こいつぁゴキゲンだぜ! な小説を読みたいときに

 祖父江は麻雀をやらない。というか、相手が必要なゲームのルールは、ほとんど知らない。ほら、何かを察した顔をなされるな。


 なので、この麻雀の役からとったペンネームの読み方も、長らく不明であった。


『疾走する玉座』作・十三不塔しーさんぷたー(敬称略)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888545258


〇作品概要


王の象徴たる玉座が王宮から逃げ出した!

それを追う4組の追跡者たち。


革命児ウェス。

北の女領主レイゼル。

将校ベイリー。

奴隷出身の商売人ガラッド


群雄割拠の乱世。王国を手中に収めるのは誰だ???


機械と幻想の織りなす捕り物劇がはじまる。



〇祖父江のレビュー


『黎明の世界で勃発する、チキチキ玉座争奪レース。』


 蒸気機関の発達に伴う産業革命は、科学が魔法や神をその玉座から引きずり下ろしたといっても過言ではあるかもしれませんが、そんな解釈をしちゃってもいいのではないかなと思うのでそういう認識で進めます。


 蒸気機関車や光走船なるちょっとオーバーテクノロジーっぽい代物や犬橇いぬぞりが、足を生やして逃げ出した玉座を追いかける。それをとっ捕まえた奴が次の王様だ。


 そんな頭がおかしい設定を彩る登場人物も、全員適度にイカレポンチで大変によろしいです。


 サラリと紹介します(レビュー主の主観による勝手な予断が紛れ込んでいますので、絶対に本編を読んでご確認ください)。


ウェス・ターナー―――

 主人公っぽい少年。王の権力に頼らず世界を変革できそうな発明家で切れ者。可愛い犬が殺されると怒るけど、知らん奴が殺されても何とも思わない。色んな意味で素直で爽やかなイカレ野郎。


※完結追記 最初っから最後まで変わらぬイカレ野郎として物語の潤滑剤と清涼剤の役割を果たした偉大な天才と書いてアホ。


スタン・キュラム―――

 ウェスの相棒。このウェスタンコンビが狂言回しというか、結構切実に玉座を追っているシリアス組の物語を和らげる清涼剤になっている。多分全キャラクターで一番まとも。こっちが表の主人公かもしれない。呑気な苦労人。ちょいちょい好悪問わずフラグを立てている。


※完結追記 なんか人間の枠外を飛び出すニュータイプとして覚醒しつつあったが、とりあえず人として生きられているようでホッとしている。運命の内側で、ギャグ時空もリードした敢闘賞。


(中略)


 その他、色んな人間の思惑と謀略と偶然が絡みつき、一流の西部劇のような丁々発止が繰り広げられるのですが、一つ面白いところとして、二章で、突然竜が登場し、スタン・レイゼル・ベイリーの三人が『次期王様候補』としてはた迷惑な竜紋を授けられます。


「僕にはないの?」と訊いたウェスに、ラトナーカルと名乗る竜はこう言います。


『これより先、地上は変貌する。蒸気と騒音、電熱と鋼鉄が竜に代わって統べるだろう。ウェス・ターナーおまえのごとき者が竜を屠るのだ。』


 この物語が、発達する蒸気機関によって神(的存在)を必要としなくなった世界の担い手を決めるものであることが分かるシーンだと思いました。


 運命に囚われた三人の王候補と、運命に囚われない自由を象徴するウェスとガラッド。そんな軸で読んでいくのも面白いかもしれません。



 ……以下、超長くなったので、すべて読みたいという奇特な方は、こちらのリンク先まで https://kakuyomu.jp/works/1177354054888545258/reviews/1177354054889979343


〇小説との出会い


 さて、訪れたきっかけはなんだったであろうか。


 多分、普通に新着小説に載っていて「なんだこれは」と思ったのが始まりであったと思う。


 こういう出会いは、作品を検索するアンテナの低い祖父江にしては珍しい。


 この辺(2019年6月当時)で、レビューの書き方も定まってきたようである。


 キャラに焦点を当てて、自分の琴線に当たった部分について割と好き勝手に書き連ねるという。


 今作は魅力的なキャラの多さから、筆もノリノリであると伺える。


〇作者について


『疾走する玉座』でいえば、西部劇、スチームパンク、ファンタジー、SF、神話にコズミックホラー。


 広範な知識量に支えられた、ジャンルを軽やかに横断する奔放さと、読み応えある物語を紡ぎ出す作者である。


 次々と味の変わるデカ盛りを食すように読みふけった。


 また、キャラは誰もが大層イカれつつも一本芯を通しており、熱い。


『疾走する玉座』でも、冷静で冷徹そうに出てきたキャラ(♂)が、別のキャラ(♂)への屈折した想いから、どんどんと暴走気味になっていく。果てはSAN値も直葬しかかったが、男男のデカ盛り感情で耐え抜いてみせた。業が深いったらありゃしない。愛だよ、愛。


 こうした、抑えつけても吹き出す熱気こそが、十三不塔氏の作風であり本領なのだと思う。


 現在は、江戸時代にウィザードリィ風のダンジョンが出現した、滅茶苦茶な世界を、これまたたいへん面白く描いた作品を更新されている。是非。https://kakuyomu.jp/works/1177354054889341254


 


 

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