第34話 結末

「予想通りの展開すぎて、なんだか退屈ですね」


 そう言って「悪魔」は微笑んだ。

 従者の剣が俺の首に向かう直前、ギリギリのところでヌヴェルは現れた。俺の前に立ちはだかり、従者の剣を素手で掴む。


「な……なんだこいつは……!? もしかして、『そいつ』の仲間か!?」

「『仲間』だなんて、軽い言葉で片付けてほしくはありませんね……そもそもこの人は、私と同じ『悪魔』ではありませんし」


 従者の問いにそう答えるヌヴェル。そして従者の剣を振り払った。

 そんな光景を見てヒールさんは、恨めしそうな表情でヌヴェルを睨んだ。拳を握り、今にもヌヴェルに向かって突っ込んでいきそうだ。

 しかし公共の場だからか、その声は至って冷静だった。


「……黒髪は、『悪魔』か『その契約者』である証です。契約者は悪魔と契った際、願いを叶えてもらう代わりに黒髪になり、一切の力を失う。言語能力や思考能力などは失われますが、簡単な命令はこなせるため、奴隷として重宝されてきました。しかしその人は『力』を持っている。黒髪であり、かつ力を持っているのは、『悪魔』として十分な証拠です」

「何処の誰ですか、そんな嘘を吹聴したのは……人間は、何か悪魔を誤解していますね」

「どういうことですか、それは」

「確かに悪魔は皆黒髪ですが……人間の黒髪は、悪魔と全くの無関係ですよ。それに契約者が一切の力を失うとか、本当に信じているんですか? 貴女、実際に私と契約した人を見ていますよね?」

「何を言って……」

「……ああ失礼。貴女、記憶が無いんでしたっけ」


 ヒールさんは黙ってしまった。

 多分、ヒールさんはネトムを連れ去ったのが「未来の俺」だって知らないんだ。「未来の俺」が悪魔と契約したことも……俺はあの決戦のあと、ヒールさんにちゃんと事情を説明していない。その辺の事情をちゃんと説明していれば、こんなことにはならなかったのだろうか。


「……貴方は、裁かれねばなりません。それを信仰する悪魔教の者も、同様に。悪魔は今ここで、葬ります」

「裁く? 悪魔教? ははは! 何をおかしなことを。私は人間に裁かれる気など毛頭ありませんよ。それに、悪魔教とはなんのことです? まさか、私の『操り人形』のことを言っているんですか? だとしたら、実に滑稽ですねえ」


 高笑いをするヌヴェル。ヒールさんは不快そうに顔を歪めた。


「王女様、悪魔の戯れ言に耳を貸す必要はありません」

「戯れ言、ですか……まあいいでしょう。人間の、悪魔に対する認識などどうでもいいことです」


 従者に向かってそう言ったヌヴェルは、俺に向き直る。

「さあ、トウマさん。約束は約束ですよ?」

「……」

「私の主人になってください……『契約完了エンゲージ・コンプリート』!」


 奴がそう言うと、周囲は凄まじい黒い霧に包まれる。視界が真っ暗になり、俺は思わず唸る。

 手首の拘束は解け、俺の頭に巻いている布も何処かへ飛んでいった。


 黒い霧が晴れると、俺はすっかり自由になっていた。自身の黒髪を晒し、人々の前に立つ。俺を見た人々は震え上がっていた。

 多分、俺の見た目はおぞましいことになっているんだろう。なんだか、特性を発動している時と同じ感じがする。この、全身から力が湧き出る感じ……これが、俺の「力」か。

「悪魔め! とうとう本性を表しやがったな!?」

 従者たちは剣を持ち、俺を警戒している。


「さあ、我が主人。望みはなんです?」

「……望みなんてない」

「おやおや」

「お前の力を、借りるほどでもない」


 数人の従者たちは、一斉に俺に斬りかかろうとする。こんなのまるでリンチじゃん。俺、こいつらに何かしたっけ? なんで俺がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ。

 腰の短剣を両手に取り、俺はそれを迎え撃つ。それも、一瞬。あっという間に、従者たちは地面に伏せる。今の俺のスピードに敵う者はいない。


 その様子を見て人々は悲鳴を上げ、逃げ惑った。


「あはははは! さすがですねえ、我が主人。前の主人とは大違いだ、やはり『切って』おいてよかった……!」


 こいつは俺と契約するために、前の主人と縁を切った。つまり……「殺した」。水晶玉に映っていたあの店主は、死んでいたのだ。

 ……俺のせいで、「また」人が死んだ。

 未来の自分が死んだのも俺のせい、あの店主が死んだのも俺のせい、今こんなことになっているのも、全部俺のせいなんだ。俺のせいで、王食祭は台無しになってしまった。


 ――俺は、最低だ。


「どうしますか? このまま、ここに居る人間を全て殺しますか?」

「……そんなことをしても、力の無駄だ」

「では、どうします? そうだ、エルトを呼んで来ましょうか。その力を試すには持ってこいだと思いますよ?」

「……てっきり俺が仕留めたのかと思ってたけど……生きてたんだな」

「ええもちろん! あのあと私が身体を治してやりましたよ? 全く、本当にいつまでも手がかかるガキで困ります」

「……楽しそうに言うんだな」

「この状況は楽しまずにいられませんよ……ふふふ、ああやはり貴方を主人にして正解だった!」

「……およそ主人に取る態度じゃねえよなそれ……」


 そうやって、未来の俺も誑かしたのか。

 こうやって、未来の俺は誑かされたのか。

 酷いやり口だ。まさに悪魔の所業だ。でも、これが「悪魔」……人間を絶望の底に叩き落とす、外道中の外道……

 悪魔に対して様々な感情が渦巻くが、こいつを殺そうとは思わなかった。そんな気力さえ湧かなかったのだ。なんかもう、全部どうでもよくなった。


 ――どの道、俺は「破滅」する運命にあるのだから。俺がこいつの「主人」である限り、それは避けられない。


「行くぞヌヴェル」

「おや? 何処へ行くんです?」

「……さあ。今はとにかく、誰にも会いたくない。一人で、いたい」

「……それが主人の望みならば」

「ていうか、お前未来が視えるんなら、俺がこういうこと言うのもわかってたんじゃないか?」

「私は、視たい時にしか未来を視ないので」

「……あっそう」


 ヌヴェルは初めて会った時のように、指を鳴らして黒い渦を作る。俺はその中にゆっくり歩みを進め、ヌヴェルもその中に入る。そしてその黒い渦は次第に閉じていき……


「待てよトウマ! ふざけんじゃねえよ!」


 俺は思わず立ち止まる。後ろを振り返ると、そこには怒ったリルンがいた。


「店サボって! こいつはなんなんだよ! 説明も無しにどっか行くんじゃねえ!」

「……ごめん。俺はもう、リルンと一緒には……」

「随分と勝手ですね」


 リルンの後ろからサジェスが顔を出す。手には本を持っていた。なんだよ、まさか俺に特性を使うつもりなのか?


「きちんと説明をしていただけないと、こちらも納得出来ません」

「……お前には、関係ないだろ」

「いいえ。僕とトウマさんは他人ではないでしょう。このまま放っておくわけにはいきません」


 ……相変わらずの無表情なんだな。

 そうこうしているうちに、どんどん渦は閉じていく。これで、皆ともお別れだ。挨拶とか全然してないけど。でも、これで終わり……



 ではなかった。



 なんとリルン、サジェス、さらに杖を持ったヒールさんまで着いて来たのだ。え……? なんでこんな所に来るんだよ。一人にさせてほしいのに。どうして一人にしてくれないんだ。

 ここは以前にも来たことのある場所だ。未来の俺がネトムを連れ去った時に来た場所……あちこちにガラクタが積まれ、辺りは不気味な色をしている、混沌とした世界だ。


「……なんで、こんな所に来るんだよ。関係ないだろ。俺が何しようと、俺の勝手だ。一人でこの世界に『召喚』されたんだから、最後も一人で終わらせてくれよ……」

「あたしらは納得しねえ! 勝手にどっか行って、悪魔と手え組んで! そんなの、納得出来るわけねえだろ!」


 やめてくれ、リルン。泣きそうになるじゃないか。

 俺はもう、お前の知ってる「トウマ」じゃないんだよ。お前の知ってる「トウマ」はさっき死んだんだ。だからそんなこと、言わないでくれよ。


「やれやれ……厄介なのが紛れ込んで来ましたね」


 そう言うくせに、その表情は何処か楽しそうだな。ヌヴェル。

 その隣にはエルトもいる。何処もケガをしている様子はない。ヌヴェルに「治して」もらったんだ。あそこまで完全復活されると、俺がしたことは一体なんだったのだろうと思ってしまう。


「ですがここに来たのが運の尽き……皆さんには死んでもらいましょうか」

「今度こそ殺してやる!」


 ヌヴェルとエルトはそう言って、三人に突っ込んでいく。二人が標的にしたのは、サジェスだった。ヌヴェルの拳、エルトの拳が、サジェスに向かう。


「危ない!」


 そう言ってサジェスを庇ったのはヒールさんだ。二人の拳を、ろくな防御も出来ないまま食らう。あれは相当なダメージを受けたはずだ。ヒールさんは、その場で蹲る。


「ぐっ……何故、何故だ。何故……その子を、最初に狙うんだ……」

「この少年には以前、してやられましたからね。まさか、あんな風に特性を使われるとは思いませんでした。また同じように特性を使われるのは厄介です」

「サジェスを殺すのはこの僕だ!」


 ヒールさんの問いに、そう答えるヌヴェルとエルト。それから激しい攻防が始まった。ヒールさんはサジェスを庇いながら戦ってるから、労力も倍だ。このままではきっと……


 でも、そんな光景見ても何も感じないや。


 俺は身も心も悪魔になってしまったのだろうか。


 一人傍観している俺に、リルンは怒鳴る。


「……あんた、マジで悪魔になったのかよ!?」

「……そうらしい」

「……ははっ、そうかいそうかい。なあ、ドストー村であたしに言ったこと、忘れたのか?」

「……なんて言ったっけな」

「もういい。話にならねえ。あんたはあたしがカタをつけてやる!」


 リルンは棒を鎌に変化させ、俺に斬りかかってくる。

 ごめんな。俺お前に嘘ついたわ。本当はあの時、何を言ったのかちゃんと覚えてる。

 でも忘れてるふりをした。俺自身、思い出したくなかったからだ。あんなの、今の俺にブーメランすぎて思い出すのが辛い。

 鎌は俺目がけて振り回される。手加減無しの、本気の「斬り」だ。


「あの頃のあたしとは違うんだぜ!」


 俺はすんでのところでそれを避ける。

「はは……そうだな。でも、俺もあの頃の俺とは違うんだよ!」

 二本の短剣のうち一つを、リルンの鎌の防御に使い、もう一方の短剣でリルンの脇腹を刺そうとする。

 しかし読まれていたのか、リルンは攻撃の剣を足で蹴った。


「……! はは、いけると思ったのにな」

「舐めんじゃねえ!」


 短剣は何処かへ飛んでいき、リルンは鎌を軸にして高くジャンプする。そして俺の頭に向かって蹴りを入れようとしてきた。

 俺はそれに気付き、咄嗟にリルンと距離を取る。


「今の食らってたらやばかったな……!」

「ちっ、外したか……でも、今度は外さねえ!」


 鎌から炎が上がる。特性を発動させたんだ。

 俺は元々特性を発動させていたから、これで対等な勝負になる。


「トウマ! 目を覚ませよ!」

「俺の目は元々開いてるっつの!」


 炎を纏う鎌は、近くにいるだけで暑い。あれに掠りでもしたら終わりだ。慎重に鎌を避け、攻撃のチャンスを伺う。しかしリルンは鎌を振り回しっぱなしなので、全然近付けない。


「どうしたトウマ! 攻撃して来いよ!」

「簡単に言ってくれるな……!」

「もっと『本気』で来いよ! あんた手加減してるだろ!」


 手加減ねえ。そんなつもりはないんだけどな。ただ、致命傷にならないほどに痛め付けようと考えているだけだ。

 リルンの攻撃は止まらない。


「あたしを舐めてんのか!」

「……っ、そんなつもりは……!」


 俺の攻撃は空を斬るばかりだ。避けるのが精一杯で、ちゃんとリルンを狙えない。あの鎌は本当に厄介だ。

 ならば。


「うおおおおおお!」

「!?」


 俺は地面に力を込めて、思いっきり短剣を突き刺す。その衝撃波で、リルンは吹っ飛ぶ。

 短剣は深々と地面に突き刺さり、黒い稲妻を発する。「俺の力を込めた」その剣は、俺以外の一切を寄せ付けない。近付けばその黒いいかずちに打たれるだろう。

 剣を握ったまま、俺はその場に跪く。要はこれは強靭なバリアだ。これならリルンに近付かずに、攻撃が出来る。


 あいつはきっと、突っ込んで来るだろうから。


「……ってえ、なんなんだよ!」


 リルンは炎の鎌を俺に振りかざそうとするが、その攻撃は当たらない。雷がリルンを貫いたからだ。


「ああああ!」


 リルンはその場に倒れた。でも死んでない。生きてる。生きてるがその身体は痙攣しているため、すぐには起き上がれないだろう。


(……これでいい)


 リルンも、俺の存在で迷惑を被った人間の一人だ。こんな所にまで来て……サジェスにもヒールさんにも、たくさん迷惑をかけてしまった。

 俺は元々この世界の人間じゃない。完全な部外者だ。そんな俺が、皆と一緒にいていいはずがない。現に、俺がいるせいで皆不幸になっている。

 疫病神もいいとこだな、俺。でもまあ、貧乏神じゃないだけマシか? いや……全然笑えねえよ。


(頼むから、もう誰も俺に近付かないでくれ……)


 これ以上、苦しめたくない。

 跪きながら、祈るように目を瞑る。遠くから、ヌヴェルたちが戦っているのが聞こえる。ヒールさんやサジェスも、俺のせいで死ぬのかな。それは嫌だな。

 じゃあ助けに行くか? それでどうする? サジェスはともかく、ヒールさんは黒髪の俺を憎んでいる。俺がしゃしゃり出たって、事態を悪化させるだけじゃないのか?


「……ふざけんじゃ、ねえよ……」


 目を開けると、よろよろしたリルンが立ち上がっていた。まだやるのか。これ以上やっても無駄だ。さっさと諦めた方が自分のためなのに。


「トウマ! そんなとこで何やってんだよ! 立てよ! おい!」

「……俺が、皆を不幸にするんだ。俺がいると、皆不幸になるし、死んでしまうんだ……そんなのは、もうたくさんだ。なあ、なんでそんなに俺に構うんだよ? さっさと手を引けよ。それがお前のためなんだよ」

「は!? なんだよそれ! あんたが人を不幸にする? 不幸気取りはやめろよ! それに、あんたが誰かを不幸にするとか関係ねえんだよ!」

「……は? 関係あるだろ。お前はこの先、俺と一緒に居たら死ぬかもしれないんだぞ? だって俺は黒髪だ。黒髪は、悪魔か悪魔との契約者の証だって……ヒールさんが言ってたじゃねえか……! 俺のせいで、お前をとんでもないことに巻き込むかもしれないんだぞ……!」

「はっ、もう巻き込まれてるっつの。それに、そういうことなら上等だ。面倒事はごめんだけど、退屈しないで済みそうだからな」

「なんだよ、なんだよそれは……何言ってんだよお前……」

「それに、あんた言ったよな? 『俺について来い』って。『真っ当な生き方教えてやる』って。偉そうにさ」


 それ俺の黒歴史じゃねえか! って叫びたくなる。

 リルンは炎の鎌を高く振り上げた。リルンの目は煌々と赤く光っており、全身は業火の如く赤く燃え上がっている。その姿はなんだか……綺麗だった。


「あたしはまだ、真っ当な生き方を教えてもらってねえよ!」


 俺のバリアを物ともせず、リルンは俺に斬りかかった。

 鎌は俺の喉笛を掻っ斬り、俺の首からは血が噴き出した。


「……!」


 声にならない声が漏れる。痛い。痛すぎる。俺は、死ぬのか? これが俺の最期? こんな、こんな結末だったなんて……

 リルンは何も言わず、倒れる俺を見下ろしている。


「……ふふ……あっはっはっは! こんな、こんな劇的な最期を迎えるとは! いやあ、今度の主人は実に面白かった! でもまさか、あの鎌がここでこんな役割を果たすとは! やはりあの時鎌を売らせてよかった!」


 向こうでヌヴェルが何か言ってる。何がおかしいんだ。人が死ぬところを見て、そんなに楽しいか。

 ヌヴェルはヒールさんとエルトの元を離れ、ゆっくりと俺に近付いて来る。


「今、どんなお気持ちですか我が主人。怒り? 悔しさ? それとも……喜び? 死ぬ前に聞かせてくださいよ! ああ、なんなら私が、身体の時を戻して差し上げましょうか? 貴方が望むのならそうしますよ! おや、声が出ませんか? それならまず声を戻して差し上げ……」


 その時、ヒールさんが後ろから短剣で、ヌヴェルのうなじを刺した。


「……え?」

「……余所見をするからですよ」


 あの短剣はさっき俺が落としたものだ。その短剣で、ヒールさんはヌヴェルの首を貫いた。

 なんて、展開。


「貴方は、多くの人を不幸にさせすぎました。その罪は、きちんと償ってもらいます」

「……は、そんなので、私が死ぬわけ……ないじゃないですか……」

「ヌヴェル! ヌヴェル! よくも、よくもヌヴェルを……!」


 エルトがそう言ってヒールさんの元へ駆けた瞬間、サジェスはペンで自らの左手を切る。


「悪魔ヌヴェルは、力の使いすぎで自分の首を治せない!」


 ペンを本に走らせ、サジェスが叫ぶ。

 そして、


「出血多量で死ぬ!」


 その一言が止めを刺した。

 ヒールさんがヌヴェルの首から剣を抜くと、赤い血が噴き出す。血の量は俺のと比にならない。


「……ーーっ!……!」


 そのままヌヴェルは倒れた。


「え……? ぬ、ヌヴェル……? ヌヴェル……?う……うわああああああああ! ヌヴェル! ヌヴェル!」


 泣き叫びながら、ヌヴェルに駆け寄るエルト。そして、倒れたヌヴェルを抱き抱えた。


「なんでなんでなんで! ヌヴェルは絶対死なない! どんなに傷を負っても、ヌヴェルの力で治しちゃうんだ! それなのになんで! なんで! サジェスううううう! よくもヌヴェルを殺したな!?」

「……エルト、その悪魔は最近強い力を使いませんでしたか? 例えば……人一人生き返らせるほどの力を」

「……なんで、そんなこと聞くんだよおお!」

「悪魔だって、無限に力を使えるわけではないのでしょう。だから僕の特性が効いたんです。それに……僕が特性を使わなくても、その悪魔はきっと……」

「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ! それじゃあ、僕のせいでヌヴェルが死んだみたいじゃないか……」


 俺はその光景を見ていることしか出来なかった。

 だんだん目が眩み、視界がぼやけてくる。俺は、とうとう死ぬのか……? そう思い始めたとき、ヒールさんが俺に駆け寄って杖を振る。


「死なせません。死なせませんよ、トウマさん。私は、まだ貴方にきちんと謝っていません」


 なんでそんなこと……俺は、ヒールさんが憎む黒髪なのに。


「私は、本当に愚かでした。貴方をこんな風にさせてしまったのは、全て私の責任です。謝っても謝りきれません……」


 そんなこと言わないでください。


「トウマさんが黒髪であるというだけで……私はトウマさんを『悪魔』だと決め付け、とんでもないことをしてしまいました」


 ヒールさん……


「私は、絶対貴方を助けます。それが、私に出来る唯一の償いです」

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