不死者、再考。

 カクヨムにて、異世界ハイファンタジーの物語を巡る。


 と、さまざまな“異能力”に出会う。


 硬く、『一人につき一能力の作法』―――かどうかは知らないが、ある種の制限を墨守ぼくしゅする作者もいれば、主人公に異能の満漢全席のような大盤振る舞いをする方もいらっしゃる。


 こちらは、前者だと思われる。


『不死者(アンデッドマン)は安らかに眠りたい』作・美作美琴(敬称略)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894085568


〇作品概要

『完遂者』の二つ名で知られるアクセルはどんな依頼も確実にこなす評判の冒険者であった。

それは彼が死なない身体の持ち主であるところが大きい。

しかしそんな不死能力を使った生活に嫌気がさし、自らの死ぬ方法を求めて旅に出た。

そんな折、アクセルは不死者を死なせる方法を知っているという女性ライムに出会う。

早速その方法をライムから聞き出すアクセルであったが、その方法はライムから出された依頼を受ける半年間の間、五回以上死ぬ程の怪我を負わないというものだった。


〇祖父江のレビュー


Title:あんまし強くない風来アンデッド、死ぬために死ぬなと言われる。


 長い長い夏休みも、だんだん学校が恋しくなってくると言われます。俺は違いますが。


 気楽なひきこもり生活も、続けているとだんだん働きたくなってくると言われます。俺は違いますが。


 死なない人生も、あんまり長いと死にたくなってくると―――それは分かりませんが。


 不死者として、いわば永続コンティニューな人生を送るアンデッドなアクセルは、死なない生活にくたびれていた矢先、賢者と呼ばれたくない賢者から『死ぬための試練』を与えられます。


 ただし、条件として、『死ぬのは五回まで』クレジットに制限が付けられるわけです。


 この作品のオリジナリティとして、主人公のアクセルが「強そうでそこまで強くないけど、それなりには強い」程度で、しかもなかなかなチキンプレイヤー気質なのがあります。


 不死を利用して敵を倒してきた男が、その特性を封じられて、どう立ち回るのかが見ものです。


 死なないといろいろ鈍くなってくるのか、ところどころすっとぼけたモノローグも面白みがあります。


 さぁアクセルよ、今日も元気に死にに行こう。


※完結追記


 不死ものとでもいうようなジャンルがあって、ゾンビ物みたいに、終わるのが難しい中、スッキリと物語をまとめて見せた作者に敬意を表しつつ、独断と偏見に塗れた人物紹介をしてみたいと思います。


〇アクセル―――

 強そうで強くない、少しだけ強い不死身の冒険者。某ナメック星人みたいに、千切れた腕は生えてくるし、「でえじょうぶだ、魔人に喰われたって生きけえる」と、まごう事なきアンデッドだが、終わってみれば、全登場人物の中で、最も普通だった男。

 永続コンティニューも、常に普通にニューゲーム。だけど、持ち前のやるときはやる胆力と優しさで、魔女の師匠と嫁と娘をゲットした。めでたしめでたし。


〇ライム―――

 アクセルに死を与えるべくよく分からない試練を課す少女姿のドS魔女。人外だが、倫理観はあって、こちらも、なんだかんだ精神性は普通。最後はアクセルの機転で思わぬどんでん返しを食らい、してやられたが本人は嬉しそうでもある。めでたしめでたし。


〇イングリット―――

 問題児①。ライムの試練の途中で助けた修道女。普通のヒロインと思いきや、アクセルに惚れこみ、成長性Aのヤンデレの片鱗を見せ始める。

 最後には自分をほったらかしにしたアクセルを鉄拳でぶっ飛ばすパワーAのヤンデレラへと立派な成長を遂げた。めでたしめでたし(?)。


〇カタリナ―――

 問題児②。イングリットと同じく、成り行きでアクセルに助けられたが、その過程でちょっとだけ(!?)死んでしまい、理性があるようで無いようで実は少しある半不死のバーサーカーになってしまった。というかゴリラ。ゴタリナ。つよい。

 最終的に幼児退行してしまったが、まぁ、ヨシ! めでたしめでたし(??)


〇アルバトロス―――

 裏主人公。序盤に出てきた盗賊のゴロツキだったが、それは彼が某スピードワゴン並みの大出世を遂げるサクセスストーリーの始まりに過ぎなかったのだッ!(CV大川透) めでたしめでたし。


〇作者について


 実は祖父江も自作で“不死者”というのを出し、こちらも「死なないだけであまり強くない」キャラであった。


 といったところで、どことなく親近感を寄せて読み始めたのだと思う。


 応援コメントで別の読者の方に「これは実体験が元になった作品です」と書かれていた。死に対して、思うところあったのだろう。


 長編ではあるが、死を与える魔女からの試練という体裁で、ストーリーの区切りはよく、主人公も複雑な設定ではないため、とっつきやすい作品であろうと思う。


 イモータルなアンデッドとはいえ、腐っていたり骨になっていたりするのではなく、むしろ永く生きた割には常識人な主人公が、ツッコミ役と狂言回しとして、物語を引っ張る一人称の小説だ。


 レビューに書いたように、むしろ、周りで普通の人間をやっているはずのヒロインや手助けしてくれるキャラクターの方が癖強きこと岩の如し、業深きこと谷の如しとなっていくのが笑えた。


 現在はしばし停滞していた作品の炉に再び火を灯したようだ。https://kakuyomu.jp/works/1177354054890891239


 楽しみに読んでいきたいと思っている。

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