小説であり、実録でもある。
小説? エッセイ? 前衛文学だろうか。どれともいえぬ作品の真っ暗な深淵を覗き込んだ翌日。
せっかくだからと、もうしばらくこの薄暗い地域を旅することに決めた。
自殺。
病気。
虐待。
死別。
辛苦。
苦痛。
いじめ。
ここはカクヨムの断崖。
ひょっとしたら谷底かもしれない。
身につまされる過去を描く小説に、淡い光をかざそうと思う。
『並行世界-パラレルワールド-』作・アル(敬称略)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054895166143
〇作品概要
【これは私の記録であり物語である】
とある中学に通う2年生のレンの秘密。
心の叫びであり、小さなSOSであるそれにあなたはどんな考えを持ちますか?
〇祖父江のレビュー
Title:あとがきまでが小説です。
淡々と、絶望している。
そんな重低音が、読了まで一時間とかからない五編の中に流れ続けています。
学校という“場”を巡る、平穏無事な日常の絶望の物語です。
「あんなとこ、通いの刑務所だろ」と言ったのは誰だったか、詠み人しらずのネットの言葉かもしれません。懲役は“最低”でも9年。教室は共同房、授業は労役といったところでしょうか。
「勉強をする以外の、余計なことが多すぎる」とはいじめ研究者の内藤朝雄さんだったでしょうか。空間が、非社会的な場に変容してく様も、これまた淡々と描写されていました。
さて、タイトルの意味を知るのはあとがきです。
感情的な部分の少ない、ドキュメンタリーな筆致の真相も分かります。
最後の最後まで、読んでみてください。
〇小説であり、ドキュメンタリー
作者のアル氏ご自身が概要に書かれている通り、これはどうやらご本人の実体験をもとに書かれた小説であるようだ。
それらしい描写がある。引用しよう。
※※
https://kakuyomu.jp/works/1177354054895166143/episodes/1177354054895166639 より
「レン進んでる?」
顔をあげると人懐っこい笑みを浮かべた女子が立っていた。
「まあまあだよ。アヤは?」
「地理忘れて勧められない状況」
そう言うとハハっと笑った。
「地理持ってるけど貸す?」
「え、いいの?」
※文章・改行ともに原文ママ
※※
良い感じに主語や目的語が無く、リアルな会話だ。
リアリティとはまた違う。
何気なく回したカメラに映った日常の一コマ、撮って出しなドキュメンタリーの雰囲気がある。
実話が元とはいえ、あくまでもフィクションである。しかし、だからこそなのかもしれないが「ああ、この部分はきっと本当にあったことを描写しているのだろうな」と思える部分が出てくる。
ドラマを見ていたら、急に演者の芝居がぎこちなくなり、発話が生っぽくなり、間が不必要に長かったり逆になかったりし始める。たとえるなら、そのような瞬間が訪れるのである。
そのドラマ部分も、まったくといっていいほど劇的な要素がない。
レビューにも書いたが、淡々とした絶望が描かれている。
この小説において、この無感動な筆は正解だと思う。
アル氏は、祖父江の自主企画『自殺をテーマにした作品』に自作をエントリーしてくださった縁だ。
前回の、深淵のエッセイをお書きになっているUnknown氏もそうだ。
「なんだ、お前が自らカクヨムぜつぼーちほーを招き寄せてるんじゃあないか」
と言われれば、そうだ、としかお答えしようがないが、思った以上に“濃い”ブツが集まったものだと思っている。
企画自体は終わったが、集まった作品はきっちり補足している。
これからも、折に触れて紹介していきたいと思っている。
では、そろそろこの谷の断崖から離れるとしようか。
アル氏は現在オリオン座に自分を重ねる主人公の小説を書かれている。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054895397313
どのような結末を迎えるのか楽しみに待っている。
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