付き合ってもらいますから」


 うん、わかってた。こういう状況になるわな。っていうかお楽しみって。いかがわしい言い方をしてはいけませんよ!


 「あ、おっそーい!今日も私のパシリ・・・じゃなくって護衛の任務を果たしてもらうからね!あと私たち友達でしょ?一緒に登校するぐらいあったりまえだよね?」


 お前パシリって言わんかった?まぁいいけど。目うるうるさせたって俺はときめかんからな!絶対に!


 「ああ、分かったからさっさと行くぞ」


 なんか三人に増えてしまいました。ハーレムって大変なんだぞ!言っとくが!

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