(自薦)祖父江はこれで三回泣いたらしい。

 書き終えてから気付くことは多くある。


 気の赴くまま、好きなように作ったものを読み返して「そういうことか」と思う。そういう瞬間のために書いているのではないかとすら思う。


 小説とは、ごく近い未来の自分へ向けた手紙なのかもしれない。


 ……内容はどうあれ。


『おマツリ少女とSCP!アフター!!』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884295565


〇作品概要

 2027年、我々とは少し違う歴史を辿った日本。


 電脳世界“情報海オーシャン”で巻き起こった『SCP事件』は、茉莉香まつりか鷹丸たかまるたち上瀬総合高校SCP部によって終結した。


 しかし、その誰もが知る物語のきっかけとなった出来事の、片隅の端っこの外側に、一人の少年がいたことは、誰も知らなかった。

 

 神崎雅人。


 主人公にも脇役にもなれなかった小さな男が、自分と世界を救う話。


 いってみれば、これは“本編”終了後の、ちょっとしたアンコールであり、益体もないアフターストーリーである。


 語られない物語を生きるすべての人に捧げる。


〇なんか好きなのだな


『おマツリ少女のSCP!』なる、学園SFホラーラブコメみたいな非実在ライトノベルの物語が終わったあと、という設定の物語だ。


 そこは電脳潜行と呼ばれる全没入型VR技術が席巻する近未来で、主人公の神崎かみさき雅人まさとは、世にも珍しい“潜行障害者”として、電脳異世界情報海オーシャンに行きたくても行けず、“前作”に登場することさえ叶わなかった。


 世界とか時代とかに弾き出されたはぐれ者。悪意無く社会の中心から疎外されてしまった。事情のせいで遊びの輪を遠巻きに眺めるばかりで、「混ぜて」と言えなかった少年だ。


 作中で『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』を引用させて貰った。


『組み込まれた欠陥のために、ある体験から疎外されながら、なおかつひたすらそれを手に入れようともがいている』


 そういう人間の物語が、どうやら好きらしい。


 雅人は、幕の降りた舞台の上に立った不器用な男だ。


 常に誰かのために一生懸命なのだが、どうにも格好がつかない。


 第一章の終わりに、ヒロインを海外に旅立つ彼氏のもとへバイクで送り届けたはいいが、帰り道にガス欠になってトボトボ歩かなければならなくなるシーン。


 読み返して何とも言えぬ味わいがあった。


 あと、これは悲恋の物語だ。


 雅人は彼氏持ちのヒロインに惚れてしまう。


 これも、書いているときには気付かなかったが、読み返してみて、ポルノグラフィティの“ライン”という歌を思い起こさせた。


≪どうせ叶わない恋なら≫で始まり、≪好きになりたくなかった≫で終わるどうしようもない歌詞の曲である。


 こういうのも、祖父江の性癖に刺さる。叶わぬ恋に懊悩おうのうする少年というのが―――うむ、これ以上は人格を疑われる、やめておこう(手遅れ)。


 気付いてしまったので、加筆修正にかこつけて歌の要素を散りばめた。満足いく出来栄えになった。


 別に、孤独な少年を痛めつけて愉悦に浸るような話ではない。


 むしろ、どうしようもない理由で世界から迫害され、孤独を背負わされた少年が、救われる話になってくれた。


 書いている間は、まだまだ完結させるのに手いっぱいだったので、話があちこちに転がり、どう終わるのか分からなかったが、その“救い”のシーンでは泣いた。


 自分で書いておいて、自分で読み直すたびに泣いた。


 三回泣いた。なんという自給自足だ。


 正直、この小説を書いた意味は、それだけで十分だとさえ思う。


 だが、こんな散らかった小説をなんと最後まで読んでくださった方がいる。


 僥倖ぎょうこう。神かあなたはと思ったものだ。


 前言を少し訂正しよう。


 小説とは、自分への手紙であると同時に、宛名のない瓶詰の便りだ。


 だから、できる限り読みやすいように書き直した。


 情報海、ではないが、分厚い手紙入りのボトルは、今も波間に漂っている。


 あなたの浜辺に流れ着いたら、どうか読んでいただけると嬉しい。

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