蜜柑と消毒液の香り。タイトルに多少偽りある離島医師もの。 ※追記

※小説は絶対評価したいので、星の数は適当です。
※12話まで読んだ感想です。
※追記 最後まで読んだ感想です。

島育ちの友人がいます。

曰く。

人より牛の方が多い。
平日お昼の生放送が休日の夕方に流れる。
そもそも地上波がNHKと三局くらいしかない。
いい大人が島中で暴れ回る謎の奇祭がある。
二度と帰るか。

散々な言いようですが、どことなく愛情を感じないでもないです。

いろいろ足りない。でも確かに心の何かを満たす場所にやってきた女性医師の物語です。

最近、作品の魅力を伝えるには、キャラクターにフォーカスするのが良いという私見を得たので、今回も、主人公の相良美湖先生に注目してみます。

一言で書くと、大変にめんどくさい人物です。

33歳、独身。学閥のあれこれで、大学病院から離島の診療所へ。特に複雑な事情など無い。医療ミスで飛ばされたとか、教授の愛人でしたとかといったドラマチックなこともない。

ただ、ひたすらめんどくさい。

直情径行な癖にクールぶっていて、嬉しい癖にお子様からの感謝も突っぱねて、気になる癖にワイルドだが知的な島の青年にいちいち突っかかる。

でも、人として丁度いいめんどくささです。

クールを装うのは周囲との人間関係にしこりを残したくない優しさからだし、感謝されたくないのは離島の医師という色眼鏡で見られるのを嫌う医療従事者として当たり前の誇りからだし、男に突っかかるのは、まぁ、モノローグで駄々漏れなので本編を読んで楽しめばいいんじゃないでしょうか(丸投げ)。

それだけ裏の取れるめんどくささを備えられると、もう小説のタイトルに偽りありです。

美湖ちゃんは可愛い。それだけは知っておいてほしいです。

12話まで読みました。医者としての奮闘と女性としての恋愛が並行して描かれて一つ話に区切りがついたところで急展開を迎えています。

続きが気になりますが、ひとまず、そこまで読んでみてはいかがでしょうか。

勝手な脳内ドラマで、美湖先生を33歳の市川実日子さんとして実写化しています。そんな楽しみ方もできます。

※追記

いわゆる“大人の物語”の難しさは、起伏がなだらかになるところだと思います。

十代や二十代前半と比べて、人生というものを一通り履修している人間は、そんなに怒ったり泣いたり笑ったり憎んだりしない。自然、成長とともに人生にドラマは見なくなり、成熟とともにロマンは薄まっていく。キャラクターに対して誠実であればあるほど、ストーリーは淡々と進行しがちです。

しかし、我らが美湖先生は、ベテランになってもワントップを張り続けるストライカーのような性格の主人公。大人の顔もできるけど、基本的には頑固、実直、融通が利かない。年下男子(とはいえこちらも二十代中盤なんだけど)との恋愛も、まぁよく燃えとります。ごちそうさまでした。

また、年配に面白可愛がられやすい一面というのも出てきて、非常に魅力的な『かわいくない先生』でした。

それだけに物語は結構な荒波にさらされますが、最後は凪のような穏やかなラストです。