決着カウントダウン

第22話 かつてない脅威

 店に戻ると、そこにはかつてない活気があった。

 新メニューがウケたのか、賑わっている店内。新規のお客さんがたくさんいる。中でも一番目立つのは、呼び込みをしているリルンだ。リルンはかわいらしい服に身を包み、店の外で声を張り上げる。


 ってかあの服装、まさかのメイド服だったりする!?


「あー! えーっと、や、安いよ! 上手いよ! すげーよ! ただ今、シシ堂開店中! って、こんな感じでいいのか? ちょ、おい! ジロジロ見んな!」


 顔を赤らめ、羞恥を捨てきれないでお客さんを呼び込むリルン。いや、お前一体何があったの!?

 メイド服を着ているリルンに、たくさんの男たちが群がっている。完全に変態の集まりだ。まあ、シシグマさんもいるし変なことは起きないと思うけど……でもあまりにもこの状況は異常すぎる!

 俺は店に入り、厨房で忙しくしているシシグマさんに向かって叫ぶ。


「し、シシグマさん!? あの! これは一体どういう状態ですか!?」

「トウマか! 丁度よかった。今、手が離せないんだ。お前も手伝ってくれないか」

「いいですけど……! あの、これは一体……」

「ああ。これはネトムが考えたんだ」


 え? ネトムが? 頭に疑問符を浮かべる俺の横に、料理を持ったネトムが現れる。


「そそ。ナイスアイデアだと思わない? リルンちゃんかわいいからさ。ああいうの、絶対似合うと思ったんだよね。おかげでほら、大盛況」

「いやすごいけど! グッジョブだけど! でもさ! え!? どういうつもりなの!?」

「どういうつもり……って。ただ店に貢献しただけだけど」


 あのニヤけ面。やっぱり信用出来ねえ。何考えてるんだか知らないけど、絶対怪しい。今までずっと単独行動をしてきたのに、ここに来て手のひらを返すように店に貢献するネトム。

 これは絶対何かある。


「ところでトウマ。店が落ち着いたら、ちょっと話があるんだけど」


 珍しく真面目な顔をして、ネトムは俺に耳打ちした。

 なんだ? 話? もしかしてこの前のことか? 考えあぐねる俺を前に、ネトムはいつものニヤけ面に戻る。


「やだなあ、そんなに構えないでよ。ほんと、変なこととかしないからさ」

「信用出来ねえんだよ、お前」

「はっきり言うねえ。まあ……無理もないか」


 ネトムはお客さんに呼ばれ、慌ただしく料理を運ぶ。俺はその様子を黙って見ていた。俺はそこで、ずっとぼうっとしていたらしい。何度目かわからないシシグマさんの呼ぶ声で、俺はようやく我に返った。

 俺はシシグマさんに返事をして、指示をもらって料理を運ぶ。ヒールさんも呼ばれ、厨房に入る。見兼ねたサジェスも、店の手伝いをしようと動く。まあ、もちろんシシグマさんはやめるよう諭したが、サジェスは我を張った。


 店は繁盛している。でも、俺の気持ちは晴れない。それは店が一段落するまで変わらなかった。



 もうすっかり夜になっていた。気付いた時には店は閉店していて、ああようやく一日が終わったんだ、という疲労感に襲われる。

 中でも一番疲れていたのはリルンだ。当然だ。あんな風に見世物にされて、疲れないわけがない。今は着替えており、机の上にはメイド服が置かれている。


 しかしシシグマさんは、今も厨房で忙しくしていた。明日の準備と言って、一人で仕込みをしている。俺たちは休んでいいと言われ、店の奥で休んでいた。


「もーぜってーやんねーからな! 二度とやんねえ! 賞金のためとはいえ、もーやりたくねえ!」

「王食祭で一番になるためには、王族の評価を得るだけじゃ駄目だよ。街の評価も大事なんだからさ、あと少し我慢してよ」

「じゃああんたがやれよ! 言い出したのはあんただろ!?」

「無茶言わないでよ……男のメイド服なんて、何処に需要があるのさ」


 リルンとネトムは言い争っていた。あの二人に何があったのか、以前よりも仲が良さそうに見える。気のせいだろうか。


「あの、その服は一体どうしたんですか?」

「これ? ちょっとした『ツテ』を使ったんだよ」


 サジェスの質問に何気無く答えるネトム。

 ツテ……って、ますます怪しい。


「そうそう、ところでトウマ。ちょっと話があってさ、このあと二人で……」

「その前に、お話いいですか。ネトムさん」


 ネトムの言葉をヒールさんが遮った。ヒールさんは強い視線をネトムに向ける。


「ん?」

「ネトムさん。貴方を連行します」


 え? 今、ヒールさんなんて言った?

 その一言で、この場にいる全員がヒールさんに注目する。一番驚いた顔をしているのはネトムだった。


「え……? それってどういう……?」

「貴方には、悪魔の疑いがかけられているんです」

「ちょ、ちょっと待ってよ。悪魔とかさ、俺知らないって」

「惚けるなよ。あんな現場見せられて、疑うなって言う方が無理だ」

「トウマ……」


 そんな目で見るなよ。俺を騙そうったって、そうはいかないんだからな。


「私としては一度疑われた以上、連行して尋問するしかないと思っています」

「ちょっと待てよ! ネトムは悪魔じゃねえ! そいつは……」

「リルン! お前は少し黙ってろ! 俺は見たんだ。怪しい奴と話しているこいつの姿を! こいつの髪が、本当は黒いって話しているのを見たんだ!」


 指差す俺に、絶望的な表情を浮かべるネトム。お前、そんな顔も出来るのかよ。なんでそんな顔するんだよ。今まで騙していたくせに。


「……話を聞いた以上、私も無視はできません。ネトムさん、貴方を連行します」


 ヒールさんはそう言って、ネトムの腕を掴む。抵抗するネトムにお構い無く、ヒールさんはネトムを連れて部屋を出ようとする。


「皆さん、ご協力ありがとうございました。私は一度、詳しい尋問をするため向こうに戻ります」


 ネトムとリルンは何やら騒いでいる。なんでリルンが騒いでいるんだ? まあ別にうるさいのはいつものことだし、俺は特に気に止めることなくヒールさんを見送る。


 その時、ドアが開く。


「間に合った、間に合った……へは、へへははは……」


 そこにはローブを纏い、顔をフードで覆い隠した、いかにも怪しい奴……あの時ネトムと会話していた奴がいた。

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