伝統的ツンデレと真面目系不良少女の、多分、恋。

 また、いわゆる百合の庭園を散策している。


 そこでふと思う。


 百合なるものは、恋愛、なのだろうか。


 広い意味では、そうなのだろう。きっと、アガペー的なやつだ。アガペーが何のことかはよく知らぬのだが。


 祖父江はジャンルというものにはあまり頓着しない雑食の食いしん坊であるので、解釈違いだと怒鳴り込まれぬようお願いしたい。


『路上のイデオローグ』作・杉浦 遊季(敬称略)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893991479


☆三十代女性と女子中学生の不思議な関係


〇作品概要

三十代独身女性と女子中学生による年の差ヒューマンドラマ作品。


楽器関係の仕事をしているとある女性は、ある日の帰り道に街の片隅で一人路上ライブをする女子中学生、通称「まつり」と遭遇する。しかしその演奏があまりにも酷く聴くに堪えないものであり、思わず声をかけアドバイスしてしまう。それをきっかけに女性は少女から「師匠」と呼ばれ懐かれ、路上での関係が始まった。生まれた世代も境遇も違う二人は次第に寄り添い、そしてお互いによき理解者へと関係を深めていく。だがその関係も唐突に途切れてしまう……。出会いから別れまでの二年間に及ぶ少女との関係を、女性は語る。



〇祖父江のレビュー


Title:駅前路上に百合の花は咲くか。


 路上ライブ、ギター、百合、と琴線に触れる要素が多く、吸い寄せられるように読み始めました。冒頭に示されているように、喪失と哀切に満ちた終幕が予想される物語ですが(そして一種の書簡小説でもある)、それを知ってなお読み進めたいと思える、美しさを持った作品でした。いや、「三十代社会人と女子中学生の歳の差百合いいよね……」みたいな脳の壊れたことを言いたいのではなくてですね。


『未来になれなかった日々』の過酷な回顧録かもしれませんですが、「過酷な人生だ、あなたはどう生きて行く」という問いをもたらしてくれます。



 さて、あんまりシリアスに振れ過ぎてもよくないので、ここからはレビュー主の独断と偏見混じりの登場人物紹介です。


〇私―――

 柏市で個人事業のギター職人をしている女性。個人名が出てこないので、便宜上カッコつきの“私”と呼称する。

 本作のあらすじにもある通り、駅前のあまりにたどたどしい演奏をしていた女子中学生に声をかけて世話を焼き、心通わせることになる。モノローグではツンデレ。それも、ツンとデレが9:1くらいの伝統的ツンデレ。そんな人が女子中学生に声をかける。ツンデレ不審者さんである。あらぬ角度から真面目系天然ボケをブチかましてくる辺りも規範的である。

 彼女のモノローグ(書簡)で話が進んでいくのでぼかされているが、はっきり言って変人。とはいえ、レビュー主が知っているギター職人は、いつ見ても行きつけの飲み屋でグデングデンになって謎の言語を話してたり、ヘッドもボディもない前衛的過ぎる変態ギターを作って悦に入る変人ぞろいなので違和感はなかった。うん、何かが間違っている。


〇まつり―――

 “私”に声をかけられた路上ライブ少女。恐らくamazarashiっぽいアーティストの曲に触発されてギターを購入したが、チューニングのことをよく知らない初心者あるあるをかましたまま弾き語っていたおかげで運命の相手(♀)と出会う。

 不登校の不良だが、「不良なら金髪にギターっしょ」的に大真面目な不良道を歩む律義なアウトロー。家庭環境も学校での人間関係にも問題を抱える悲しみつらみのマシマシトッピング状態だが、持ち前の聡明さも手伝って強くたくましく思い込んだら一直線で多少間違ってる道をアクセルベタ踏みで突っ走る豪傑である。のちにSFにも目覚める。あと、世界を獲れる右を隠し持っている。



 なんのこっちゃと気になったら是非読んでみてください。



〇いち底辺ストリートミュージシャンの目線から


 ストリートミュージシャンなどやっていたので(最近は取り締まりが厳しくなりすぎて、許可をとらないとできなくなってきた)、導入の路上ライブの情景は非常に既視感があり、作品への没入感を高めてくれた。なんとなく演る場所でアーティストとしての序列ができる辺りも、リアリティがある。


 ギターのチューニングがめちゃくちゃだったことから主人公とヒロインのまつりが交流を始めるのだが、中古屋のオヤジに騙されてチューナー代わりに音叉を買わされるところなど、別に間違ってはいないが、にやりとさせられる。祖父江は騙されなかったといらんことを強調しておく。


 あと、路上ライブのあるあるとして、音楽の巧拙はともかく「女子である」だけでそれなりの聴衆ができてしまうことがある。


 そのなかには、許可も取らずに自前の一眼レフで撮影を行う不届き者や、真昼間から流れる汗までアルコールになっていそうな厄介者も存在するので、女子中学生がひとりで路上ライブをすることはそれだけでかなりリスキーである。


 そういうところがあるので、こうして多少変だが、ある程度自由の利く女性の社会人に見初められた(積極的に誤解を与えていく表現)まつりは、非常に幸運な少女であったと言えよう。


 やや本筋とは離れた部分について語ってしまったが、かように細部にまで目の行き届いた作品であるということである。作者の杉浦氏はジュブナイル短編『サマー・チューンナップ』https://kakuyomu.jp/works/1177354054895003986/episodes/1177354054895140176以来のご登場であった。また、新作を楽しみにしている。

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