闇と湿気漂うアクション百合小説

 ビト氏の『夢漏れの小径』を読んだ時と同じく、街にふわりと闇が包み始めた。


 ただ、今回の暗さは質が違う。


 なんだか、じっとりとしている。


 これは、百合だ。トラウマ持ち同士の共依存最高系の湿度90%越えの百合だ。


 うむ、阿呆らしいな。小説の内容はシリアスなので、あまり真に受けぬよう。


『宵闇のゲシュタルト』作・伊勢右京(敬称略)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054882154295


〇作品概要


結城楓は美しい容姿を持つが、自分の性別に悩む女子高校生。

幼馴染で同じ高校に通う佐藤春菜は、その悩みを話せる唯一の相手。


楓と春菜は昼の陽光が訪れない普遍的無意識の世界――ゲシュタルトに迷い込む。


そんな二人を愉しみ眺めるのは、自らゲシュタルトの管理人と名乗る、ピエロのような恰好をしたセルフという存在だった。


〇祖父江のレビュー


Title:無機質な夜の街に彷徨う少女たち。……ねぇ、この百合、湿度高くない?


 誰もいない、宵闇の街。空には謎の天体が三つ。化け物がウロウロとし、何故かマンションも建っていて、住める。


 迷い込んだ異世界の名はゲシュタルト。そこにいるのは少女と少女。二人きり。何も起きないはずがなく……。


 ↑というのをレビュータイトルにしようと思いましたが、あんまりにひどいのでやめました。自制心が働いた自分を褒めてあげたいです。


 ゲシュタルトには、さまざまな欲求不満を抱えた(意訳)人々が迷い込む場所とされています。アニマ、アニムス、ユング、フロイト、そういった世界観の場所だと思えばよかろうと思われます。


 そこで繰り広げられるのは、“夜獣”や“灰人”と呼ばれる怪物たちとの丁々発止なバトル&アクション―――は、添え物で、主題は、いろいろと入り組んで山よりも高くなった情と谷よりも深くなった業が織りなす愛の物語。分かりますか。愛だよ愛。アガペー的なあれじゃなくてちゃんと性欲もあるぞ。な奴です。


 そんな愛に生き、愛に殉ずるイカれたメンバーを紹介します。レビュー主の独断と偏見が多分に混じっていますが。


・楓―――

 強さと弱さと儚さを併せ持つ本作の狂言回し。美しい顔をした俺っ子、もとい、トランスジェンダーの少女。

 身体は女、心は男、立ち居振る舞いヒーローでメンタル豆腐な主人公でした。

 ゲシュタルトでは剣を振り回し、ヒロインの春菜を守るべく、見事なまでの騎士ムーブと童貞ムーブを繰り返し繰り出す猛者です。かわいい。などというときっと怒り出す面倒な性格。


・春菜―――

 琥珀こはく色の髪と瞳をもった、文学少女な楓の幼馴染。楓の欲求不満(意訳)に巻き込まれる形でゲシュタルトに迷い込んだと思われたが……?

 身体能力に秀でる代わりに精神的に情緒不安定な楓を持ち前の母性でサポートする立場。それを利用して、風呂場では彼女の遠慮なく揉みしだくエロガッパでもある。

 終盤にお出しされた彼女の深層は、さながら真夏の東京都心並みの湿度でありました。いいぞもっとやれ(灰人はいじん並みの感想)


・セルフ―――

 ゲシュタルトの案内人で、少年の風貌をした人外のナニカ。レビュー主は、そのときちょうど観ていたとあるアニメの影響で、彼のCVを緒方恵美さんで固定してしまった。非常に高い脳内再生力をもっていたので、仕方がない。敵でもない、味方でもない、心理を読み解く努力がほぼ無駄な存在。


・ジャック―――

 後半に登場する楓たちの協力者。名前はジャックだけど、女性。煙草を嗜みバイクを駆り、敵をちぎっては投げするハードボイルドな女傑の正体を知る時、恐らくすべての読者「おお」となるでしょう。


 冥闇よいやみに浸る耽美的な魅力を持った小説です。ぜひ、読んでみてください。



〇琴線に触れた部分について


 静謐せいひつで冷然とした禍々しさを感じるゲシュタルトの無機質な恐怖と、何度も書くように湿度が高くて大変よろしい百合描写が溶け合った作品。


 いわゆるひとつのLGBT的な観点から行くと、Lに見えつつTの要素もあり、その手の原理主義勢力からはNGを出されるかもしれないが、祖父江は性癖の門がいつでもどこでも全開で開けっ放しなので気にならなかった。むしろもっとやれ。


 一見すると主人公で狂言回し、強さと儚さを併せ持つ楓がヒロイン春菜に対して重めの感情を抱いているように見えつつ、精神的に落ち着いていて不安定な楓に大きな包容力と母性を見せる春菜の方が実は巨大なエモーションを抱いているというのが、これまた大変よろしかった。


 少しネタバレになってしまうが、最終盤では、この春菜が深層の闇を開け放ってとんでもない暗黒進化を果たしてしまうので、是非期待して読んで欲しい。


 夕闇でも黄昏でもない、宵闇の意味も「なるほど」と思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る