(特別紀行)十三不塔/ヴィンダウス・エンジン
今回は特別に、以前カクヨムで拝読し、このたび晴れて書籍化した作品について語る。
公募に出されるという話を受け、応援コメントの最後に「次は書店でお会いしましょう」と書いたことが思い出される。
そして実際に書店で買い求めた。
なかなかにエモい話であろう? だから特別篇である。
『ヴィンダウス・エンジン』作・十三不塔
作者の十三不塔氏は、以前『疾走する玉座』に登場して以来、二度目のご登場である。https://kakuyomu.jp/works/1177354054895003986/episodes/1177354054895169290
そのときは『シーサンプター』と紹介したが、デビュー後はそのまま『じゅうさんふとう』と読むらしい。「もっとマシなペンネームは無かったのか」と言われたとか言われなかったとか。目を引くという意味では、そんなに悪くないと思うのだが。
物語は、静止しているものだけが見えなくなる奇病『ヴィンダウス症候群』に罹った韓国人の青年キム・テフンが、大いなる陰謀に巻き込まれていく壮大なものだ。
静止物を見る機能である
だが、漫画脳で無学な祖父江は、スタンド攻撃に立ち向かうジョジョのようだと思った。第何部かは各自ご想像にお任せする。
「これは……ッ! こちらの視力が衰えているんじゃあない! 《《『静止している物』だけが『視えなく』なっているんだッ!!」
ありそう。これを謎の凄みと一抹の理屈で突破したら、どこぞで読んだスタンドバトルである。
妄想はさておき、突飛な症状に対し、テフンも、なかなかにアクロバチックな方法で、ヴィンダウス症候群を『
すなわち、自分の脳を作り変えてしまうのである。
ふむ、何がどうなったのかはよく分からんが、とにかくすごい。納得せざるを得ない『凄味』があると思った。
ところで、この寛解に至るまでが、物語全体の、まだ1/5程度だ。
作者には、固視微動を失った男の不便で危なっかしい日常を悠長に書くつもりはない様子。
なにしろここから、舞台は韓国から中国の成都へ、そしてさらに、予想も想像もつかない仮想現実の深淵にカッ飛んでいくのであるからして。
近未来の中国が作り上げた『先進技術実証特区』であり、八つのAIが支配する≪壮麗にして空虚なだまし絵≫成都にて、妙な仕事を請け負ったり。
その路地裏で、怪しげな連中とマトリックスもかくやなカンフーアクションを演じたり。
設計思想からしてイカレポンチな亜音速戦闘機でドッグファイトを繰り広げたりせねばならないのだ。
この、ポン・ジュノ監督の映画を観ているような軽やかなジャンル横断劇は、爽快であると同時に読者を選ぶ部分であるかもしれない。
巻末の選評を読むと、最も高い評価をしたと見える東浩紀さんは、目まぐるしく展開していくエンタメ魂を買い、逆に辛い評価をした選評者の方は、SF的な省察や論理が弱く感じているようだ。
確かに、SFであると同時に、どことなくスピリチュアルな雰囲気がする。
ヴィダウス症候群の寛解描写も、瞑想を極めた修験者のようだし、テクノロジーの粋を集めた成都を支配するAIの名は“八仙”だし、寛解になにやらの薬物が役立ったというのも、サイケ体験に傾倒するジャンキーの告白のようでもある。
他方、知人の双極性障害の方が、処方されたオランザピンを飲んで「脳が作り替わったようだ」と言っていたことも思い出される。治療に役立てば、毒も薬であるというところか。
かように、今作はサイエンスとスピリチュアルの間を揺れ動き続けている。
最後は、カクヨムではなかった(はずの)エピローグが追加され、登場人物たちにより希望のあるラストシーンが提示されているようにも見えつつ、もう後戻りができない、ある日突然やってきたシンギュラリティの向こう側に気付いたらいるような居心地の悪さもあり、剣呑なビックリおもちゃ箱みたいな中国という国を舞台にしたことも相まって、不穏な余韻も残る小説となっている。
最後に、買った書店では最後の一冊であった。
自分としては、売れに売れ、どうか映像化して欲しいと思っている。
映画、アニメ、海外ドラマ、この世界をどうビジュアライズするのか、多くのメディアで観てみたい。
なので、というわけではないが、本屋でお見かけになったときには、是非、手に取ってみて欲しい。
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