第24話 真相を知る
危機的状況は変わらない。俺は無力かもしれないけど、それでも動くことによって何かが変わることもある。リルンはそれに気付かせてくれた。
あいつから何かを教わるなんて、思ってもみなかったよ。
俺とリルンは、サジェスたちがいる後方へ走ろうとする。けど、
「何処行こうとしてる」
フードの男が行く手を阻んだ。
「もしかして、あの二人を助けに行こうとしてるのか? 四対二じゃ不公平だろ? 向こうは向こうでそっとしといてやれよ」
「そこをどけ!」
「あーやだやだ……うんざりするよ、そういうの。ねえお前はさ、自分で自分が恥ずかしいとは思わないわけ?」
「俺はお前が言うほど恥ずかしい存在じゃない! いいからそこをどけ!」
「『特性』を上手く使いこなせないお前が、行ったって足手まといになるだけだ」
なんでこいつ、俺の特性のこと知ってるんだよ。もしかして、ガラクタの後ろでずっと俺たちの会話を聞いていたのか? ったく、盗み聞きとは趣味が悪い。
って……俺もネトムのことは盗み聞きで知ったんだっけ。
リルンはめちゃくちゃ腹が立ったのか、あいつに向かって怒鳴った。
「さっきからあんたはなんなんだよ! 足手まといとかそんなの……わかんないだろ! 行動してみなきゃわかんないだろそんなもん! 結果とかそういうのを考える前に、まず動くことが大事なんだよ!」
リルンの言葉に突き動かされ、俺は腰の短剣を手に取る。そういえば、こうやって剣を持つのは久し振りだ。ここを通るには、どうしても奴とやりあわなければならないらしい。
俺には元々大した剣の実力は無い。俺の実力がこいつに通用するといいんだが。
奴は冷笑し、俺を横目で見る。
「……あーあ、言ってて恥ずかしくならないのかよ? それ。そいつを庇ったって、なんの得にもならないのに」
「……口の悪いジジイだな。リルンの言ってることは正論だろ?」
「悪かったな。まあ、なんとでも言え。どうせお前はここで……死ぬんだからな!」
奴は俺と同じ、短剣を二本取り出して俺に向かって突進していった。動きは少々鈍いが、油断はならない。
俺は奴の攻撃を剣で受け止める。間近で見ると、こいつの剣錆びてやがる。よっぽど雑に扱っているか、それとも剣をあまり使わないのか。
どっちだっていいや。とにかくまずは、こいつを倒さないと話が始まらないのだから。
俺は奴から一旦距離を取り、助走をつけて奴に斬りかかる。
「はっ!」
「やはり! ……そう来るよな。お前は右利きだ。だからまず右の剣を振るう」
「なんでそんなこと知ってるんだよ!」
「それは……おっと、そっちからも来るか」
俺の攻撃が読まれていたのか、奴は待ってましたと言わんばかりに剣でガードする。その間チャンスと思ったのか、リルンが鎌を奴に振ろうとするが気付かれてしまい、鎌は宙を切る。
「リルン! 俺に当たったらどうするんだよ!」
「そんぐらい避けろや!」
「無茶言うな!」
リルンとこんな軽口叩けるってことは、まだ余裕があるのか俺は。緊迫した状況は変わりないのに、リルンといると緊張感が無くなってくる。この感覚はなんだろうか。
しかし今は、リルンと言い争っている場合ではない。連携しなければならないのだ。でもリルンの性格上、連携を取るのは困難を極めるだろう。あいつはそういう奴だ。
「こいつはあたしに任せろ! あんたなんか、あたしの炎で焼き付くしてやる!」
そう言って、奴に飛び込むリルン。鎌を力強く握りしめ、思いっきり振るう。その時の鎌は、あの時特性を発動させた時と同じように赤々と燃えていた。
「うぇ!? まさかの特性か……」
奴は一瞬焦ったが、かろうじてリルンの攻撃を避ける。リルンは舌打ちし、もう一度攻撃しようと体制を立て直す。
奴はそのまま逃亡した。え!? ここで逃げるとかありなの!?
「あんなの絶対勝てないって! 俺には無理!」
捨て台詞にもならない言葉を吐き、そのまま奴は走り去った。雑魚敵でもそんなことは言わないだろう。てか……言ってることに既視感を覚えるんだが、気のせいか?
納得のいかないリルンは、奴を追いかけようとする。
「待てよ! 逃げんじゃねえ!」
「いや、もういいだろあいつは! それよりもヒールさんとサジェスだ!」
「はあ!? ……ああ、そうだな。まずはそっちだな。そっちを片付けたら、あいつまた追うぞ」
「え? 追うの? なんでわざわざ?」
「あいつはネトムを連れてっただろ!」
ネトム。そうだ、元はと言えばあいつが原因じゃないか。あいつが全ての元凶だ。元凶は今この場にはいない。あいつはどうなったんだ? でも……
「あいつのことは気になるけど、でも……ネトムを探してどうするんだ? 連れて帰るのか? あいつは……悪魔で」
「あいつは悪魔じゃない! お前、まだわかんねえのかよ! お前と同じなのに!」
「は……? どういうことだよ?」
「ネトムは! お前と同じでこの世界に『召喚』されたんだよ!」
召喚。随分とその言葉を聞くのは久し振りだ。確か俺は、村人の代わりに奴隷として売られるために、この世界に召喚されたんだっけ。
それにしても……ネトムが「召喚」された? それを聞いて、開いた口が塞がらない。
「え……? で、でも、まさか……」
考えてみれば、あいつが悪魔だという根拠は何も無い。ただ雰囲気が怪しいってのと、黒髪だと指摘されている現場を見ただけだ。
証拠は何処にもない。
「リ、リルンが騙されているって可能性も……」
「あいつがあたしを騙してどうするんだよ!」
「いや、だから……信用を得て利用するとかいう……」
「あーもう! ちゃっちゃと認めろ! あんたは誤解してたんだ! あいつのこと! それはあたしもだけどな!」
俺は自分の誤りを認めたくなかった。だって、あいつが俺と同じ「召喚された」人間で……俺が元居た世界の人間だって、簡単に信じられると思うか?
それに……だとしたら、俺がしてきたあいつへの仕打ちってなんだ? あいつのこと、悪魔だって決め付けて、酷いことを言って……
「じゃあ、俺……なんてこと……」
俺はあいつに、謝らないといけないじゃないか。
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