第36話 妹を救え①

 「誰だか知らんがぶっ殺す!!」


 俺は美冬の言葉を聞いた瞬間中学校に向かって走り始めていた。


 「ままま、待ってください!!」


 後ろから追いかけてきた美冬に予想外に強い力で腕を引っ張られたので立ち止まった。


 やめて!腕、ちぎれちゃう!


 「悪いな。妹に近づくゴミどもは一人残らず始末すると決めている。離してくれ!」


 「カッコつけた顔で物騒なこと言わないでください。私、やっぱり冬人さん・・・・・嫌いかも」


 「ごごごごごめん!分かったって!話、聞くから」


 我ながらチョロいと思う。まぁ、こればっかりは仕方がない。

 美冬は鞄からスマホを取り出してしゃっしゃと操作した後、俺に画面を見せてきた。トークアプリの画面だった。


 「まずはこれを見てください」


 日付は昨日。相手はもちろんというべきか、夏美だった。


 「えーっと・・・」


 内容は・・・


 「はぁぁぁ!?」


 「静かにしてください!」


 しまった。つい大声をあげてしまった。美冬にとがめられ、慌てて口を手でふさいだ。


 「私も驚きました。どうして突然『中黒先輩と付き合うことになっちゃたから、お兄ちゃんはあげるね』なんてメッセージを送って来たのか」


 「全くだ」


 「あのブラコ・・・兄を異常に慕っている夏美ちゃんがどうして急にそんなことを言い始めたのかも気になります」


 あのー今、ブラコンって言おうとしたよね?しかも言い直したはいいけどあんまり変わってないからね?


 「それに兄を慕うのは妹なら当然のことだ!そうは思わんかね?」


 「何が『それに』なのかは分かりませんが、当然ではないかと・・・」


 「はっ!」


 しまった。心の声がうっかり出てしまっていたらしい。美冬が俺から距離を取ってドン引きしていた。


 俺は咳払いをしてごまかす。


 「オホン。まぁ、それはともかく。その、中黒先輩とやらはどういうやつなんだ?」


 「はぁ。まぁ、私も知っているのは噂の範疇にすぎませんが・・・正直、あまり良い人ではないかと・・・」


 「やっぱり殺す!!」


 「だから待ってくださいって!」


 もう一度ターゲットを始末しに行こうとした俺を美冬が引き留めた。この子、力強いですね。


 「全く。話には続きがあるんですから!聞いてください!」

 

 怒られてしまった。


 「わ、悪い。つい、かっとなった」


 美冬は話を続けた。


 「私の友達から聞いたんですけど、中黒先輩はどうやら結構カッコいいらしいんですが、思い人にフラれたのがきっかけでそこらへんの良さそうな女子なら誰でもって感じで女子を手玉に取っているっていう・・・クソが!」


 「ひゃ!」


 最後に怒りが込み上げてきたのか、美冬の口から思わぬ言葉が飛び出してきて驚いた。やっぱり女子って怖い。


 失言に気づいたのか、顔を赤くしながらひとつ咳ばらいをして、それから話を戻した。


 「あ・・・ゴホン。えっと、それで私の友達はその人に二股かけられてるのを知ってからすっかり元気をなくしてしまったんです。許せない話です」


 美冬は言い終えた後、奥歯を小さくギリ、と噛み締めた。


 確かに胸糞悪い話だ。それが事実なら。


 「・・・まぁ、話は分かった。けど気になるのはどうして夏美が急にそんなことを言い出したか、だな」


 「はい。私も同意見です。もしかしたら・・・何か、弱みを握られているのではないかと・・・」


 「くそっ!・・・腹は立つがまずは情報収集だ。やつのことも詳しく知りたい。悪いが、美冬。放課後に被害者の友達とか知り合いを何人か集めて欲しい。それも夏美には伏せて、だ」


 美冬は思案したような様子を見せた後、小さく頷いて口を開いた。


 「・・・はい、分かりました。場所は近所の公園でいいですか?」


 「おう」


 こうして夏美救出作戦(俺が勝手に名付けた)が始まった。


 あ・・・


 「今日、テストだった・・・」


 「ふふ。頑張ってください」


 すっかり忘れていた。まぁ、秀才に教えてもらったから多分大丈夫。


 ***


 そうして向かえた放課後。


 「テスト、どうだった?」


 「まぁ、多分、大丈夫だ」

 

 「そ。ならよし!なんてったってこのあたしが教えたんだからね!」


 席が近くの二条と軽く会話していた。

 だがあまり長く話す気はない。それに・・・


 俺はちらっと孔平の方を見た。すると彼はすぐに気づき、小さく頷いた。


 今日の朝。学校でのこと。


 『よ、マイフレンド。ちょっと肩貸してくれ』


 『・・・妙になれなれしくなったね。いいよ、分かった』


 俺たちは教室を出て廊下の突き当たりを曲がり立ち止まった。


 『で、何かな?』


 俺は話を切り出した。


 『実はな今日、俺放課後に少し用事があってな。それも重要な』


 『重要・・・妹さんのことかな?』


 さすが、鋭い奴だ。


 『ああ。だから俺はさっさと帰りたい。けど恐らく二条のやつは俺をそう簡単に帰してはくれない。そこでひとつ提案だ。俺があいつとの会話の終わりにこう言うんだ。「水無月がお前に用があるそうだ」ってな』


 すると水無月はうーんとうなりながらこう言った。


 『でも、そう簡単に君から離れるかな?それに、彼女がその言葉を信用するかどうかも怪しいし』


 ふむ。まぁ、そうだがな。一応、考えはある。


 『お前、確か今日のテストの教科、数学の提出物集める係だったろ?あいつに手伝ってもらえよ。多分、なんだかんだお前のこと、そんな悪くは思ってないと思うぞ』


 『うーん・・・・・』


 孔平はしばらくうなった後、再び口を開いた。


 『まぁ、それでいこうか。君の作戦に賭けるよ』


 『よし決まった』


 という感じの会話を交わしていた。もちろんこれは孔平のための作戦だぞ?そして今に至る。


 「あ、そういえば水無月がお前に用事があるってさ。今日の提出物のことでなんかあるらしいぞ」


 「え、そうなの?ジュンが?なら行ってあげますか」


 いい奴だな。マジで。


 二条は孔平のもとに向かって歩き出した。


 よし。


 俺はすばやく荷物をまとめ、席を立とうとしたのだが・・・


 「あ!すぐ戻るから待っててね☆」


 二条が振り返ってそんなことを言ってきた。なんか星が見えたような・・・


 クラスの連中は「ひゅーひゅー」とか言って茶化してきやがったが無視。


 「え、あ、おう」


 たどたどしくなったが、何とか返事をすることができた。二条が再び孔平の方に向き直ったのを見て全速力で教室を出た。


 —悪いな、二条。


 心の中でつぶやいた。


 途中、何度か躓きそうになったが土間で靴を履き替え、例の公園に向かった。


 以前にも使った机のあるベンチに何人かの人の姿があった。


 「あ、冬人さん」


 「悪い。ちょっと遅れた」


 美冬が俺に向かって軽く手を挙げた。ちなみに今日の美冬は髪をゴムで一つにまとめて肩のあたりに下げている。うん、可愛い。マジ可愛い。


 「へー、ねぇ!この人が美冬の言ってた—」


 「あぁぁぁぁ!!」


 近くに座っていた美冬の友達と思しき人物がなんか気になることを言った気がするが美冬が遮ったので上手く聞き取れなかった。


 っていうか、友達、元気じゃん。まぁ、それはそれでよかったのだけどね。


 「お、オホン。冬人さん、紹介しますね」


 美冬、顔が赤いな。熱だろうか?


 まぁ、今はほっとこう。


 「私の隣、友達の有紀燐ゆうきりんちゃんです」


 「どもー」


 燐ちゃんとやらは赤みがかった茶髪のツインテールを揺らしながら気さくに挨拶をしてくれた。俺も挨拶を返す。


 「おす」


 「おすって。めちゃウケますね」


 何がウケるのだろうか。全く分からん。


 なおも紹介は続く。


 「私の前、先輩の西園寺京華さいおんじきょうかさんです」


 「よろしくです」


 紺色っぽい黒髪ロングの西園寺さんは律儀にしっかりと俺に向かって頭を下げた。固定観念ではあるが、眼鏡もしてるし、生徒会長とかやってそうだな。


 俺も深めに頭を下げた。


 「どうも。よろしく」


 すると彼女は穏やかな笑みを向けてくれた。顔立ちは幼さが残っているが、十分に美人な人だな。うん。


 「それで、こっちはさっきも話した卯月冬人さんです」


 「どうも。卯月冬人だ。すぐそこの高校に通ってる。今日は少し話を聞きたい。よろしく頼む」


 改めて自己紹介し、頭を下げた。


 「紹介も済んだことだし、さっそく始めましょう。時間ももったいないですし」

 

 美冬が両手をパチンと叩いてそう言った。


 俺も空いている席に座り、さっそく話を聞くことにしたのだった。


 


 


 


 


 

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シスコンの俺が妹だけでなくその友達まで好きになってしまいました 蒼井青葉 @aoikaze1210

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