第2話 妹とその友達がバトルを始めてしまいました
俺は妹に腕をグイグイ引っ張られて抗議されてしまいました。力は全然強くないのでまったく痛くないし、なんなら気持ちいいかも・・・
なんて考えてる場合じゃなかった。目の前で折り目正しくきれいなお辞儀をした美冬へのドキドキがいまだに鳴りやまない。ぐっ。
そしてその美冬は顔を上げると・・・
「・・・・・・・う、うそ」
「どうしたの?美冬ちゃん?」
異変に気付いた夏美が声をかけた。すると・・・
「夏美ちゃんのお兄さん・・・・・超かっこいい!!」
「ええええええええええ!!!!!ちょ、ちょっと待って!」
「お、お兄さん。名前、なんていうのですか?」
美冬の突然の発言に夏美は驚いて静止を促したが、美冬はそれを無視してとろけるような声と視線で俺に名前を聞いてきた。う、目、目が。
「は、はじめまして。夏美の兄の冬人です。」
俺は緊張を抑えながらそう答えた。すると美冬は
「か、かっこいいいいいいいいいいいいいいいいい!なんて素敵な名前なの!」
「へ?」
生まれてこの方名前を褒められたことが一度もないのでつい変な声を出してしまった。俺の名前は冬に生まれたからというだけなのだが。
「きっとそのたくましい体は極寒の中でも耐えられるのでしょう!さらにそのキリっとした目つき!獲物を捕らえる野獣みたいですごくかっこいいです!」
「あ、ありがとう。美冬さん」
美冬は俺に近づいてきて身体のいたるところをとにかくべた褒めしてきた。別に特別なことは何もしていないのだが・・・。腕立てとか腹筋ぐらいの筋トレならたまにやるが。それにこの目つきは大体の人間には怖がられるのだ。「人を殺しかねない」「一回刑務所入ったことあるんじゃねぇの?」とか言われる有様である。
しかし、美少女に褒められるのってこんなにも嬉しいとはな・・・。しかも距離が近い。ダメだ、心臓の音がうるさい。
ちらっと隣で俺の右腕に手を絡ませている夏美の方に目を向けるとしらっとした目で俺を睨んでいた。ぜぇんぜん怖くない。可愛いなこいつ。少しちょっかいかけてやるか。
「ん?どうしたのかな、夏美ちゃん?兄ちゃんが美冬さんにデレデレしてるの見て
ほんのいたずらのつもりだったのだが
「はっ?べっ、別にお兄ちゃんなんかに
そう言って顔をそっぽへ向けてしまった。しかも顔を赤くしてやがった。おいおい、マジかよ。いやこっちもめちゃくちゃ可愛いんだが・・・。右からは愛する妹の匂い、左からは惚れてしまった美少女の豊かな胸と柔らかい肌。ぐ、ぐはっ。脳がとけそうだった。俺はどうすればいい。神様・・・・・。
「と、とにかく早くリビングに行こうぜ・・・」
俺はそう言って二人を半ば引きずるようにしてリビングへと向かった。そして二人の腕をはがし、ソファーに座った、のだが・・・。
「おい、お前らどうして二人にらみ合ってるんだ・・・」
俺の右には夏美が座っており、左には美冬が座っている。なんか俺を挟んでバチバチしてやがる。顔はふたりともにっこり笑顔なんだが。
「ねぇ、お兄さん。お兄さんは私と遊びたいですよね?」
「は?何言ってんの?お兄ちゃんは私と遊びたいよね~?」
ふたりが俺に顔を近づけてきてそんなことを言い始めた。おい、お前ら仲良かったんじゃなかったのかよ。ふたりとも可愛すぎてどっちを選べとか無理があるだろ・・・・・。というかふたりで遊ぶんじゃなかったのかよ。
「お、俺を抜きにして二人で遊ぶっていう選択肢は・・・」
「「ないっ!」」
即刻否定された。まぁそうだろうとは思っていたのだが・・・
何この状況、天国のような地獄のような・・・
「んなこと言われてもな。兄ちゃんは夏美と美冬さん、どっちを選べばいいか板挟みで大変なんだよ・・・」
俺がげんなりしてそう言うと
「私だってお兄さんと夏美ちゃんのどっちを選べばいいかに苦しんでいるんですよ?」
「私だって!お兄ちゃんのことはまぁ、正直言って好きだし。でも夏美ちゃんとは友達でいたいし。私も板挟みなんだよ!」
「ごもっともで・・・」
ふたりの言葉は正論だったので肯定するほかない。
「じゃ、じゃあどっちが俺の好感度を得られるか勝負するとか、なんてな」
ほんの冗談のつもりで苦笑いとともに言った言葉だったのだが
「いいですね!」
「分かった!」
ふたりとも闘争心むき出しで返事してきやがった。おいおいおい。
「お、お前ら友達ならもっと仲良くできないのかよ・・・」
「友達だからですよ!」
「友達だからだよ!」
そういうもんなのだろうか。友達同士だから譲れない何かがある。そういうことなのだろう。俺は友達がいたためしがないのでよくわからないが感覚で無理やり理解した。
「勝負よ!夏美ちゃん」
「望むところだよ!美冬ちゃん。学校でちょっとモテるからっていい気にならない方がいいよ。お兄ちゃんは手ごわいから。」
「心配しないで。私がきっと勝つから。ねっ、お兄さん」
そう言って美冬は実にかわいらしい笑顔で俺に同意を促してきた。まぶしすぎて直視できない。ぐっ、正直この子のことは多分好きなのだが。
「私を選んでくれるよね・・・お兄ちゃん?」
今度は夏美が口元に手を当てながら上目遣いで泣きそうな声とともにそう言った。やっぱりこっちも可愛い。
こんなバトル始めやがって!ふざけんなチクショー!誰だこんなこと言い始めたやつ。
ほかでもない俺でした。
天国のような地獄のような空間でバトルを始めたふたりでした。
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