同じ発想でも、いろいろあるのだ。

※現在非公開となっていますが後に公開されるかもしれないとのことです(2021.9/14)


 目の覚めるような楽音と砲撃が響き、その方角へ足を向けた。


 そこは音楽が戦いに使われるファンタジー小説であった。


『音楽で人が殺せる世界の従軍記』作・清水 涙(敬称略)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054892030364


〇作品概要

この世界の音楽は「人殺しの戦争兵器」と「人々を楽しませる娯楽」という二つの面を持つ。

そんな世界で音楽に故国と母と親友とを奪われ、それでも少女は音楽を愛せるのか──。


音楽を奏でる事によって魔術を簡単に使えるようになった世界。音楽魔法と呼ばれるその技術は、当たり前のように戦争に使用され、戦争の武器を一変させた。何よりも愛する音楽によって人を殺し、殺されなければならない。そんな戦いに身を投じていく少女達。


〇祖父江のレビュー


Title:出てくる楽器はクラシカル。話の中身はハードロック。


 音楽武器。魅力的な響きです。誰もが書いてみたいと思う題材ゆえに、被るわけです。そこをこの作品は、楽器は兵器だ、ということが強調し、重低音がズシッと来るハードロックな物語にすることで、差別化をはかっています。


 概要にある通り、少年漫画用のストーリーだったということですが、確かにこれだとちょっと厳しいものがあるかなと思いました。少年漫画らしい「(内容はどうあれ)海賊王になる!」とか「(中身はどうあれ)火影になるんだってばよ!」とか、いうなればお気楽さがない。終始一貫して、「悲しいけどこれ戦争なのよね」と、我らの心の中のスレッガーさんが語り掛けてきます。


 しかしだからなんだというのだ。俺たちにはカクヨムがあるじゃないか。創作の火を絶やさなかった作者に敬意を表します。


 主要な登場人物はエーカとルチア。ちょっと独断と偏見で紹介してみましょう。


〇エーカ―――

 本作品のヒロインで主人公。十歳くらい。どっかの城郭都市に暮らす少女で、鍋の具材は豆腐が好き(※追記 レビュー主の読み違いで、豆腐が好きだったのはルチアの方だったと判明しましたので、訂正を入れておきます)。

 混血の被差別民だが、まさに絹ごし豆腐の如き清い心を持ち、同級生たちからの嫌がらせやいじめにも笑顔で耐え抜く高野豆腐メンタルだった。

 が、「お前も煮詰めてグズグズの焼き豆腐にしてやろうかー」とやってきた(※言ってません)帝国の侵攻からは、現実の厳しいハードタックルを受け、生存欲求をノックオンしかけた。親友ルチアのリカバリーでなんとかなるも、今もって涙の枯れ果てたおから状態である。エーカの戦いはこれからだ!


〇ルチア―――

 ヒロインで狂言回し。序盤の有能解説役。笑わない女。エーカのときみたく紹介にネタを混ぜられない最後までシリアスたっぷり系少女。エーカと同世代だが、味の染みた白菜のようにこの世の裏も表も知り尽くしているっぽい。エーカには百のデレを、世界には百のツンを突き付ける巨大感情の鑑のような子で、レビュー主はお気に入りである。



〇作品との出会いについて


 実は祖父江も、同じようなネタで一本小説を書いたことがあるのだ。


 この作品のように、血風吹き荒れるハードな内容ではない。まさに作者の人間がよく出たお気楽極楽太平楽なバトル物で、「音楽で人が殺せる~」などというシリアスな省察せいさつはまったくなかった。


 で、あるので、「なるほどこういう書き方もあるのだな」と、いちいち感心しながら読んでいた記憶がある。


 『音楽で~』の方は、次第にハイファンタジーから、架空戦記の様相を帯びてくる。少々ネタバレになってしまうが、最初に戦う敵は大日本帝国であり、日本人の母親と現地の父を持っていたエーカは、その後、帝国陸軍に入隊するのである。


 日本軍編になってから、筆が乗ってきたと見え、抒情的なエピソードも描かれる。そして、そこは避けては通れぬだろう大戦における植民地とその反逆も描かれ、一つの決着を見せる。


 清水氏のもう一つの作品『インペリアル・ガード』でも、皇居を占拠したテロリストに皇族の少女と護衛官が立ち向かう、これもまた架空戦記的なファンタジーである。作風であり、武器なのだろう。今後とも、研ぎ澄ませて行って欲しいと思う。


 祖父江のゆるふわ音楽バトル物は、こことは違う別のサイトで完結させたが、うむ、カクヨムでリメイクしてみるのもいいか。


 人の作品が、こうした気つけになることも、よくある。

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