主演は市川実日子さん?
カクヨム独自のローカルルールとでもいうのか、カテゴリー『ラブコメ』は全年齢から男性向け、『恋愛』は女性向けらしい。
確かに、恋愛という文字列には、ラブコメという単語にはない重みがある。
ロウリュウサウナ並みに湿度の高い物語が、激重感情アブラと文字数マシマシ一丁上がりでお出しされる雰囲気がある。……だからって女性向けってわけでもなかろうに。
男が読んでも面白いぞよ、と申し述べるべく、一本の作品を紹介する。
『先生は、かわいくない』 作・
https://kakuyomu.jp/works/1177354054889229313
〇作品概要
突然、離島の診療所に行けと言われ、女医の美湖は指導医だった先輩がいる瀬戸内の島へ。
人は『島流し』と噂する。島でもあることないこと噂が立っていた。でも美湖の離島生活は淡々と穏やかに馴染んでいく。
ただ『センセは、かわいくない』とかいう生意気な島男が来ることを除いては……。
いちいち世話やきに来る年下の男にかき乱される毎日、彼のかわいいお母さん、そして瀬戸内の情景。
都会ではクールに徹していた美湖を包みこんでくれる。
だが彼にも噂があった。『人殺し』という噂が……。
〇祖父江のレビュー
https://kakuyomu.jp/works/1177354054889229313/reviews/1177354054889445037
Title:蜜柑と消毒液の香り。タイトルに多少偽りある離島医師もの。
(島暮らしの人が読んだら怒られそうなことが散々書いてあるので省略)
いろいろ足りない。でも確かに心の何かを満たす場所にやってきた女性医師の物語です。
最近、作品の魅力を伝えるには、キャラクターにフォーカスするのが良いという私見を得たので、今回も、主人公の
一言で書くと、大変にめんどくさい人物です。
33歳、独身。学閥のあれこれで、大学病院から離島の診療所へ。特に複雑な事情など無い。医療ミスで飛ばされたとか、教授の愛人でしたとかといったドラマチックなこともない。
ただ、ひたすらめんどくさい。
直情径行な癖にクールぶっていて、嬉しい癖にお子様からの感謝も突っぱねて、気になる癖にワイルドだが知的な島の青年にいちいち突っかかる。
でも、人として丁度いいめんどくささです。
クールを装うのは周囲との人間関係にしこりを残したくない優しさからだし、感謝されたくないのは離島の医師という色眼鏡で見られるのを嫌う医療従事者として当たり前の誇りからだし、男に突っかかるのは、まぁ、モノローグで駄々漏れなので本編を読んで楽しめばいいんじゃないでしょうか(丸投げ)。
それだけ裏の取れるめんどくささを備えられると、もう小説のタイトルに偽りありです。
美湖ちゃんは可愛い。それだけは知っておいてほしいです。
12話まで読みました。医者としての奮闘と女性としての恋愛が並行して描かれて一つ話に区切りがついたところで急展開を迎えています。
続きが気になりますが、ひとまず、そこまで読んでみてはいかがでしょうか。
※完結追記
いわゆる“大人の物語”の難しさは、起伏がなだらかになるところだと思います。
十代や二十代前半と比べて、人生というものを一通り履修している人間は、そんなに怒ったり泣いたり笑ったり憎んだりしない。自然、成長とともに人生にドラマは見なくなり、成熟とともにロマンは薄まっていく。キャラクターに対して誠実であればあるほど、ストーリーは淡々と進行しがちです。
しかし、我らが美湖先生は、ベテランになってもワントップを張り続けるストライカーのような性格の主人公。大人の顔もできるけど、基本的には頑固、実直、融通が利かない。年下男子(とはいえこちらも二十代中盤なんだけど)との恋愛も、まぁよく燃えとります。ごちそうさまでした。
また、年配に面白可愛がられやすい一面というのも出てきて、非常に魅力的な『かわいくない先生』でした。
それだけに物語は結構な荒波にさらされますが、最後は凪のような穏やかなラストです。
〇作者について
今作のような、何もない代わりに何かがある地方で、アラサー女性が恋と仕事に奮闘する模様を描いた作品を多く書かれている。
ご本人も転勤族、というか、父親が自衛官であったそうで、そのときの体験や知識が小説によく表れている。
筆致は丁寧で、『い抜き言葉』や地に足のつかないファンタジーは使わず、きっちりと資料を読み込み取材したと分かる描写が素晴らしい。
いわゆる、属性やキャラに頼らず、ヒロインの可愛さを滲み出させることができる作者であった。こんな風に書いてみたいものである。
最初に書いたように、ジャンルは『恋愛』であって、一応、女性向けと銘打たれている。
しかし祖父江は、この作品を脳内で勝手に実写ドラマ化し、市川実日子さんを主演に据えて妄想することで読み切った。楽しい読書体験であった。
別にそんなことはしなくとも、連ドラのような雰囲気で読んでいただければ楽しめると思われる。
読了後はきっと、どこかへと帰りたい気持ちになっているはずだ。
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