第21話 寂しいから
前回のあらすじ。俺は神楽坂家を訪問。そこで美冬とドキドキのおしゃべりをしていました。流れで本棚を見ようという話になって美冬が本を取ろうと背伸びをしていたので、バランスを崩してしまった。俺は助けようとしたのだが一緒に巻き込まれてしまった。ぎゃー近い、いい匂いがする、柔らかい!
なんて俺は思っていたのだが、そんなところに夏美がやってきてしまったのだった。なんか俺たちに冷たい視線を送っていた。待て!何もやましいことはないぞ!
以上。
「ふふ。ねぇ、ふたりで何しようとしてたのかなぁ~?」
「ま、待って夏美ちゃん!これは―」
「ま、待て!これは—」
俺と夏美は必死に説得を試みたのだが・・・
「問答無用!そこに正座!」
夏美はバッグを強く床に落とし、生徒指導の先生のように強めの口調で俺たちにそう言った。
「きゃ!ごめん!」
「はい!ごめんなさい!」
俺と美冬は超速で距離をとって床に正座した。ひいいいい!
「お兄ちゃん!女の子とスキンシップをしたいなら私とすればいいじゃん!」
「い、いやだから俺は」
「発言はイエスしか認めてません!」
「ひいい!イエス!マム!」
とは言ったものの、妹とそういうことは倫理的にアウトでしょ!むしろ妹とやっちゃうほうがまずいですよ!
けど、したくないとは言ってないぞ?ほっぺた突っついたりくすぐりたい。
「ちっ、せっかく冬人さんがかっこよく助けてくれるところだったのに・・・」
少し離れたところでは美冬がそんなことを言っておりました。
え、もしかして計画的だったりする?わざと転んだの?俺に助けさせるために?
あざとーい!
けどそんなとこにも可愛いと思っちゃいました!
「ん?何かな美冬ちゃん?」
すかさず夏美が首をきゅいっと動かして美冬の方に視線を向けた。
「な、なんでもないよ?冬人さんにかっこよく助けてもらおうとか考えてたわけじゃないよ?」
言っちゃてる~!
「へ~、そんなこと考えてたんだ!残念だったね。そうはさせないよ!」
「そ、そんなこと考えてたわけじゃないって言ってるじゃん!」
夏美の言葉に美冬は怒って立ち上がった。
いや、まだあがくんですか・・・。無駄だと思いますよ。
っていうかまたバチバチしてるんですけど。
んもぉ~う勘弁してぇ!
「おい、お前ら落ち着けって」
俺はふたりをなだめるためにふたりの間に入ったのだが・・・
「お兄ちゃんは黙ってて!」
「冬人さんは黙ってて!」
「はい~」
あっけなく撃沈。俺はよろよろしながら再び座った。
「う~ん・・・・。あ、そうだ!」
夏美ちゃんが何かを思いついたようです。
「明日の体育祭で勝った方はお兄ちゃんの好感度ポイント、ア~ンド!お兄ちゃんとじゃれあえる権利をもらえるってのはどう!」
ア~ンド、の言い方がかっわうぃ~
じゃなくて!
「お、」
俺は抗議しようと口を開きかけたが、即座にふたりがきっ、とこっちを見たのでやめた。
「いいわ!それなら文句ない」
美冬も納得しているようだった。
俺は納得してませんけどね!俺にはやはり拒否権がないらしい。
「さ、この話は終わり!何しよっか?」
「そうね~ちょっと待ってて」
ふぅー。やっと終わった。美冬は何かを取りにリビングを出ていった。多分、自分の部屋に行ったのだろう。俺は床から立って、ソファに座った。近くには夏美がいる。
「なぁ。そう言えば何で遅れてきたんだ?」
こいつにとっては俺と美冬がふたりきりになるのは嫌なはずだ。何か外せない用事でもあったのだろうか。
「あー、それね。うん・・・」
夏美からは歯切れの悪い返事が返ってきた。
「どうかしたのか?」
「ほ、ほら!ちょっとは二人きりの時間を作ってあげたいなぁ~って。だからだよ!」
そうなの!?お前、ほんっといい子!一生傍にいてくれぇ~!
妹相手にはこんな言葉もするすると出てくるのにな。
っていうか、危うく夏美の可愛さに惑わされるところだったぜ。絶対それが理由じゃないよな。なんだか焦って今考えたみたいな感じだったし。
「ほんとか?ほんとにそう思ってるのか?」
俺は夏美へ疑惑の視線を向けた。
「だ、だからそう言ってるじゃん!」
夏美はむくれてそっぽを向いてしまった。
可愛いからそれでよしとしておくか!
そこに美冬が帰ってきた。手にはボードゲームのゲーム板やトランプがあった。
「お待たせ。これで遊ぼ!」
そこから俺たちはボードゲームやトランプに興じた。美冬ちゃんが考えたボードゲームもありましたね。ほんと、この子何者なんでしょうね~。
「っだぁ~負けた!チクショー!」
ババ抜きをやっていたら、夏美が一番にあがり、その後俺と美冬の勝負になっていた。
「やったぁ!私の勝ちですね!」
美冬は両手でガッツポーズを作ってにこっと微笑んで喜んだ。
ほんと、可愛らしい子だと思う。俺は思わず笑みをこぼしていた。
俺が負けて彼女が微笑んでくれるなら、負けたかいがあったというものだ。まぁ、俺は負けのスペシャリストだし!
全然自慢にならないんだよな・・・・・。
「おっと、もうこんな時間か」
「ほんとだ!」
俺につられて夏美も部屋の時計を見ると18時をとっくに過ぎていた。
「もうそろそろ帰るか」
「うん、そだね」
俺と夏美はそう言って頷き合った。
「ええ~まだいいのに!どうせ遅くまで帰ってこないよ?せめてご飯は一緒に食べようよ~」
美冬が駄々をこねていた。
そうは言ってもなぁ。俺だってそうしたいけど、もしかしたら早く帰ってくるかもしれないし。まだご両親へあいさつするわけにもいくまい。緊張で軽く死ねる。
「こんなこと言うと、子供みたいだって言うかもしれないけど」
悲しげな顔で、穏やかな口調で美冬が話し始めた。
「私、結構な頻度で夜ごはんは一人なんですよ。それがちょっと寂しいなって・・・」
そうなのか。ご両親は一体どんなお仕事をされているのやら。まぁそれはおいおい。
うーむ。仕方あるまい。夜ご飯くらいは付き合ってあげましょう!仕方ないから!
俺は夏美の方を見たが、こいつも同じ考えのようだった。俺が視線を向けると、こくっと頷いてくれた。
「そっか。しょうがないなぁ。ご飯は付き合ってやろう!」
「うん、わかった。付き合ってあげる」
俺と夏美がそう言うと、美冬が
「ありがとう」
と言って笑った。目には微かに涙が浮かんでいた。
***
俺は料理が上手くないので、例のごとく皿の用意をしたり、野菜の下処理やらを請け負った。ふたりはさすがというべきか、さっさと切ったりいためたりしていた。
一時間ほどで料理は完成した。
「「かんせーい」」
俺が大きくて頑丈そうな木の食卓で待っているとふたりが声をそろえてやってきた。おお~いい匂い!カレーですね!
二人も席に着き、三人で手を合わせた。
「「「いただきまーす」」」
と声をそろえて唱和した。
俺がさっそく一口いただくと
「かっらーい!・・・けどうまい!」
最初に口を焼くようなスパイスの辛さがやってきたが
俺が正面のふたりの方を見るとどうやらまだ食べていなかったようだった。じっと俺を観察していたらしい。
え、何?なんかそんなに見ないでほしいんだけど!食べづらい!
「そっかそっか~。だってさ美冬ちゃん!」
「そうね夏美ちゃん!私特製スパイスのおかげかもね」
「君、香辛料栽培してるの!?」
さすがにびっくりだった。インドで修行でもしてきたのだろうか。この14歳の中学生は。
それから俺たちは気ままに(俺はちょっと緊張してたけど。美冬が真正面だったし)談笑し、夕食を終えた。
「「「ごちそうさまでした」」」
始めと同じように俺たちは声を合わせた。ふと時計を見ると時刻は20時を回っていた。
「もうこんな時間か」
俺がそう呟くと美冬は
「片付けは私がやっておきますので。ふたりは帰ってもいいですよ」
と言ったので、お言葉に甘えることにした。俺たち、今回は客人だしね。
「それじゃ、また明日。見に、行くからな」
「じゃあね!明日、負けないよ!」
俺たちがそう言うと
「はい、それじゃあ。私も負けないよ!今日はありがとう」
と美冬がそう言って手を振った。
そうして俺たちはふたり仲良く神楽坂家を後にした。夏美はごく当然のように手をつないできた。
俺と手をつなぎたいんだな!そうなんだな!まったく可愛い奴だな!
そんなことを思ってました。
そう言えば明日は二条も来るんだよな。後でメッセージ送っとくか。
静かに、少女たちの戦いが幕を開けたのだった。
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