生贄がいらないならお菓子を食べればいいじゃない。
※作品が非公開になっていましたが、こんな作品があったという記録として残しておきます。
行く春を惜しむ新緑の候。
祖父江は魔法と呪い渦巻く異世界ハイファンタジーの森に分け入っていく。
これは人外化生のモノとヒトが織りなす交流録。
柔く言い換えれば人外モノのラブコメだ。
これからも何度か訪れることになるだろう。
『森の魔女、砂の少年を飼う』 作・
https://kakuyomu.jp/works/1177354054891298766
〇作品概要
深淵の森の魔女キイナは、贄の少年トゥエを拾った。そんなものを差し出されても、人を食べる趣味は無いし、仕方がないから
「とりあえずあたしが飼う」
と宣言する。
傷だらけのトゥエに森の加護を与えようとするが、トゥエの体にはすでに砂の加護が刻まれていた。
大陸の支配国イスタが、砂嵐と対抗するため森の神の力を得ようと動き出す。そんな中、キイナはトゥエを連れてイスタに出向き、そこでふたりの騎士に出会うが――
〇祖父江のレビュー
Title:生贄は食べずに飼う。ケーキは食べて太る。暖かな異種交流譚。
古来より、災禍災害の折には「ここはいっちょ神様宛てに生贄いっとく?」が人類の歴史であって、でも、相手の好みもあるわけで、人間さんサイドがいくら『本日のおすすめ』と思っても、勝手に飯だけ出して金を払わせようとするぼったくり食堂にしかならんわけです。
ということで「人間とか食わんし生贄とかひくわー」な魔女が、お出しされた少年を飼うハイ・ファンタジー小説です。
人外との暖かな交流譚と、人の世のどうしようもなさと、こうした物語のツボを押さえた展開が続いて、非常に楽しめます。
以下、独断と偏見の人物紹介
〇トゥエ―――
国が砂漠化してやべーことになっているので、森の魔女へお食事用に送られた奴隷少年。
当初はキイナ曰く「リスの方が話しやすい」というくらいで、事実、ことあるごとに「いぢめる? いぢめる?」と小首を傾げるシマリスくんムーブを続けていたが、次第に魔女を甘味で餌付けし、ダイエットにも協力するなど逞しく成長した。
薄幸の美少年といったたたずまいで、その過去も底抜けに重い。
〇キイナ―――
森を愛し、森に愛され、四ツ目のパパと蔦たちに守られすくすくと育った少女の姿をした魔女。このたび手足に枷付きの、可食部分が乏しい少年をお出しされて困った挙句、飼うことに決めた。
基本的に食べなくてもいいみたいだが、町の飯テロ、甘味の暴力、糖質の
なお、なかなかな神たらしだということが後に判明するし、その過去は底なしに重い。
人間さんサイドにもさまざま濃いキャラが登場します。
「オレ、ニンゲン、キライ」となってしまうそうな奴も出るし「我、人類を
〇人外モノの伝統?
人と人ならざる者との交流譚は、どこに遡るのだろうか。
祖父江が読んだ古典で言えば『フランケンシュタイン』か。怪物と人間。あれもなかなかメンタルにくるすれ違いの交流が描かれていた。魅力的な悲劇だ。
この世界でも、御多分に漏れずというか、森の魔女、また神が
神に捧げられるのは無垢な少女と相場が決まっているが、この場合は魔女への供物なので美少年が良かろうと思ったか。美しさの尺度も違うだろうに。妙なところで人類の間尺に合わせようとするのが何とも愚かしいやりざまである。
かくして、「人間食う? 無理無理、ひくわー」と愚かな人間共よりずっと常識的な価値観をお持ちになっていた魔女と少年の、おっかなびっくり森の奥での共同生活がはじまる。
なにしろ、人間さんサイドでは抗えぬ力を持った化け物という認識である。魔女がどれほど心を砕こうと、まさしく虐待され捨てられた子犬であるところの心は一向に開かない。
このもどかしさこそが、人外モノの伝統であろうか。
二人の関係はどうなっていくのか。
先述した『フランケンシュタイン』をひくまでもなく悲劇に向かうことはたやすい。どれほど心優しくとも、生きる世界が違うのだから仕方ない。そういったところで、自然と湧き出る緊張と緩和。すべての創作に通じる要素が詰まっている。
また、理解できぬのはヒト同士でも変わらない。
物語終盤、トゥエが、とある人物に向けてこう問いかける。
『……貴方は……なぜそこまで飢えているのですか』と。
ある意味では、人の命を誰よりも喰らってきた者を評しての台詞だ。
本当の化け物とは、心の在り様を指すのかもしれない。
水凪氏はこういったご本人曰く女性向けの恋愛ものや、エッセイなども書かれている。どれもまとまっていて読みやすい。これからもフォローしていきたい作家のひとりである。
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