昨日と同じ作者のところにまだいる。

 宵闇が明けると、そこには淡色の日常があった。


 平穏だが、それぞれに等身大の痛みと悩みを抱えた者たちの物語だ。


 というわけで。


 昨日に引き続き、伊勢右京氏ののきにいる。


 これからも、各作者ごとに二、三泊することがあるかもしれない。


 一度紹介したら終わりではない。


 祖父江はこのあたり、粘着質なのである。


『エリートヲタク!』作・伊勢右京(敬称略)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054890332708


〇作品概要


1.隠れヲタク達

2.同人誌即売会の巨人

3.コスプレ格ゲートッププレイヤー

4.声優志望音ゲーマー

5.レズビアン神絵師?

6.持つ者と持たざる者


 オムニバス形式で進み、各回で様々な分野のヲタク達が登場する物語です。


【キャラクター】


●東野創一郎

主人公。ヲタク趣味を持つエンジニア。


●蒼井希望

創一郎の隣の部屋に住む女子大生。ヲタク趣味を持つ。


●平和島愛徒

様々な同人誌即売会の運営に関わっている巨漢。周囲に頼られるワーカーホリック。


●灰谷夏織

コスプレをしながら格闘ゲーム配信を行う女の子。口が悪いが、コスプレのレベルが高くゲームの実力も全国レベル。


●林原天音

音ゲーが得意な声優志望の女の子。創一郎の妹の幼馴染。音ゲーをストイックにやり込むことで声優業に活かそうとしている。


●相馬絵美

妖艶な雰囲気を持つ絵描きの女性。創一郎と希望とはモンバス仲間になるが……



〇祖父江のレビュー


Title:ヲタクのお宅の隣にヲタク。ヲタクのアイデンティティを巡る連作。


 大きな事件も、ひっくり返るようなドラマもない。穏やかな筆致で描かれる、この世界のどこかで息をしていそうな、ちょっと変なとこもあるエリートヲタクたちの物語です。


 ここでイカれたメンバーを紹介するぜ(個人の感想と偏見です)。


・東野創一郎―――

 25歳のサラリーマン。引いてよし守ってよし(攻撃性能は無い)のオールラウンド草食系男子。お隣の女子大生、有名コスプレ格ゲーマー、音ゲーマー声優、お向かいの変態と、多くの女性と知り合う自称毒男。('A`)テメコラチョットソコセイザシロヤ

 あと、理系のサガなのかちょくちょくモノローグが辛辣。オタサーの姫への罵倒は個人的な語り草。


・蒼井希望―――

 希望と書いてのぞみと読む、圧倒的陽で生きる者のオーラを感じながら日陰者のヲタク道を歩むメンタルタフガイ。25で早くも枯れ気味な東野くんとはいえ、男を一人暮らしの家に上げても動じないノーガードスタイルを貫く。あと、けっこう突然興奮し出す。


・平和島愛徒―――

 コミケを始めとするイベントの運営ボランティア多数こなすプロのヲタク。そして筋肉。筋肉の有用性を証明すべくヲタクになったのかと思いきや、ヲタクでいるために筋肉にその身を捧げたエリート筋肉。あれ?


・灰谷夏織―――

 女子格ゲーマーでコスプレイヤーで生主と、変な男ホイホイ三拍子を有して日夜戦う休学中のエリートニート。東野くんの師匠。


・林原天音―――

 声優として活動するボクっ子音ゲーマー。すべてを芸の肥やしにしようとする意識の高さで、「ボーっと生きてんじゃねぇよ!」と引っぱたかれた気分になった。東野くんにはっきりフラグを立てている。('A`)……。


・相馬絵美―――

 変態。この人と絡んで、希望のボキャブラリーが爆発した。


※完結追記


 最後まで、大きな事件は起こらない。代わりに、東野くんと希望の『これまでの人生』が細かく嫌らしく立ちはだかりました。そして、『これからの人生』が輝きだす予感を持たせて、完結しました。


 現実を埋めるのはいつだって夢中な空想です。その権化たるヲタク趣味が彼らを繋いだ。ロマンチックな話じゃあないですか。



〇作者について


 祖父江が読んだ順序は、本作→『宵闇のゲシュタルト』であるが、書かれた順番は逆だったのでこの紹介順とさせてもらった。


『宵闇~』が耽美で名状しがたくじっとり重い百合小説だったのに対して、こちらの雰囲気はいわゆるライトノベルというより、キャラ文芸の“お仕事モノ”に近いかもしれない。


 基本的には主人公東野の一人称で進んでいき、それぞれ尖った趣味や性格を持ちつつも、社会人としてそれなりにまっとうに生きているキャラクターたちが次々と登場する。


 祖父江のお気に入りは四つ目のエピソード。


 いわゆる『オタサーの姫』というやつが悪役として登場し、ストーリーをひっかきまわすのだが、それに対しての主人公の評価が辛辣だ。


 引用する。


『そこでは、例の姫がツインテールにした髪とフリルの服を揺らしながら、男達を前にアニメの萌えキャラのような挙動で踊っていた。

 その様が露骨で、男の俺でも気持ち悪いと思ってしまう。しかし周囲の取り巻きの男達はそんな姫へ称賛を送っている。

 ヲタサーに溶け込むためか姫に媚びを売るためか、嘘でやっている人もいるだろう。もし本気でやっているなら救いようがないくらい腐っている。 』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054890332708/episodes/1177354054891914288 より



 このモノローグに思わず笑ってしまった。オタクであることへの矜持というか、誇りを持っていない者には厳しい主人公なのである。


 そんな彼の精神的な捻じれが露出する終盤が、この作品のハイライトだ。


 こうして小説を書いている身としても、それなりのプライドというのは持っていたいものであるよな、と思った次第だ。


 それほど長い作品ではないので、軽い読書と思って読まれるといいと思う。

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