第12話 第三勢力

 はぁ、やっぱりか。そういえばどこの高校行くんだとか聞いてなかったしな。


 クラスの輩は


 「おお!すげぇ可愛い!」


 「あの子めっちゃ美人!」


 「なんでもアメリカ人とのハーフらしいぞ!」


 とこのように夢中でございました。まさか現実に美少女転校生なんかが来てしまうとはな。しかもうちの近所ときた。


 「よーし、二条は一番後ろのあそこの席を使ってくれ」


 ほー、どこに・・・


 って、俺の真後ろじゃねぇか!


 「よろしくー・・・って君」


 「そうですよ、昨日会いました卯月ですが何か」


 「あっははは!君、ここの高校だったんだ!そっかそっかー!」


 そう言って二条は後ろから背中をたたいてきやがった。いってぇな!何しやがんだと思って後ろを振り返ろうとすると、それより周りの視線と言葉が気になった。


 「おい、あの卯月と知り合いらしいぜ」


 「あいつも隅に置けないな!」


 「しかも家が近所らしいよ!マジウケるんだけどw」


 ってな感じで嫌な注目を浴びてしまっていた。


 うるせぇ!俺だって好き好んで知り合いになったわけでも家が近所になったわけでもねぇんだよ!こいつはただの、た・だ・の知り合いだからな。


 俺が「うっせーな、こっち見るな」と言わんばかりの視線を周囲に向けるとクラスメイト達はすぐに前を向いて何事もなかったかのように授業の準備やらおしゃべりやらを始めた。


 その様子を見て二条は

 

 「君、もしかして友達いない系?あ、じゃああたしが友達になってあげよっか?」


 とか言って俺の背中をツンツンしてきた。


 あーくすぐったい!うっとうしい!


 「哀れみで友達になろうとしてるなら俺はごめんだ。別に俺はひとりは嫌いじゃない」


 「えー、別に哀れみなんかじゃないけどなー。お父さんから『いいか小春。高校は危険な男どもがいるから誰か信頼できる男をボディーガードとして雇いなさい』って言われたし」


 「お前の親父は高校を何だと思ってるんだ・・・」


 まぁ確かに男どもから注目の的になるだろうが。


 というかボディーガード兼友達ってことになるの、俺?


 「えらく信頼されてるんだな」


 「だって君、何もできなさそうじゃん、女の子相手に。彼女だってまだいないしね!」


 いたずら好きな子供のような笑顔で二条はそう言った。


 し、失礼な。あんまり俺をなめるなよ?


 って、それより・・・


 「おい、お前何か変なことを企んではいまいな?」


 「えー?何のことかなー」


 俺の言葉に二条はそっぽを向きながら棒読みで答えた。明らかに何かを企んでいた。


 「いいの?断ったらお父さんに言いつけちゃうんだけど。それに君の大好きなあの子を助けたのは誰だったけ~?」


 つくづくうっとうしい女だ。ちっ、ここでこいつを敵に回すと俺の平穏な高校生活が失われかねない。


 「ああ分かりましたよお嬢様。私はあなたのボディーガードです。なんでも言いつけてください」


 俺が超絶スーパーウルトラ適当な受け答えをすると


 「よろしい!では冬人。毎日私の登下校を守りなさい。通り魔が来たら代わりにあなたが盾になるのよ!」


 「なるわけねぇだろ!」


 誰が好き好んで人のために死ぬかよ!来たとわかったら俺はお嬢様を裏切って逃げちゃいますからね~。


 ***


 その日の昼休み。


 「さぁ冬人。私のためにパンを買ってきなさい!」


 とか面倒でわがままなお嬢様のお言葉をいただいたので俺は購買へと走っていった。


 っていうか


 なんで俺あんなやつのパシリになってんだよ!ボディーガードは傍から離れちゃダメだろ!俺はあいつの執事じゃねぇよ!


 「ったく、なんでこんなことに」


 俺は人が並ぶ前に猛ダッシュして購買にたどり着いた。まだ人はまばらだった。そこで俺はあいつの分と、俺の分を一つ買ってまた教室へと戻った。


 教室に入ると二条の周りには人が群がっていた。おい、俺の席の近くに寄るんじゃねぇ。


 俺が入ってくるのを見たクラスの連中はすぐに自分の席に戻っていった。


 二条も俺の様子に気づいたらしく


 「あ、おっそーい!2分で帰ってこいって言ったじゃん!」


 おまえは鬼畜か!ここは三階で階段を二回も昇らんといけないんだぞ!


 「はぁ、はぁ。申し訳ありませんでしたお嬢様。こちらがご所望のパンです」


 「うむ。よろしい。さて一緒にたべよ!」


 「言われなくても食べるっつーの。こっちは無駄に働かされてエネルギー消費してるからな」


 そう言って俺は自分の席に着いて弁当を広げた。俺は弁当が足りないときにパンも食べる。どうやら二条もそうらしく


 「ってお前めっちゃすげえ弁当食うな!」


 二条の机には豪華な弁当箱にきらびやかな食材が入れられていた。


 「まぁねー。うちの専属料理人に作らせてるからね」


 「そういえばお前っていわゆるお嬢様なのか?」


 「そういうこっと!お父さんが外資系企業の社長なの。お母さんがアメリカの女優」


 「ほーん。すげぇな」


 どうやらこいつはマジもんのお嬢様らしい。本当に敵に回したら家が危ない。もしこいつを裏切ろうものなら俺だけじゃなく夏美も危険にさらされかねない。それだけは避けねば!


 それはともかく。俺は聞きたかったことを聞いた。


 「なぁ、お前って俺のこと怖くないのか?」


 「んー?どして?」


 「たいていのやつは俺の目を見たら怖がって逃げてくんだよ。生まれつきだからどうしようもねぇんだけどな!」


 「へーそうなんだ。面白いとは思ったけど怖いとは思わないよ?」


 「・・・そうか。珍しいな」


 俺の目を見て怖がらないのは夏美と美冬だけだと思っていたが。案外他にもいるのかもな。


 けどバカにしてるのは許せねぇ!


 ***


 放課後。


 「さぁ冬人。私を家まで送り届けなさい!どうせ君の家も近いんだから」


 「はぁ。分かりましたよお嬢様」


 注目の的になるのは嫌なのだがこいつに良くしといて損になることはなかろう。


 仕方なく俺は了承した。


 俺たちはそろって教室を出て昇降口へと向かった。


 途中、周りの生徒から


 「うわぁめっちゃ美人!っていうかあの隣の怖い男誰?」


 「あれが噂の転校生だって!ん?でもなんか隣に男子がいるけど」


 「えー、あんなのが彼氏?まさかねぇ~」


 とか言いながら笑っていやがった。


 あ?誰がこいつの彼氏だって?わたくしはただのパシリ兼ボディーガードですが何か!


 と心中で思っていたが、分かっていたことなので特に気にしなかった。


 昇降口で靴を履き替え、外に出た。外はうっすらとオレンジ色を帯びていた。最近はだいぶ日も長くなってきたらしい。


 俺は二条とともに校門へと向かった。


 それよりも。


 「は、本当に誰も近寄らないんだな」


 思わず苦笑いが出た。


 「そだねー!けどちゃんと仕事してるじゃん。えらいぞー」


 そう言って二条は俺の頭を撫でてきた。


 はいはい、うれしいうれしい。


 天にも昇る心地でございますよお嬢様。


 俺が若干体をよじると、二条はけらけらと楽しそうに笑った。


 くそ、からかいやがって!だいたいお前の親父は本当にボディーガード雇えなんて言ったのかよ!


 俺たちが校門を抜けようと足を踏み出したそのときだった。


 「あ、冬人さん!って・・・え!」


 「あ、お兄ちゃん!って・・・昨日の金髪美人さん!」


 校門の近くには美冬と夏美が立っていた。俺は思わず立ち止まってしまった。


 「お、お前ら・・・」


 まずい、変な誤解をされかねない。何か言わねば・・・


 と思ったがそれよりも先に


 「はっじめましてー!私は冬人の彼女の二条小春でーす!よろしく☆」


 とかふざけたことを言いやがった!キラッと星が見えた気がした。


 ってそんなあざといウインクいらんわ!


 「お、おいお前何勝手に」


 俺は取り繕おうとしたが


 「そんな!冬人さん、私のこと嫌いになったんですか!」


 「は?お兄ちゃん、私を一生愛するって誓わなかったっけ?」


 とふたりともお怒りでした。一生愛するとは言ってないような・・・


 とにかく面倒でわがままなお嬢様転校生のおかげでまた面倒なことになりました。


 

 

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