第9話 モンスターとの死闘
なんやかんやで、飯のためにモンスターを狩ることになった。どういう状況だよこれ。
俺たちは街から少し離れた、見晴らしのいい広原に向かっていた。見晴らしのいい、というのはネトム談である。
「ねえねえねえねえ、その鎌ちょっと持たせてくれない?」
「しつこい!」
「つれないねえ。リルンちゃん? はどうしてその鎌を持ってるの?」
「だから、教えないって言ってるだろ! うざいんだよ!」
「いいじゃない、減るもんじゃないしさ」
「こっち来んな! おいトウマ助けてくれよ。いくら飯のためだからとはいえ、こいつと一緒に居るのはやだ!」
急に助けを求めるなよ。
リルンは俺の後ろに隠れてしまった。どうやら、相当ネトムのことが嫌らしい。
「じゃあお前、何であの時やるって引き受けたんだよ」
「飯のためなら我慢! って思ったんだよ!」
「なら、今も我慢すればいいんじゃないか」
「もう限界だ! あいつはうざい! しつこい! めんどくさい! ここまでずっと喋りっぱなしだぜ? あいつの相手はもううんざりだ!」
「お疲れさん」
「トウマ! なんでお前そんなに冷たいんだよ! いつもはあんなにうるさいのに!」
……って言われてもなあ。お前らのやり取り見てるだけで、もう疲れるっていうか。
俺だって、いつもいつも元気なわけではない。たまにはこういう時もある。というより、俺はネトムが苦手なんだ。あの何考えてるのかわからない感じ、得体の知れないあの感じはなんだ?
俺はずっと黙ってネトムの動向を観察していたが、いまいち人間性が掴めない。まあ、武器が好きというのはわかったけど。
「嫌われちゃったかねえ。トウマ……だっけ? リルンちゃんとはどういう関係? もしかして、将来を近い合った仲だったりする?」
「はあ!? そ、そんなことねえよ!」
「あれ? そうなの? 君たち随分と距離近いからさあ、てっきりそうなのかと思ったんだけど」
「違うって! リルンとは成り行きで一緒になってるだけだ!」
「そう? でもそういう相手がいるのっていいよね。羨ましいなあ、俺にはそんな人いないからさ」
こいつ、絶対本心で言ってない。言葉がすごく軽いもん。ペラペラの紙みたいに軽いもん。
ネトムはこっちの調子を狂わせる。無意識なのか意図してなのかはわからないが、とにかくあいつが纏う空気は変だ。なんなんだあいつ。
「さて。着いたよ」
俺たちはネトムの案内の元、モンスターがいるという広原に着いた。見るとあちこちの地面に、穴が開いている。
「ちなみにここ、一般人にはちょっと向いてないんだよね。モンスターの穴場だからさ。たまに一般人が間違ってこっちに来て、大変なことになるんだ。だからここは別名、パニック広原って名前で知られてる」
そんな所に俺たちを連れて来るんじゃねえ! こちとら一般人だぞ!
いやまあ、行きたいって志願したのはこっちなのかもしれないけど、普通こんな所に連れて来るか?
「見晴らしいいでしょ? 隠れられる所とか無いから、モンスターに見つかったらもうアウトなんだよねえ」
「え? でもモンスターは何処へ」
「ほら、見て」
穴の中から見たことの無い生き物が出てきた。
え!? 怖! モグラか何かですか!?
「こいつらはこうやって、穴の中に居るのさ」
「えええええ! ちょ! こんなのどうすれば!?」
「そこなんだよねえ。あいつら逃げ足早いしさあ。俺も手を焼いてて。でも、君たちならやれるんじゃない?」
「そんな無責任な! うわあ!」
そのモグラっぽいモンスターは、俺たちの方へ襲いかかる。危ね! それにでかいし怖! こんなの相手にするのか? 命がいくつあっても足りねえわ!
「おっもしれえ! あたしが相手だ!」
「おい! リルン! 考え無しに突っ込むな!」
「あたしにはこの鎌がある! こいつがあれば、あたしは無敵だぜ!」
そう言って、リルンはモンスターに突っ込んで行った。思いっきり高く飛び、棒を鎌に変化させてそのまま振り下ろす。
モンスターを仕留めたか、と思いきや、そいつは穴の中に潜ってしまった。
「ちっ……逃げ足が早い奴だな」
「リルン! 危険だ! 戻って来い!」
「次は何処に出てくる? 右か? 左か? それとも……」
その時、リルンの背後にあった穴からモンスターが出てきて、リルンに襲いかかろうとした。
「やっぱり後ろだよな!」
リルンは振り向いて鎌を大きく振るが、モンスターはまた穴の中に潜ってしまう。
「なんなんだよもう!」
随分とご立腹のようだ。全く、血の気が多い奴はこれだから困る。
「あいつ……! 戻れって言ってるのに」
「そんなに気になるなら、自分も戦えばいいじゃない」
隣に居たネトムが、俺にそう言った。
ネトムはリルンの鎌が気になるらしく、さっきからずっと鎌を目で追っていた。
「戦うって言ったって……あんなん無理だろ! 普通に!」
「でも、あのリルンって子、気になるんでしょ? だったら自分も参戦すればいい」
「簡単に言うなよ!」
いくら俺が特性持ちでも、モンスターに通用するとは思えない。今まで特性を行使してきたのは、あくまでも人間だ。人間の範疇で力を発揮していた。
果たして、俺はモンスター相手でも特性を発揮出来るのか? あんな恐ろしい化け物に、俺なんかが敵うのか?
「あの子、持ってる武器は立派だけど、使いこなせてないね」
「え?」
「ほら。鎌を振りかざしたあと、身体がよろけてる。やっぱ、あんな小さな子があんな大きい鎌振り回すのは無理があるのかなあ」
「何言って……!」
「まあ、あの武器に苦労しているようには見えないけどね。でもいつまで持つかなあ、もしかしたら死んじゃうかもよ?」
リルンが死ぬ。有り得る事実に、俺は驚愕した。
当たり前のことじゃないか。あいつだって人間だ。だから、無茶をしすぎると死ぬ。あんな風に勇敢に戦っているけど、一歩間違えればあいつは死ぬんだ。
何故こんな当たり前のことに気付かなかったのか。色々なことがあって、感覚が麻痺しているのかもしれない。
俺は、リルンにもらった剣を手に取る。
「おっ? やる気になった?」
「……あいつを、死なすわけにはいかねえからな!」
俺はそのまま飛び出した。
リルンとモンスターは相変わらず攻防を続けていて、激しい戦いが繰り広げられていた。しかしモンスターの動きが早い分、リルンが不利のように見える。
またリルンが仕留めそこなかった。モンスターは素早く穴に入る。
「リルン! モンスターをこっちに追い込んでくれ!」
「はあ!? あたしに指図するんじゃねえよ!」
「ああもうわかったよ! お前はそういう奴だよな! じゃあ仕留めるまで死ぬなよ!」
リルンと連携してモンスターを倒すことは無理そうだ。あいつには協調性というものがまるで無い。ちょっと前まで集団に属していたとは思えないほどの、横暴な身勝手さだ。
ならもう、こっちも勝手にやらせてもらうしかないな。
あのモンスターの動きには規則性がある。攻撃する時は、必ず相手の背後から襲う。少し危険だが、リルンには囮になってもらおう。
「ああもうこいつ! すばしっこいなあ!」
リルンの攻撃がまた外れた。次はまたリルンの背後から襲ってくるだろう。
俺は先回りしてリルンの後ろに立ち、モンスターの出現を待った。
そして、
「来やがったな……!」
案の定、俺の目の前に現れた。
俺は二本の短剣を握りしめ、モンスターの首に当たる部分目掛けて振る。
(攻撃が当たった!)
しかしモンスターは体制を立て直し、また穴の中に潜る。
「上手くいったと思ったのに……!」
「トウマ! あたしの獲物を横取りするんじゃねえよ!」
「お前一人じゃ心配で……!」
「はー!? あたしを信用してねえってことか!? 第一、お前特性はどうしたんだよ!」
「えっ……」
そういえば、あの時のように力が溢れてくる感じは無い。
特性が使えないってことか? やっぱり、モンスター相手には特性が発動しないとかいう……
(俺は一体、どうしたんだ?)
リルンと言い争っていると、またモンスターが現れた。モンスターは俺たちに向かって突進してくる。
「危な……!」
俺はすんでのところで避けたが、リルンは間に合わずそのまま吹っ飛んだ。
「リルン!」
リルンは倒れ、俺は恐怖のあまり動けなくなる。
あのリルンに限って、死ぬはずはない……そう、死ぬはずはないんだ。なのに俺は、地面に倒れたままのリルンを呆然として見つめていた。
モンスターは軌道を変えて、俺の方に突進してくる。それなのに、俺は一歩も動くことが出来なくて。モンスターなんか目に入らなくて。
感じたのは、恐怖、絶望、そして怒り。色々な感情がごちゃごちゃになって、俺を襲ってくる。
感情に押し潰されそうになる瞬間、俺は凄まじい力を自身に感じた。
リルンが倒れたことが信じられなくて。リルンが死ぬかもしれないなんてことが信じられなくて。リルンを吹っ飛ばしたあのモンスターが許せなくて。
俺は剣を握った。
モンスターが俺にぶつかる直前、俺は二本の短剣をそいつに振った。手応えが違う。さっきとは違って、今度は「斬った」という感触がある。
そいつは倒れた。その瞬間急に力が抜けていった。
「! あ、リルン!」
俺は思い出したかのようにリルンに駆け寄る。
鎌を持ったまま倒れたリルンは、あちこち傷だらけだった。
「トウマ……」
「リルン! よかった……生きてたか……」
「あいつは……?」
「俺が倒した。本当に、無事でよかった……」
安堵の息を漏らす。そしてリルンは起き上がり、
「何、手柄を独り占めにしてるんだよ!」
怒鳴った。
「あれはあたしの獲物だ! 勝手なことするんじゃねえ!」
「はああ!? おま、助けてもらったくせに何を偉そうなことを!」
「『助けてもらった』!? あたしは一度も助けなんか求めてねえよ!」
「なんだよなんだよその言い草はあ! お前一人じゃ絶対やられていただろ!」
「あたしの本気はこれからだったんだよ!」
「強がるんじゃねえ! あのまま俺が入って行かなかったらどうなってたと思う! お前は! 確実に! 死んでた!」
「なんでそんなに上から目線なんだよ! あたしを馬鹿にしやがって!」
「実際とんでもない馬鹿だろうが! この馬鹿野郎! 無茶しやがって!」
「なんだとお!? トウマ、あんたとは一回やり合わないといけねえな!」
いつもの感じで、また口喧嘩が始まってしまった。こんなことしてる場合じゃないのに。
その間、ネトムはモンスターの回収作業をしていた。
「特性持ちだったとはね……ふうん、面白いことになりそうだ」
不気味なことを呟いていたような気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます