波乱

第11話 いまだ勝敗はつかず。そしてさらなる・・・

 俺と夏美が帰宅すると、美冬が二階から降りてきた。


 「あ、お帰りなさい」


 彼女は制服姿だった。


 「うん、ただいま!」


 「お、おう。帰るのか?」


 「はい。お母さんからも夕方には帰ってきなさいと言われたので。けれど、わかっていますね?」


 美冬がそう言うと、隣にいた夏美も目を俺に向けてきた。ふたりが何について知りたいのかは理解している。


 「ああ、大丈夫だ。だがリビングで話さないか?」


 俺はふたりに目をやりながらそう言った。するとふたりは真剣な面持ちで首肯し、リビングへと向かった。俺もそれに続いた。


 そうして俺たちはリビングのソファに座った。今回は俺たち三人の距離は離れている。


 「さて、例の勝敗の話だよな」


 ふたりの表情は真剣そのものだった。


 正直言うと


 勝敗なんてつけられねぇよぉ!


 だって、どっちのデートも楽しかったんだもん!どうして優劣なんて付けられる?

 

 そもそもこの勝負の根幹は「どちらが俺の好感度を得られるか」だったはずだ。俺自身が言ったことくらい覚えてるさ!


 それに従えば、やはり勝敗なんてつけられない。


 「正直言って、今回も勝敗はつけられそうにない。どっちも楽しかったというのが俺の本音だ。これだけは信じてほしい」


 「・・・・・」


 「・・・・・」


 俺がそう言うと、ふたりはしばらく黙っていた。少しだけ悲しそうな表情をしていたような気がした。けれどすぐに穏やかに笑って


 「そうですか。しょうがないですね」


 「そっか~。まっ、また決着つかなかったね~」


 と少しおどけた様子でふたり見つめあってそう言っていた。


 「けれどお兄ちゃんって、もしかして優柔不断?」


 「ぐっ!」


 痛いところを突かれて俺は変な声を出してしまった。だってどっちも最高に可愛くて魅力ある女の子だもん!何を基準に勝敗を決めろっていうのだろうか。


 「そうですよ!あ、もしかして焦らしプレイですか?へ~そうなんですね」


 俺が言葉に詰まっているうちに美冬にまで言われてしまった。失敬な、俺は女の子相手に焦らしプレイなどという不遜なことは致しませんよ?あはははは。


 「ち、ちげぇからな・・・」


 だが口から出た言葉は弱弱しかった。


 「お兄ちゃんってそういうことするんだ~。見てて、そのうち私しか見られなくするんだから!」

 

 「まぁ私も冬人さんに認めてもらえるようになりますので。見ててください!」


 「お。おう・・・・」


 断じて焦らしなどというものではないのだが・・・


 心からどちらのことも好きなのだ。


 「さて、私はもう帰りますね!それじゃあお二人とも」


 美冬は立ち上がってそう言った。そして荷物を持って玄関へと向かった。俺たちもそれに従った。


 「じゃあね!美冬ちゃん。また月曜日」


 「じゃあな。気を付けて」


 「はい。それでは」


 玄関の扉を開けた時、太陽の光が射しこんできてまぶしかった。美冬は笑顔で手を振って帰宅していった。


 ***


 その日の夕食。


 「ねぇねぇ、お兄ちゃん。お兄ちゃんって美冬ちゃんのこと好きなんでしょ?」


 唐突に言われたのでせき込んでしまった。


 「げほっ、げほっ。な、なんだよいきなり」


 「どうして勝敗決めないのかなって思って」


 「その話か。もともとこの勝負は『どちらが俺の好感度を得られるか』だったはずだ。そこに俺の勝手な感情を挟むべきじゃないだろう?」


 「まぁ確かにそうかもだけど・・・。お兄ちゃんって変なところで律儀だよね」


 「ありがとう!」


 「いや褒めてないから!」


 盛大にツッコまれた。妹に褒められたので反射的にありがとうと言ってしまった。俺はシスコンだから皮肉を言っていたとしてもそれが妹からの言葉なら感謝してしまうのだ!


 「・・・でも、ちょっと意地悪でもあるかも・・・」


 ぼしょぼしょと紡がれた声は俺の耳にはっきりとは届かなかった。


 「うん?なんか言ったか?」


 「いいや!なんでもありませ~ん!」


 そう言って夏美はあっかんべーとやってみせた。


 かっわいいな~夏美は!可愛かったからどうでもいいや!


 ***


 次の日は昼まで爆睡してしまっていた。知らないうちに疲れがたまっていたらしい。昼頃に起きたらテーブルに


 お兄ちゃんへ

 テーブルにお昼作っといたからね♡

 私は少し買い物に行ってきます。夕方には帰ってくるね!

 

 な・つ・み


 と書かれた置手紙があった。ほんっとにかっわいいやつだな!全然あざといなんて思ってませんからね?僕、嘘つかない。


 作ってくれた昼食をありがたくいただくことにした。おいしすぎて1分で食べ終わっちまった!


 いやいや間違えた。10分だったわ。あれ?結局早くない?


 食べ終わって食器を洗った後、少しゆっくりしようかと思ったそのときだった。


 ピンポーン


 とインターホンが鳴る音がした。


 「はぁ、誰だよ」


 俺はしぶしぶ玄関を開けて外を見ると


 「Hello! My name is Koharu Nizyou!」


 「・・・は?」


 そこには外国人かと思う容姿の少女がいた。長い金髪は腰のあたりまであり、瞳はうっすらと青みを帯びている。


 いきなり英語で言われたことも相まって俺は呆けてしまった。


 「あ、ごめん。あたしは二条小春と言います。そこの家に今度引っ越してきますので、そのあいさつに来ました」


 「あ、ああそりゃどうも・・・って!」


 待てよ?なんかこいつどこかで見たような・・・


 俺は記憶の海を探ってから話し始めた。


 「あの、もしかして昨日、科学館で銀髪の少女をナンパから助けてませんでした?俺の間違いだったら悪いんですけど」


 「え!君、あそこにいたの!っていうかあの子の彼女だったの!へぇ~やるじゃん」


 そう言って彼女、二条小春は俺の肩をバシバシたたいた。いってぇ


 「まぁそうですけど。って別に彼女じゃないですって!・・・まだ」


 「ん~?それはどういうことかな?よかったらあたしに聞かせてよ」


 そう言って二条は俺の顔を覗き込んできた。つーか、近いんだが・・・


 「なんで昨日今日で知り合ったあんたにそんなことを話さないといけないんですか?」


 「え~?あの子をナンパ男から助けたのはあたしだよ~?一応関係ありませんかね~?」


 ちっ、正論だ。


 「分かりました。立ち話もなんなので、どうぞおあがりください」


 「Thank you!」


 ネイティブかのような流麗な発音でそう答えると、彼女は俺とともにリビングへ入っていった。


 そして距離を空けて俺たちはソファに座った。


 「っていうか、あなたの詳しい話を聞きたいんだが」


 「それもそうね。あたし、アメリカから3日前に帰ってきたのよ。それで今度、お父さんが昔住んでいたこの辺りに家を建てようってなったの。あ、あたしは17歳よ」


 「ほー。アメリカ育ちなのか?」


 「いや、生まれは日本なのよ。けれどちっちゃいころに親の仕事の関係でアメリカに行かないといけなかったの」


 「そうか。あ、俺も17歳だわ。だから何だって話だが」


 「じゃあ同い年なんか~。うん!近所だから顔合わせることあるかもしれないけどその時はよろしく」


 「おう。よろしく」


 俺はこれで話を切ろうと画策していたのだが


 「忘れてないよね?さっきの話、聞かせてよ!」


 俺が逃げようとするとその手をつかんで逃がせまいとしてきた。


 ちっ、めんどくせーな。


 「ああ、わかったよ」


 そう言って俺は、俺が美冬を好きかもしれないこと、そしてなぜか妹と美冬が俺の好感度を得ようと勝負を続けていることを話した。


 「ってわけだ」


 俺が言い終わると


 「あははは!何それおっもしろーい」


 腹を抱えてげらげら笑っていやがった。当人の俺からすれば面倒な状況このうえないから全く笑えないんだが!


 「あ?何がおかしい?」


 俺が若干いら立ちをにじませた声で言うと


 「ごめんごめん。けれど君、ふたりの気持ちに気づいてる?特に妹の方なんだけど」


 「は?そりゃどういう意味だ?」


 俺はただ、ふたりの遊びに付き合わされているだけだと思っていたが。まぁ俺としてはそれを利用して美冬との距離を詰めようとしているのだが。


 「わかんないならいーよ。それはあたしが言うことじゃないしね。それにしても一目惚れかぁ~。うん、いいと思うんだけど慎重になることも大事だと思うよ、あたしは。ほら、一目ぼれは気の迷いとも聞くじゃん?一緒に過ごすうちに間違いだったって気づくかもしれないしね」


 「・・・それは、そうかもな」


 確かに何かの間違いの可能性もある。例えば神様とか神様とか神様とか。神様っていたずら好きだしね!


 「ま、まずは相手を知って自分を知ってもらうことが大事だと思うよ!せいぜい頑張りな!それじゃ面白い話も聞けたし、失礼するねー」


 「お、おい待て・・・」


 止めようとしたが、それよりも早く出て行ってしまった。


 「はぁ何なんだ、ほんと」


 俺がもう一度腰を落ち着けると、それと同時に夏美が帰ってきた。


 「たっだいま~!あ、さっきそこで金髪美人さんと会ったけどなんか知ってる?」


 「ああ、どうやら近所に越してくるらしい。最近までアメリカにいたらしい」


 「へー、そんな人、ほんとにいるんだね。都市伝説かアニメの中にしかいないと思ってたよ」


 「ああ、全くだ妹よ。俺も全く同じことを考えていた」


 「はいはい、うれしいうれしい~」


 俺の言葉に夏美は棒読みで答えた。お兄ちゃんちょっと悲しいゾ!まぁ全く同じことは考えていなかったのだが。さすが俺の妹、エスパーかな?


 だが俺は気づいていなかった。二条小春が俺の生活を大きく変える存在となることを。


 ***


 次の日、今日は美冬は来なかったので、夏美と一緒に登校した。妹を中学校へと見届けると、俺は高校へと向かった。そこで気になる話が道端の生徒たちから流れてきた。


 「なぁなぁ知ってるか?今日、転校生来るらしいぜ。それも女らしい」


 「ああ、知ってる!なんでも最近アメリカにいたらしい」


 ほーん、アメリカ・・・って。


 え?


 まさかな。


 俺は人込みをするりと通り抜けて教室にたどり着いた。


 そして席に着くと、案の定クラスはその話題で持ち切りだった。


 ほんっと、そういう話好きだよな。


 しばらくして担任が入ってくると、ホームルームが始まった。


 「あー、突然なんだが、今日は転校生を紹介する」


 その言葉に教室はどわっと歓声が沸き起こった。


 「紹介する。二条小春だ。仲良くしてやれよ」


 「はっじめましてー!皆さん。二条小春でーす!よろしく!」


 そう言って二条は元気よく教室に入ってきた。


 俺は苦笑いしかできなかった。


 


 


 



 

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