第4話 終わりなき戦い。終わりなき苦悩

 あの後俺がどうなったか。そのまま病院送り・・・


 ではなく。夏美と美冬に大量の氷を浴びせられ、なんとか体温は下がりました。


 ええ、ええ、それはもう40度くらい下がりましたよ?


 あれ?俺の体温40度くらいだったからそれ下がりすぎて凍ってない?


 「ふー。なんとか下がったわね」


 「そうだね。あのままだったら家の中が灼熱地獄しゃくねつじごくになってたよ」


 「・・・・・絶対私に惚れてたわ・・・あれ」


 美冬がか細い声で最後にそう言った。


 「ん?何か言った美冬ちゃん?」


 夏美はにっこりスマイルで美冬に聞き返した。


 今も俺は寒気がしております。しかもなんかまたバチバチやりあってるから両者の緊張が伝わってきてさらに寒くなってきたあああああ。


 「いいえ。何も言ってないわ夏美ちゃん。さて、今日はもう遅いからここらへんで失礼させてもらおうかな。決着はまた今度ね!」


 「うん。そうだね!お兄ちゃんの一番は美冬ちゃんでも譲らないんだから!」


 この勝負まだ続くのかよ・・・勘弁してくれ!


 「それじゃあ冬人さん!また来ますね!」


 「あ、ああ。じゃあ・・・」


 最後に美冬は俺にそう言って、走り去っていった。最後に笑顔までもらえました。


 お、おおなんか体温がまた上がってきた・・・気がする


 最後の美冬のセリフに夏美が「あー!また美冬ちゃんったら!」とか言ってあわあわしてたわ。ほんっとかわいいなこいつ。


***


 その夜から夏美は以前にもまして俺にべたべたしてくるようになった。


 「はぁ~い♪お兄ちゃん、ご飯できたよ!」


 「お、おうわかったから。ちょっと近ぇぞ・・・」


 ソファーに座りテレビを見ていた俺に至近距離まで近づいてきた。俺はシスコンなので妹にもドキドキしてしまう。夏美は俺と違って母さん似らしい。こんなにきれいで可愛いんだからな。親父に似ているはずがない。


 かくいう俺は目つきの悪さぐらいが唯一の欠点だと思うんだが。身長も175センチはあるし。過大評価だって?またまた~そんなわけ・・・あるかもしれない。


 俺と夏美はそろって食卓に着いた。


 「いただきまーす」


 「いただきます」


 そうして食事を始めた・・・のだが


 「どうどう、お兄ちゃん?おいしい?おいしいよね?おいしすぎて天まで昇りそうだよね?」


 向かい側に座る夏美が身を大きく乗り出して俺にそう聞いてきた。


 ばか、だから近ぇって!俺は少し身をのけぞらせた。


 「お?おう、もちろんだ妹よ。お前の料理は世界のどんな料理人が作った料理よりもうまいに決まっているだろう!」


 俺が一瞬反応が遅れてしまったのを夏美は見逃さなかった。


 「あー!さては今、美冬ちゃんのこと考えてたでしょ?」


 「は?ば、ばっかじゃねぇのお前。俺がお前との最高の時間に他人のことなんか考えてるわけねぇだろ。ほら、俺だし!」


 「それはそうかもだけど・・・・普段からシスコン自称してるもんね」


 少しデレながら夏美はそう言った。普段から妹LOVEを伝えておいて助かった。


 マジで俺、どうすりゃいいの?この苦悩は一生続く気がした。


 その後も夏美は何かと俺にベタベタしてきた。俺が風呂に入って出た後、着替えてる最中に突然入ってきて衣服を脱ぎだしたので


 「は、ちょ、おまっ・・・何してんだよ!?」


 驚きと一部の欲望のあまり体が動かなくなってしまっていたが、そこは努力と根性で何とか脱衣所から妹をたたき出した。


 「わ、わりぃ。あんま手荒なことしたくねぇんだけど!ごめん出てってくれ!」


 そうして何とか理性を取り戻した。ぐはぁぁ。


 かと思ったら今度はベッドで本を読んでいたらウトウトしてきたので電気を消して寝ようかと思ったそのときだった。


 ガチャ。


 俺の部屋の扉が開けられた。


 「!?」


 こ、今度は何だよ・・・


 「お兄ちゃん、なんか今日眠れそうにないの・・・一緒に寝て!」


 そう言ってベッドに入って俺のすぐ横まで近づいてきた。


 こいつと一緒に寝るのって何年ぶりだろうか?あれは確か小学・・・・


 じゃなかった!眠くてまともな思考ができていないらしい。


 「ばかっ、中学生だろ。自分一人で寝ろよ。あと近ぇ」


 頬をわずかに上気させ、髪からは甘い香りがし、パジャマは少し露出度が高い。


 「嫌っ!このお願い聞いてくれなかったらお兄ちゃんなんて大っ嫌い!」


 「ぐっ、ぐはっ」


 そう言って夏美は俺の右腕にしがみついてきた。愛する妹に大嫌いになられては困る。それだけはなんとか避けねば・・・


 「わ、わかったから。せめてしがみつくのはやめろ」


 「うー。わかった」


 そう言って夏美は少し距離を開けて俺の横で眠った。やれやれ、やっと休める。


***


 翌日の朝。俺が目を覚ますと


 「・・・・・。・・・え、ええええええ!!!」


 俺の右にはパジャマを半分くらいはだけさせた妹が俺に抱き着くようにして眠っていた。しかも俺なんで上半身裸なの!?えっ!


 「ま、まさか・・・俺・・・」


 俺の方から眠っているうちに妹を襲ってしまったのだろうか。いや、そんなそんなまさか!もしそうだったら俺、妹と結婚することになるのか!?


 俺が焦りに焦りまくっていると


 「ふふっ。だいっ成功~イエーイ」


 眠っていたはずの夏美が目を開けてそう言った。


 「は?ちょ、どういうことだよ?」


 「私はもうとっくに起きてたんだよ~。朝ごはん作ったから起そうかと思ったんだけどただ起こすだけだとつまらないなぁと思って。テヘ☆」


 そう言って夏美は拳を額にあてて舌をちょこっと出した。


 可愛い・・・・


 じゃなくって!


 「だから何したんだよ!」


 「お兄ちゃんのパジャマを無理やり脱がせて~」


 「俺よく起きなかったな!?」


 「起きちゃいそうだったから麻酔打った!」


 「ひぃー!!」


 夏美が注射を取り出した。いや、お前何でそんんなのの持ってるのののの!

 

 あと麻酔の効果強すぎじゃね!?打った瞬間また眠ったってことだよね!?


 「私がパジャマを少しはだけさせてお兄ちゃんに抱き着いたってこっと☆」


 俺が初めて妹に戦慄せんりつした日だった。でも顔は赤くなってます。


***


 あの後、朝飯を終えて学校に行く準備をして出発しようという時だった。


 「よーし、夏美、俺行くぞ~?」


 「あー、ちょっと待ってお兄ちゃん。私も行くから!」


 そう言って夏美がバタバタと部屋から出てきた。当たり前だが中学校の制服を着ている。妹の通う中学は俺の高校へ行く道の途中にある。


 「今日は一緒に行こうね~お兄ちゃん」


 ニッコリ笑顔で腕を絡ませてきた。顔こそ笑ってはいるものの、その奥で「お兄ちゃんが拒否したらどうなるかわかってるよね?」と訴えかけていた。


 「わ、わかったよ」


 しぶしぶそのままふたりで玄関を出て家の鍵を閉めた。


 そしてさぁ出発だというように振り返ったときだった。


 信じられない人物がそこには立っていた。


 「な、なんで・・・お前が」


 みるみる顔が熱くなっていくのがわかった。うううう。


 「おはようございます!冬人さん。夏美ちゃん、どっちが冬人さんを登校中の危険から守れるか勝負よ!」


 「そうきたかぁ!オッケー、負けないからね!」


 美冬が俺の左腕に腕を絡ませてきた。右には愛するグレートな妹、左には初めてまともな恋をした少女がいる。


 両手に華・・・最高だな・・・


 じゃねぇよ!


「登校中の危険ってなんだよ?」


 俺は思わず美冬に聞いた。


 「それはもちろん、悪い女とか女とか女とか」


 俺を狙うのはおまえたちだけだし、俺は君を狙ってるんですよ!


 わかってます?


 また面倒な勝負に巻き込まれた俺だった。




 

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