第5話 真面目な作戦会議に見えるだろう?


「ヘンラック」


 チャガが重々しい声で呼びかけた。


「お前も“そっち”側で良いんだな?」


 その言葉に、ヘンラックは黙り込んでしまった。

 そも代わりと言って良いものかどうかわかないが、ウルツが吠える。


「もちろんです! ヘンラックさんは、それを見た瞬間にキフウさんと、コウハさんを両天秤に掛けて、動けなくなってしまったんですよ!」

「――もういい。もういいから」


 すぐにヘンラックがウルツの言葉を押しとどめようとするが、すでに集められた九人全員が、ヘンラックの病気を思い出してしまっていた。


「君はどうなんだ、ウルツ」


 ジルダンテが最終的な確認を行うと、


「僕はヘンラックさんとシュウガさんにはお世話になってます。僕はそのお二人のために知謀を振るおうと思い立ったわけです。何らやましいところはありません」


 ウルツは胸を張って言い放つが、もちろん誰もそんな宣言を信じない。

 学院の外で営業している施設の中では、ウルツが娼館に興味津々であることは、ヘンラックの病気ぐらいに全員が知っていたからだ。


「……待てよ、俺たちは十二人いるぞ」


 そこで今さらながらムカが気付いた。男子寮代表は九人と規定されている。最終的な勝利組は決定しているから、確かに集められたメンバーは三人多い。


「代表者は、チャガさん、オゴアさん、テルイ。それからムカさんに、キサトリさん、ヤフウ」


 ウルツの読んだ名前は、要はゴールディア組と、ヤオナ組だ。


「待て。実際に僕たちはこの二組には勝っていたんだぞ」


 残されたソーレイト組から声が上がったが、それも無理からぬことだろう。なにしろソーレイト組は策を用いて、実際にその二組を撃破している。

 順当に考えれば、まずソーレイト組が選ばれるべきだ。


「お三方には、参謀府を構成していただきたい」


 ウルツがそう言った一瞬、ソーレイト組の表情が輝いたことを全員が見逃さなかった。確かにこの三人組には魅力的な提案だろう。


 だが――問題点がある。


「それは反則じゃないのかな?」


 オゴアが皆が疑問に思うところを確認する。するとウルツがすまし顔で答える。


「規定されているのは男子側で戦場に出ることが出来るのは“九人”ということだけですね。後方支援については特に規定はないんです」

「それについてはハクオン先生に確認を取ってある」


 ウルツの言葉を戦略戦術科の主任教師の名前を出すことで補強するヘンラック。

 ハクオンが許可したと言うことであれば、間違いない。


「無論、参謀府の運営については僕も参加させて貰います。ジルダンテさん、キュータイクさん、ナブレッドさん。よろしくお願いします」


 そんなウルツの腰の低さに、ジルダンテ達も九人に選抜されなかったことについては納得したようだ。もちろん“参謀府”という言葉の響きに惹かれたことも大きいだろう。


「ゴールディアとヤオナの方が闘い慣れしてますしね。それに特色がはっきりしていた方が、作戦に幅が出来るとウルツが主張するので、今回はこういうことで」

「俺もその方が良いと思う。チャガさんとこと、ムカさんとこの方が、戦いの場では頼りになる気がするしな」


 さらなるヘンラックの補足にシュウガが口を挟んできた。


「それに、寮長達を除けばここにいる連中が男子寮の最強だろ。それが協力して闘うんだ。水着は水着でワクワクするけど、俺はこっちもワクワクするぞ!」


 満面の笑みと共に、そう宣言するシュウガに全員が圧倒された。

 確かに、こんな機会はめったにない。ならば日頃学んだ知略の限りを尽くして闘うのも――確かに一興だ。


「「それで……」」


 チャガとムカの声が被さった。そしてお互いに渋面を作って黙り込んでしまったので、オゴアが仕方なくあとを引き取った。


「それで、俺たちが最初にやることは? ウルツ――それとも参謀府に聞けばいいのかな?」


 ウルツは軽く頷いてソーレイト組に視線を向けた。


「どんな時でも戦いの最初にやることは決まっている」


 それを受けてジルダンテが堂々と答える。


「それは?」

「情報収集だ」


その当たり前の手順に、一同はむしろ気が引き締まるのを感じた。だがそんな空気に構わずに声を上げた者がいる。


 シュウガだ。


「もう一つあるぞ!」


 意気揚々とぶちまける、シュウガにナブレッドが興味を示した。現状で情報収集以上に重要な事柄は思いつかないからだ。


「伺おうじゃないか」

「決まってる。俺たちの名前を付けるんだ!」

「俺たちって……この男子代表組にですか?」


 ウルツが思わず聞き返すと、シュウガは意外な言葉を聞いたとでも言うように目を見開いて、


「お前、他にあると思うのか? 一緒に戦うならもちろん名前は必要だろ!」


 実に子供っぽい理屈だが、確かに名前を付けることで一体感が生まれることもある。それほど捨てた提案でもない。

 そう判断したヘンラックは先を促すことにした。


「それで、どんな名前が良いんだ?」

「俺たちの目的は何だ? それを忘れないようにすることが肝心だと思うんだ」


 もっともなことを主張し続けるシュウガの言葉に、いつしか全員が聞き入っていた。


「じゃあ、僕たちの名前は……」

「水着従者隊だ!」


 ガガガガガガガガガッッ!!!


 シュウガに向けた放たれた九つの茶碗が一斉に命中した。

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