第5話 災難(なようなそうでもないような)

 「うわ!何あの子超かわいい」


 「っていうかあの男誰?目つきこっわ」


 「あれ、神楽坂美冬じゃね?めっちゃ可愛いんだけど。でも何であんな男にベタベタくっついてんだ?」


 「あの黒髪の子もかわいい!何だあいつ、リア充死ね」


 通学路を歩く男女からさまざまな声が寄せられてきました。相変わらず夏美と美冬は俺の両腕にしっかりしがみついて離れようとしません。胸まで押し当てんばかりだった。


 心地いい・・・・・・・・


 わけねぇだろ!ボケ!


 俺はさっきから心臓が鳴りっぱなしで死にそうなんだよ!大して歩いてもいないのに100キロは歩いた気分だわ!


 それに何だ、俺に浴びせられる罵倒ばとうの数々は!わかってますよ、俺がこんなに可愛くてきれいなふたりに似つかわしくないのは!だからこれから俺も頑張りますけど何か!


 あ、でも妹を褒めてくれたやつマジサンキュー。けど1マイクロセンチでも近づきやがったら容赦ようしゃしねぇからな。


 俺が道行く人々を睨むと、大概のやつらはおびえて逃げていった。


 「むむ、冬人さんを見ている人たちがたくさんいます!」


 「お兄ちゃんをじろじろ見てる人がいっぱいいる!」


 「いや、違うと思うぞ・・・」


 アホなのかな?君たちは。どう見ても君たちの方に視線がいってるのがわからないのかな?


 「写真撮られたら大変です!」


 「SNSとかに挙げられたら大変!」


 そう言って夏美と美冬は俺の顔を手や体で隠した。


 「お、おいやめろって。目立つだろ」


 口ではそう言ったものの、少しうれしくもあるので何とも言えない気分だった。


 確かに写真を撮られてSNSにでも挙げられでもしたら今の状況よりもっとひどくなること間違いなしだろう。


 『神楽坂美冬ともう一人の美少女と歩いているジミメン発見!目怖すぎワロタ』


 『は!?何あいつ死ねばいいのに』


 『あんな地味なやつが彼氏なわけねぇだろwwwww』


 みたいなことになるだろう。こうなったら俺、ひきこもりになるわ・・・


 このような事態から守ってくれてると考えると胸が熱くなる。夏美が優しいのは1億年前からわかってたけど、美冬もめっちゃ優しい。ドキドキが止まらん・・・


 けれどむしろこいつらの方が注目の的になっていると思う。こいつらの方が多分変なやつらにも狙われやすいはずだ。


 妹を狙うやつは俺が命をささげても守る!・・・ってそう親父に誓ったから。親父、夏美のこと大好きだからな・・・。


 それに美冬にもちょっとはかっこいいとこ見せたいんですよ・・・男だし?


 「おい、お前らの方が下がっとけって。ただでさえ道幅とってるんだから」


 俺はふたりにそう言って、ふたりを背中で隠すようにして前に出た。


 愛する妹や初めて好きになったかもしれない女の子が傷つくのを俺は見ていられない。俺には何を言っても構わないが、妹や素敵な女の子にいわれのない言葉を浴びせるやからは徹底的に叩き潰す。


 「ふ、冬人さん・・・・・・」


 「お、お兄ちゃん・・・・・」


 顔を赤くしながらもちらっと後ろを振り返ると美冬と夏美が熱っぽい視線で俺を見てそうつぶやいていた。


 「お、おう。どうした・・・」


 なんだかむずがゆくて俺が思わずそう聞くと


 「「かっこいいいいいい!!」」


 ふたりが声をそろえてそう言った。きみたち息ぴったりだね!さすが友達同士!


 「お、おう。まぁ俺は年上だからな?お前らを守ってやるさ・・・へへっ」


 ふたりの率直な言葉に、そして俺の意図をくみ取ってくれたのがうれしくてデレながらそう言ってしまった。気持ち悪くないかな?


 「頼れるところも最高にかっこいいです!!」


 「一生私を守って!!」


 俺の言葉にふたりはなお一層興奮してグイグイ腕を引っ張って近づいてきた。


 痛い痛い近い近いいい匂いがするやわらかい・・・・・


 さまざまな感触が脳に伝わってきて大変なことになっております・・・ぐはっ


 俺がふたりの前に出ると有名人に群がるパパラッチみたいなやつらは


 「あいつでふたりが見えねぇぞ」


 「つまんねぇ。行こうぜ」


 と言って散っていった。やれやれ。


 まったく、朝から災難・・・・・・・・のようなそうでもないような。


 罵倒を浴びせられはしたものの、ふたりに年上らしいかっこいいところは見せられたからな。


 そのうちにふたりが通う中学校が見えてきた。


 「よし、俺はここまでだ。一応、変な奴らには気をつけろよ」


 俺がそう言って去ろうとすると


 「夕方5時頃に冬人さんの高校の校門で待ってます!夏美ちゃん、まだ勝負は終わってないんだから!」


 「私も迎えに行くねお兄ちゃん!もちろんだよ、美冬ちゃん!」


ふたりがそう言い残して校舎へと消えていった。


 「おいおいおい、勘弁してくれよ」


 今日一日は穏やかに過ごせそうになかった。


***


 案の定、いろんなやつらから色々聞かれた。教室の自分の席に座ると


 「なぁ卯月。お前、神楽坂美冬とどういう関係なんだよ?」


 「ねぇ、朝一緒にいた黒髪の子誰?」


 っつ、ああめんどくせぇな。普段は俺に近づきもしないやつらのくせに。


 「神楽坂とは、妹が友達だから知り合った、だけだ」


 「ほんとかよ~?」


 「んで、あの黒髪の美少女は俺の愛する愛するグレートな妹、夏美だ」


 俺がそう言うとクラスメイトのやつらは


 「「「「「えええええええええええええええ!!!!!」」」」」


 声をそろえて驚きやがった。っていうか何でクラスのやつら全員が俺の方見てんだよ!ぜってー盗み聞きしてただろ?


 「あ?マジだからな?なんか文句あるかよ」


 「うっそー、何で妹はあんなに可愛いのにお前は・・・」


 「全然似てなくない?」


 「あ?うっせーなどっかいけ。しっしっ」


 俺は手で払うようにしてクラスメイトたちを席に帰らせた。


 俺が地味で普通なのはわかってんだよ!けど妹褒めてくれてありがと!


 ああ、そうだよ!俺と夏美は全然似てねぇよ!けど兄妹なんだよ、はははは!


 なんで似てねぇんだろな。神様って平等じゃない・・・


***


 昼休みにも聞いてくるやつらはいた。


 「神楽坂美冬の連絡先しらね?」


 「は?いや知らねぇから」


 「お前の妹紹介してくれよ!」


 「あ!?んなことするわけねぇだろバカかお前はどっかいけ!っていうか誰だ」


 俺が睨んでドスの利いた声でそう言うと


 「しょうがないよ。卯月、シスコンだから」


 「ああ、そうだった・・・くそっ」


 諦めて帰っていった。普段からシスコン自称しといてよかったわ。


 ったく。心休まるはずの昼休みを妨害された。ついてねぇな。


 ***


 授業が終わった放課後。俺は誰にも見つからないように解散になった後、ボルトも顔負けぐらいの勢いで速攻で教室を後にした。俺が去った後に砂ぼこりが舞っていた気がした。


 「やれやれ、疲れた」


 太陽が西へ傾いた放課後、俺はそうつぶやいて校門へと向かっていた。


 校門の方に目を向けると、近くで咲いている桜との相乗効果で幻想的な空間がそこにはあった。


 桜を見つめる銀髪の少女、神楽坂美冬の姿があった。


 「・・・・・・」


 彼女の30メートルほど手前で思わず立ち止まってしまった。


 参ったな・・・美少女は妹で慣れてると思ったが。


 見とれてしまったのだ。


 彼女のさらに先に人影があったのでそちらに目を向けると


 「お兄ちゃーん、待ってたよ!」


 妹もまた夕日に負けず劣らずのキラキラの笑顔で手を振ってきた。


 俺の妹マジ天使!


 「冬人さん、お待ちしてました!」


 美冬も俺に気づいたらしく、夏美とともに銀髪を輝かせながらやってきた。


 「お、おう。待たせたな。今行く」


 やれやれ。今日はいろいろあったものの、最後に美少女たちの笑顔が見られたのはよかったかもな。


 もう少し、あいつらの勝負に付き合ってやるか。


 俺も美冬にアプローチしないとな・・・ドキドキ


 俺は彼女たちのもとへ急いだ。災難のようなそうでもないような日だった。


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