第22話 彼女たちの戦い(その1)

 翌日、土曜日。今日は中学校の体育祭の日である。昨日、夏美から


 「私たちが出るのはお昼後と、最後のクラス対抗リレーだよ!別に急いで来なくてもいいからね!ゆっくり寝てて☆」


 と言われたので早くは起きなかった。だが俺は8時には起きていた。というのも昨日、二条に


 「明日、昼後と最後があいつらの出番らしいがどうする?それ以外も見るか?」


 とメッセージを送ったところ


 「そ、そうなんだ。じゃあお昼まで君の家に遊びましょう!けってーい!9時くらいにはそっち行くね♪」


 というクソみたいな返信が帰ってきた後俺が何度もメッセージを送ったが既読無視されてしまった。


 はぁぁぁ!?おいおいおい。「じゃあ」ってなんだ!「じゃあ」って!あと勝手に決定すんな!


 あのお嬢様は自由過ぎませんかね?俺なんかと遊んでることがばれたら俺抹殺されるんじゃ・・・。


 ま、まぁそこはあいつを信じよう。仮にもあいつの護衛役、かつ親友(?)だしな!あいつが父親を説得してくれるはず!


 というわけで(どういうわけだ?)、俺は休日だが8時に起きておいてあった朝飯をさっさと食べ、家の整理を行った。夏美は俺が起きるのと同時に家を出て行った。


 ええい、水無月君も呼んでいいかな?なんか家で女子と二人きりになるのだと思うと気が休まらない。


 いや、やっぱやめた。さわやか眼鏡くんであるあいつのことはそんなに好きじゃないんだ。ほんとだぞ?あいつが勝手に親友とか言ってるだけで。


 その代わり、今度どっかの教室でふたりきりにしてやる!絶対!


 30分ほどで整理、掃除を終わらせて少し経った後、家のインターホンが鳴る音がした。


 ピンポーン。


 「はい」


 俺がだるそうな声で返事をすると


 「おっはよー!遊びに来ちゃいました!てへっ☆」


 とかいう言葉が返ってきた。


 くそ、「てへっ☆」がちょっとだけ、本当にちょっとだけ可愛いとか思ってしまった!それがし、一生の不覚!かくなる上は切腹!


 なんてね。


 ***


 俺はしぶしぶながらも二条を家に上げた。


 「言っとくが、なんも特別な用意はしてねぇからな?あ、夏美の雄姿を撮るためのビデオはちゃんと充電したわ!」


 「別にいいよ~。っていうか、美冬ちゃんはどうでもいいんだぁ」


 俺の言葉に二条がにまぁ~、っと嫌な笑みを浮かべた。


 「い、いやそんなことはねぇよ!けど、その・・・なんかストーカーみたいで気持ち悪いし、何より恥ずかしい・・・」


 「あはは。でも君になら、撮られても嫌じゃないんじゃないかな。でも私はちょっとキモイと思う」


 「そ、そうか?だといいけどな。って、お前の意見なんか聞いてねぇよ!」


 「まぁまぁ、そう言わずに!私だって年頃の女の子なんだよ?貴重な意見として受け取ってくれたまえ!」


 「ああ、そうだな。ありがとう」


 俺は適当な受け答えをした。まぁ確かに、お前も立派なJKだしな。まぁ、本当に少しだけ心にとどめておこう。


 ちょっとだけ美冬のことをビデオに映すかもね。


 俺は二条とともにソファーに腰かけた。


 「そうだ、なんか飲むか?お茶とちょっとしたジュースくらいはあるが」


 「うーん、麦茶で!」


 二条は元気よくそう答えた。

 

 いや、俺お茶としか言ってねぇんだが。まぁありますけどね。しょうがないなぁ。


 俺は席を立ってキッチンへ向かって冷蔵庫からペットボトルを出して二人分のコップに注いだ。そして再び戻った。


 「ほらよ」


 「ありがと!」


 俺が少し離れた二条のもとにコップを置いて座ると、彼女はそう返事をした。


 「・・・!!」


 突然二条がじりっと詰め寄ってきたので俺は驚いた。こいつ、今日えらく露出が高めのワンピースを着ている・・・うう。


 似合ってます・・・


 ってそうじゃなくて!


 俺が二条に驚きを込めた視線を向けると


 「ん?どしたの?あ、今日の私の服装にびっくりしちゃったとか!そっかそっか~かっわいいなぁ。」


 けらけらと楽しそうに笑いながら俺の肩をたたいてきた。


 いや、確かにちょっとドキッとしてしまったけど!かわいいとか言われても嬉しくねぇ~。


 「うっせー。お前そんな格好だと日焼けするぞ?」


 「だいじょぶだいじょぶ!日傘持ってきたし日焼け止めも塗ってきたから」


 さすが女子といったところか。あ、ちなみに日傘は黒が一番効果あるらしいですよ。


***


 「で、どうする?俺は昼ぐらいに出てこうと思ってるが、お前はもうちょい早く行きたいか?」


 「うーん。そうだねぇ。君のいた中学校、ジューニアハイスクールの体育祭だよね。ちょっと見てみたいかな」


 「そうか。なら、ちょい早く行くか」


 「うん!あ、お昼ならサンドイッチ作ってきたから大丈夫だよ!」


 お、おお。準備がおよろしいことで。


 「そ、そうか。ありがとう。じゃ、今から行くか」


 時刻はもうすぐ11時だった。ちょうどいいくらいだろう。


 「うん!」


 俺は戸締りをしっかりしてからふたりで家を出た。そうして中学校へと向かった。


 「あ、あたしを家に上げたことはあのふたりには内緒だよ!」


 俺の隣を歩く二条が急に今思い出したみたいにそう言った。


 「当たり前だろ。あいつら、二条はただの友達だって言ってるのに信じてくれないからな。まぁ俺にも非はあるが」


 この前の一件のことだ。あいつらはまだ信じてくれていない。


 「そ、そっか。ならいいんだけど・・・」


 二条はぼしょぼしょとそう言うと、俺とは反対の方を向いて視線をそらした。顔は斜め下を向いていた。


 何?まさか照れてるんじゃないだろうな?俺とこっそり二人きりになりたかったとか言い出すんじゃないだろうな?


 いや、まぁ友達だが。


 俺がそんなことを思っていると、二条がまたきゅいっ、と俺の方を向いた。


 「あたしもあの子たちに負けないように頑張るから!」


 「・・・は?」


 突然そんなことを言い出したので思わず呆けてしまった。一体何を頑張るんだ?今日はあいつらが頑張る日だが。


 ちなみに二条は今日も俺の服の袖をきゅっと小さくつまんでいる。うーん、まぁ慣れたけど・・・少し落ち着かん。


 しばらくすると中学校が見えてきた。近くからは生徒たちや保護者の声が聞こえてくる。校門には「体育祭」と書かれたパネルが置いてあった。あったなぁこんなの。ちなみに高校でもこういうのはあるぞ?


 「人、いっぱいいるからはぐれるんじゃねぇぞ」


 俺が二条にそう言うと


 「う、うん」


 と真剣な顔でそう言った。


 実際、運動場のトラックの前には多くの人だかりができていた。みな友達やわが子を応援しようと必死である。


 俺たちは体育館から運動場へ続く長めの階段を陣取った。ここは人も少なめで運動場全体を見渡せる。


 「へぇーにぎわってるね。みんな楽しそう」


 ふいに、二条がそう呟いた。


 「そうだな」


 俺は・・・どうだっただろうか。楽しめていただろうか。記憶が曖昧でよく覚えていない。


 今は障害物リレーをしている。トラック上に設置されたネットや平均台やらの障害物を乗り越えてゴールを目指す。各クラス4人で行う。このトラックは一周200メートルなので半周でタスキを交代する。


 「こんなのやるんだ!」


 二条はその光景を楽しそうに見ていた。


 「ああ、俺やったことあるかも」


 「ほんと!」


 「おう」


 これはあまり足の速さに関係ないから選んだ・・・ような気がする。まぁこういう競技があるのはそのためだろう。


 「そういうえば、お前って足早い方なんだっけか?」


 「ん、うん!まぁね。そこそこ」


 多分これは謙遜なんだろうな・・・。絶対この子早いでしょ!


 やった!俺のクラスのリレーで一位狙える!


 しばらくすると、競技が終わって昼休憩になったので俺たちは校庭のベンチをいち早く取ってそこで昼飯をいただいた。

 

 「どう?おいしい?」


 俺がサンドイッチをほおばっていると二条がそう聞いてきた。少しの不安が見て取れるが顔は笑っている。


 もちろん。


 「ああ、うめぇ!」


 これは本心だった。みずみずしいレタスとトマトにひたすらうまい卵が挟んである。絶対これは高級食材ですね。


 俺がそう言うと


 「そっか!よかった・・・」


 二条は、ほっと胸をなでおろしながらそう言った。うーんその反応になんだか複雑な気持ちを抱いた俺でした。


 ***


 昼後。俺たちは再びあの階段に戻って観戦した。いよいよ彼女たちの出番である。


 アナウンスが流れた後、選手たちが入場し、運動場の真ん中に整列した。その後、半分ずつに分かれて位置に着いた。


 「どこだ!あ、ここだ!いたぞ!頑張れぇー!」


 俺は入場の時から即座にビデオを構えて夏美の姿を探していた。


 「いや、まだあの子たちの出番じゃないでしょ。どんだけ気合入ってるの」


 二条に苦笑されてしまった。つい気合が入りすぎていたらしい。


 しょうがないじゃん!体操服姿の夏美と・・・美冬ももちろん、可愛いだもん!


 これは女子100メートルのリレーらしい。これも各クラス4人でやるみたいだ。


 俺は夏美たちの出番が始まるまでずっと、夏美を撮り続けてた。


 「きも・・・」


 と二条さんには言われてしまいました。だがな、俺は・・・


 シスコンなのだ!仕方ない。


 太陽はすっかり真上に来ており、ギラギラと照らしていた。


 いよいよ彼女たちの出番だった。


 


 

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